今宵、フィッツジェラルド劇場で

2006年作品
監督 ロバート・アルトマン 出演 メリル・ストリープ、リリー・トムリン
(あらすじ)
ミネソタ州フィッツジェラルド劇場では、毎週土曜の夜、人気ラジオ番組「プレイリー・ホーム・コンパニオン」の公開生放送が行われていた。この日もロンダ(リリー・トムリン)とヨランダ(メリル・ストリープ)のジョンソン・ガールズをはじめ、常連のミュージシャンたちによる楽しいライブが行われていたが、実は、ラジオ局が大企業に買収されてしまったため、今夜で最後の放送になることが決まっていた….


ロバート・アルトマン、81歳のときに公開された彼の遺作。

万が一のことを考えて、ポール・トーマス・アンダーソンもスタジオ入りしていたというくらいだから、アルトマンの体調も決してベストではなかったものと思われるが、作品の方は、音楽を大きく取り扱った群像劇という最早お馴染みのスタイル。カントリーやブルーグラス中心だが、「ナッシュビル(1975年)」のときのような皮肉っぽい視点は比較的希薄であり、楽しく、ときにはしんみりとしたパフォーマンスを存分に楽しむことが出来る。

唯一、いたって現実的なアルトマン作品としては珍しく、超自然的なキャラクターの“デンジャラス・ウーマン”が登場するのだが、彼女の正体は死神。ラジオ局を買収した企業家のアックスマンをあの世へと誘ったばかりか、ラストシーンにも登場して誰かを連れて行こうとするのだが、結局、それが監督自身だったのだから、まあ、遺作としてこれ以上のエンディングは考えられないだろう。

主演のメリル・ストリープとリリー・トムリンは、ステージ上でカントリー・ミュージックを数曲、それもフルコーラスで聞かせてくれており、その堂々とした歌いっぷりはお見事の一言。それに比べれば、ヨランダの娘ローラ役で出演しているリンジー・ローハンの歌声などまだまだなのだが、十分に可愛らしいのでこれはこれで良しとしよう。

まあ、作品的には、こういった出演者の力量や作中で演奏される楽曲の魅力に頼りすぎのような印象もあるのだが、出演者の個性を120%引き出すのがアルトマンの最大の魅力なんだとすれば、いかにも彼らしい作品ということになるのだろう。導入部分のフィルム・ノワール風な演出に見られる彼の遊び心もとても嬉しかった。

ということで、これより新しいアルトマン作品を拝見することは出来なくなってしまった訳であるが、幸い個人的には未見の作品もまだいくつか残っている。実は、今回、彼の作品を集中的に見るきっかけとなった「ボウイ&キーチ(1974年)」のDVDも既に購入済みであり、いつ見ようか迷っている最中です。