「小僧シリーズ」 あとがき

落語に「藪入り」の話がある。話の筋書きはさておいて丁稚が待ちに待ったのが「藪入り」で、1/16と7/16の年に二回だけの休暇に親元に帰省するのが許された。当時は通常の商家の子は10歳を過ぎると奉公に出る。平成の平和な世の中では到底考えられない制度だが貧農や日雇いの娘も10歳に満たないころから子守や女中奉公に出た。熊本県の「五木の子守歌」など辛く苦しい心情を綴った子守歌が日本各地に残っている。今なら児童虐待労働基準法違反もいいところだろう。「藪入り」落語の名人、古今亭志ん生もその一人だった。江戸時代から戦後にかけて続いた丁稚小僧の制度はやや緩和されたといえ住み込み、休暇、小遣いなどは以前と変わらず商いや技を手に付けるために奉公した。当然小僧はサラリー、ボーナスの類は旦那の小遣いで正式の給料でなかったが、色々教え頂き奉公を終えた喜びと達成感は何事に代え難く、主人に感謝している。「苦労は買ってでもせよ」と言う。本当に実感として思う。丁稚制度はもう二度とないが体験は得難いものだった。人生の基礎は小僧の頃に磨かれた商法、忍耐、創造、義理人情、礼儀作法・・数えられた教育にはきりがない。14歳で上京し帽子屋に就職したのは自分の天職であり生涯休みなく働き、それが現在の健康、財産に繋がって今こうして晩年を恙なく暮らせるのも若き日の褒美と思う。人生ウン十年の決算書が黒字で終えれば云うこと無し!小僧万歳と叫びたい!ps二編に亘った小僧シリーズはこれで終わらせていただきます。今は死語となった丁稚小僧ですがボクには貴重な体験でした。拙文を読んでいただき本当にありがとうございました。