前掛山(浅間山)敗退

今日は、日本百名山の一つである浅間山の周辺を歩いてきた。

ここのカラマツ林の紅葉が素晴らしいことは予てから耳にしていたのだが、この週末の挑戦は台風の影響で絶望的。と思っていたら、台風のコースがそれて天気は急速に回復するらしい。冬型の気圧配置が強まるという予報が気にはなるが、今日を逃しては来年送りになってしまうということで、午前5時半前に車坂峠にある高峰高原ビジターセンターの駐車場に到着。

天気予報のとおり気温は低く、風も強そうということで、カッパの上だけを着込んで5時43分に駐車場を出発する。道路を渡ったところにある登山口には“中コース”の表示があったが、後続の方に教えていただいて、無事、表コースに入ることが出来た。

人気のコースということで、岩混じりの登山道は良く整備されており、雰囲気も明るくてとても良い感じ。足元の霜柱や氷で白くなった木立が紅葉見物の気分に水を差すが、まあ、これはこれでなかなか美しく、アップダウンのあるルートを歩いて6時43分にトーミの頭に着く。

ここから浅間山の外輪山の縦走がスタートするのだが、周囲はガスが立ち込めていて見晴らしはいま一つ。水溜りに張った薄氷が割れていないところを見ると、今日ここを歩くのは俺が初めてらしく、少々の心細さを覚えながら黒斑山(2404m。6時54分)を経て7時15分に蛇骨岳(2366m)に到着。

ここまでは左手の樹林帯が強風を防いでくれていたのだが、蛇骨岳の先は吹きさらし状態。しかし、これくらいの風なら那須岳でも体験済みということで先に進み、7時41分にJバンドに着くとようやく強風から開放される。そればかりか、眼下には色とりどりの紅葉に染められた賽ノ河原が広がっており、とても幻想的。

下りきった頃からガスもだんだんと晴れ上がり、黄色く紅葉したカラマツ林が一層美しく見えてくる。そんな中を歩いて8時9分に前掛山登山口を左折すると、いよいよ浅間山への最後の上りが始まるが、高度が上がるに連れて再び風が強くなっていき、軍手をつけただけの両手が凍えてくる。

8時44分に立入禁止の表示のところに着くと、現在、登頂することが許されている前掛山はもう目の前。しかし、かまぼこ型のシェルター(8時46分)を過ぎて稜線に出ると、そこには物凄い強風が吹き荒れており、思わずその場に立ち尽くしてしまう。前を見ると、俺の20〜30mくらい先を行く先行者の方も難渋しているようなので、とにかく一度シェルターまで引き返して装備を整えることにする。

さて、シェルターの中でザックに入れておいたフリースとニット帽を身に着け、持参した熱い紅茶を飲んで体を温めていると、先ほどの先行者の方が入ってくる。どうやらこの方は俺が登頂を断念したと思い込んで御自分も途中から引き返してきたようであり、俺と一緒にここから下山するつもりらしい。

俺としてはまだ時刻も早いし、ここで少しでも風が収まるのを待つつもりだったのだが、話をしているうちに、冬用のグローブをつけている先行者の方が撤退するにもかかわらず、軍手の俺が登頂を強行するのは申し訳ないような気がしてきてしまい、俺もここから引き返すことに。

正直、あと15分くらいの辛抱で踏めるはずの山頂を諦めてしまうのはちょっぴり残念ではあるが、山歩きでは決して無理はしないというのが家族との約束であり、これから山頂を目指す大勢の登山客の方々とすれ違いながら、9時30分に登山口まで下りてくる。

ここを左折し、湯ノ平口(9時42分)を右に入ると、本日最後の難関である“草すべり”の急斜面が待っている。ちょっと意外にもここを下りで使う方々も少なくなく、すれ違うために立ち止まって後ろを振り返ると、目の前には黄・緑・白等に彩られた浅間山の姿が青空をバックに綺麗に見えている。

しかし、トーミの頭(10時22分)に着く頃には再びガスが広がってしまい、結局、ここからの眺望は行きも帰りも拝めず終い。ここでこれまでの経緯を自宅にメールしてから再出発し、今度は中コース分岐(10時27分)を右に入って、11時13分に駐車場まで戻ってきた。

ということで、前掛山の山頂は踏めなかったものの、晩秋から初冬に入る浅間山の美しさは堪能することが出来たので、大きな不満はない。なお、下の画像ではGPSの軌跡がかなり乱れているが、これはJバンドを下った辺りで久しぶりに使ったeTrex Vista HCxが電池切れを起こしてしまい、途中からスマホに入っている山旅ロガーに切り替えたのと、帰路の中コースでルートミスを犯してしまったせいであり、まあ、いずれもお恥ずかしい話であります。

 バベットの晩餐会

1987年作品
監督 ガブリエル・アクセル 出演 ステファーヌ・オードラン、ビルギッテ・フェダースピール
(あらすじ)
19世紀後半のデンマークの小さな漁村。厳格なプロテスタント牧師の家庭に育ったマーチネ(ビルギッテ・フェダースピール)とフィリパの美しい姉妹は、父親が亡くなった後も二人きりで周囲の人々への善行に励む暮らしを続けていた。そんなある日、フランス革命によって家族を失った女性バベット(ステファーヌ・オードラン)が二人を訪ねてきて、家政婦として住み込みで働くことになる….


アカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞したデンマーク映画の名作。

前半は、マーチネとフィリパの美人姉妹それぞれの、恋と呼ぶにはあまりにも儚い若かりし日のエピソードが描かれており、正直、どうってことのない地味なストーリーなのだが、美しい映像と仄かなユーモア感が漂う雰囲気とで決して見る者を飽きさせることはない。

結局、この姉妹は結婚もしないまま静かに年老いていくのだが、そんなある日、バベットが一万フランの宝くじに当選し、その金を使って姉妹の父親である牧師の生誕100周年を祝う晩餐会を開くところから本作の怒涛のクライマックスが始まる。

いや、クライマックスといっても、バベットがフランスから仕入れてきた食材を料理し、10名足らずの人々に本場のフランス料理を振舞うだけなのだが、見たこともない食材に恐れをなした地元の人々がそれから魔女の料理を連想してしまうというギャグや、食事が進むのに連れてバベットの秘められた過去(=かつてはパリの有名レストランの女性シェフだった。)が次第に明らかになっていくというミステリイなどが渾然一体となって、実に見事な盛り上がりを見せてくれる。

まあ、魚の干物と固いパンという禁欲的な食生活を送ってきた人々にとってみれば、この贅沢な晩餐会はある種の堕落なのかもしれないのだが、皆が敬愛していた牧師の生誕100周年の特別な日ということで、神様もきっと見過ごしてくれるだろう。

ということで、バベットが料理を“芸術”として捉えているところが興味深く、確かに人々を幸せにするという面からすれば音楽や絵画と共通するところは多い。でも、あの晩餐会で一番幸せだったのは、久々に自分の能力を披露することができたバベット自身なんだろうと思います。