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BASC理事長 原耕造のブログ

2013-03-14

TPP戦争に勝ち抜く方法

13:49

いよいよTPP交渉に参加することになった。今回のTPPについては、徐々にその中身が分かりかけてきたが、一言で言うと幕末の不平等条約そのものである。既に参加している国々で決定している条項については、新たな参加国は遵守義務があるものの、条項の改定作業はしない。つまり日本が主張している聖域の項目は協議の対象にすらならないということだ。ISD条項については治外法権と同じであり、国家の主権が侵害されている。*ISD条項とは投資家対国家の紛争解決条項のこと。投資家に対し、外国政府に協定に違反する行為があった場合、外国政府を相手方とする紛争解決の手続を開始する権利のこと。

TPP交渉参加後の脱退については、現在の安倍政権のなかではあり得ない。何故ならば、安倍政権は「親アメリカ政策」をとることによって、政権持続のバックボーンとしているからだ。憲法改正、集団的安全保障、武器輸出三原則、普天間基地、国防軍等、数え上げたらきりがないがアメリカ追蹤政策が目に余る。戦後レジームからの脱却などといっているが、YP体制(ヤルタ・ポツダム体制)そのものではないか。

TPPはアメリカの経済政策の大転換であり、これまでの金融資本政策から製造業回帰による国内雇用対策であり、決して中国包囲網などではない。日米安保に基づき、アメリカが中国を敵視していると思い込んでいるのは日本だけで、中国は日本よりもアメリカ製品を買ってくれているお得意様なのだ。

このような状況を勘案すると、日本はTPPに参加せざるを得ず、例外品目は設定されず、アメリカの輸出攻勢を妨げる国内法は尽くISD条項で改正を迫られ、明治時代の不平等条約よりも劣悪な環境に置かれることは間違いない。かといって陸奥宗光のように不平等条約改正に向けて立ち向かう政治家はおらず、市民は「塗炭の苦しみ」を味わう。現在の日本の政治の仕組みでは、JAグループが選挙で安倍政権を倒したとしても、次の政権でも現在の枠組みは変えられない。変えようとすれば鳩山政権のように潰される。然らばどうすれば良いのか。座して死を待つしか方法はないのか。

私はあると思う。

これまでの私達は、「国家」が私達の命と健康と財産を守ってくれると思っていたので、反対運動を国家に対して展開してきた。特に国際間の問題については国家マターであり、国民が介在する余地は無いと思っていた。しかし今回のTPP参加によるアメリカの私達に対する攻撃を防ぐ戦い方は存在する。それは国による制度や法律というしくみではなく、市民が作る仕組みでアメリカのTPP攻撃に対抗するのである。

アメリカは第2次世界大戦中に日本国民の分析を行い、それがルース・ベネディクトの「菊と刀」という本に書かれている。著書のなかで日本人の「恥の文化」に言及し、アメリカはその文化故に日本人が竹槍で最後の一人まで戦い続けると思っていた。現に沖縄ではそうであった。しかし昭和天皇の終結宣言によって日本人はアメリカの予想をしない行動をとった。昭和天皇の玉音放送の中身は将に「堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ」という部分に代表されるように「恥の文化」ゆえに徹底抗戦を中止したのである。

文化人類学者であるベネディクトの日本分析は素晴らしいが、現在のアメリカのTPPマーケティングの発想は単純だ。安くて品質が良ければ、アメリカの商品は世界中で売れると思っている。そこにはベネディクトのように相手国の歴史や文化の分析が無い。私達がアメリカのTPP攻撃から身を守るためには、私達、日本人の「文化」をもって戦えば良いのだ。それは国家が造る枠組みではなく、国を離れた市民の判断と行動によって造られる仕組みなのだ。国家がつくるとISD条項で潰される。

戦い方の基本はアメリカの思惑である商品経済の土俵に乗らないことだ。アメリカは総てを商品マーケティング戦略で攻めてくる。そこで価格や品質で戦おうとしても無理が生じる。つまり金銭に換算できない部分での市民のコンセンサスを作ることが大切になる。

農産物については、国産だから安全で安心だというコンセプトは商品経済の土俵であり、これでは戦えない。現にJAS有機農産物は輸入品だけが増加しているのは、そこに原因がある。国産農産物が生産される農地や農産物が造られてきた歴史や文化の大切さを市民が認識すれば、安くて安全な輸入農産物に充分に対抗できる。

私が現在展開している「田んぼ市民運動」は、将に米という商品を売るのではなく、米を作っている「田んぼ」が多様な生きものを育んでいるという認識を共有することなのだ。農家と消費者が共通の認識を持った時点で、商品経済の関係から脱却し、新たな絆が構築されるので、そこにアメリカの輸入JAS有機米が入り込む余地は無い。そこでは田んぼの生きもの調査が新しい関係性を構築している。運動に参加している市民は消費者ではなく、日本の国土である水田を守るという地域活動に参加しているのである。

これは米だけでなく、麦、牛肉、乳製品、砂糖でも同じような取り組みが展開できる。麦や砂糖大根のような畑作作物は生産性だけを追求するだけでなく、地域環境との関係性やその食文化の歴史等に対する認識を共有する活動を展開する。畜産についても経済性を重視した輸入穀物による飼育から転換し、家畜にストレスを与えない飼育や地域の環境を活かした飼育、新しい料理文化を提案してゆけば、新しい関係性を構築できる。ちなみに私達は家畜のストレス調査も実施している。

遺伝子組み換えもJAS法による表示がISD条項に抵触するのであれば、市民が流通に対して任意表示を求める運動を展開し、その仕組を市民の手でつくればISD条項に対抗できる。BSEの月齢問題も同様で、遺伝子組み換えの仕組みを市民がつくれば良いのであって、そうすれば30ヶ月以上の牛肉がアメリカから輸入されても対抗ができる。市民皆保険も市民の手で市民健康保険を守る仕組みをつくれば対抗できる。

このようにアメリカが仕掛けてきたTPP戦争に対して、私達は市民として守る仕組みをつくることが大切で、国に文句を言っている時代は終わったのである。私はブログでスイスの国防のことを書いたが、市民が地域から立ち上がることが大切であり、政治家や官僚に任せる「縦の社会構造」の時代は終わった。一人ひとりが自分の住んでいる地域から活動を展開する「横の社会構造」が今、必要とされている。

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