あるる 2

結果として、彼らは6人のレビュー受け、そのうち4回を見ることになった。

前半2つは友人のSが引き受けた。
写真についての知識はほとんどないし、レビューも初めて。
だから、基本は「言ったことをそのまま訳す」というスタンスで臨むことになった。
しかし、それはなかなか大変なように見えた。
私は外から記録係としてみているだけなので、レビュワーの質問意図と答えがズレていることがよくわかった。
どんどん、事前に話し合っていた内容からずれていってしまう。
もどかしい1人目だった。
しかし最終的に
「プロジェクトとしては面白いので、別のパターンでも見てみたい」
「家族でやっているのも珍しく、興味深い」
とコメントをもらえたので、すかさず
「新しいものを作ったら見てもらいたいので連絡先を教えて欲しい」と伝え、名刺をもらうことができた。
Pさんの強みは、コツコツ続けられること。
連絡を続けていたら、何かつかめるんじゃないかと思った。

Pさんは撮影者として強いこだわりを持っていたので、ズレが生じたように感じた。
そのため、次はディレクション担当だったFに話をしてもらうことにした。
コンセプトも彼が練っていたので、きっとよく伝わると思った。

2人目のレビュワーはP親子が一度電車の中であっていた人だった。
これは逆効果だったみたいで、早くも「他にはないの?」が出てしまった。
事前には話していなかった部分も細くしてみるが、
「哲学ではなくて、写真の話がしたい。」
「どんな人生があって、どんな人か、一緒に仕事をしていけるか。そういうことを知りたい」
と言われてしまった。
話さない方が良いだろうと思って避けたことを、彼は求めていたように感じた。
今回はPさんが話した方が良かったのかもしれない…と思いながら20分はあっという間に終わってしまう。

伝えたいことはたくさんあるが、まとまらない。
一本の筋が通らないので、伝わらない。
もどかしい夜だったが、救世主が現れる。
写真家であり、YPFのオーガナイザーでもあるC氏。
3人目のレビューの通訳をしてくれ、そこから問題点を見つけていったようだった。

彼はとことんP親子と向き合い、ヒアリングを続けていった。
その結果、本当の底にあるようなもの、芯のようなものをつかまえてきた。
写真に関しての彼の情熱は本当にいつも驚かされてしまう。
そして、それに合わせて再度写真を組み替えたりした。

私はそれを軸に、翌日のレビューを翻訳することになった。
(Sが次の目的地に向けてアルルを出たため)

ざっくりと言うと今回のレビューは”アニミズム”と”時”が軸になっていた。
4人目のレビュワーはスイスの人だったからか、山岳信仰の話をすんなりと受け入れてくれたように見えた。
でも、今度はデザイン的な話として、
「なぜこういう撮り方をしているのか?」
「白い背景であることに、意味やこだわりがあるのか?」
「この感じだとカタログのようで中に入ることができない」
作品の意図は伝わったように思えたけれど我々は「そうですね…試してみます」と言うしかなかった。

初めての通訳はひどいもんであり、終わったあとは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
まず、どのタイミングで会話を切れば良いかわからない。
途中の文章が抜けてしまうので、最初と最後くらいしか伝えられない。
きっと真ん中の部分に大切なことがあっただろうと思うのに。
あと、自分は彼らの意図をわかっているけれども、どこまで自分が説明すべきなのか、も大変難しく感じた。

次のレビューは、出先からSが最終原稿を英訳してくれたものを、頭に詰め込んでいどむことに。

5人目はパリフォトのサテライトイベントのオーガナイザー。
写真を見せた時から食いつきがよく、話もかみ合っているように感じた。
どうしても伝わらない部分は、Sの翻訳してくれた用紙を見せたりした。
Fもようやく緊張が解けたらしく(おっせーよ!)英語を交えて話していた。
最終的に、相手が名刺を取り出し、パリにあるギャラリーに紹介してくれると言ってくれた。
相手から名刺を渡されたのは初めてのこと。
社交辞令かもしれないが、これはとても嬉しい瞬間だった。

終わった後Fとハイタッチまでしてしまった。
こんなに充実感を感じたのは初めてだった。

最後のレビュワーは日本語が話せる人だったので、私は立ち会わなかった。
だけど5人目と同じように好感触だったという。
掘り返して掘り返して、本質を見つけると伝えやすく、強いなと感じた。
芯ができていれば、ぶれることは少ない。

今回何度も横でレビューを見させてもらって、感じたこと。
一度の機会で、何人も受けた方が面白い!
1人目の感想を2人目で反映してみる。
3人目でも写真を組み直したり、よりよくしていく。
少しでも、誤解なく伝わるということが、こんなに面白いことだとは思わなかった。


写真に、言葉はあってもなくても良いかもしれない。
でも、あることでさらに面白くなるなら、あっても良いと思った。

いろんな経験をさせてもらえたチームPに感謝。

・・・・・

この後、自分もヴォアオフのレビューを飛び込みで受けてみた。
「写真はとても美しいけれど、端々に気を使った方が良い。この隙間とか」
というようなことを言われて終わった。
今までだったら落ち込んでくさくさしていたかもしれないけど
そこを直したら、もっと違う見方をしてもらえるのではないか?と考えることができた。

この夏は、ファインダーの端々を見る特訓をしたいと思う……。