「イグルー」をつくる  ウーリ・ ステルツァー

イヌイットが狩猟での移動生活の際使う住居、「イグルー」を作る過程を追った写真絵本。雪に閉ざされた地域で生活するイヌイット達の、暮らしの知恵から生み出された住居形態が、イグルーである。日本の雪国の雪洞「かまくら」をイメージするといいかもしれない。
のこぎりで丁寧にブロック状に雪を切り出していき、それを積み重ねていく。その積み方が平行ではなく、スパイラル状に積んでいくのだ。その工法には、長年の知恵が詰まっている。
この本は、最初の切りだしから完成までを、モノクロ写真で忠実に伝えるものだが、実に面白い。シンプルで美しいアートブックである。

「雪の絵本」 神沢利子

児童文学作家、神沢利子さんが編集した「雪にまつわる話」を集めたアンソロジー
「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪降りつむ」で有名な三好達治の「雪」という詩。また、宮沢賢治の「永訣の朝」、童話「雪渡り」など、雪を題材にした詩や物語を紹介し、神沢さんが解説している。
雪に関するエッセイを集めた章で、下総は古河(今の茨城)の城主、土井利位が天保三年(1833年)に描いた「雪華図説」を紹介。この殿さま、雪に興味を持ち観察し、自ら筆をとって雪の結晶を描いたそうだ。これは、当時の西欧の研究者に比べても見劣りしない立派なものだったらしい。土井利位は、オランダから輸入した顕微鏡で20年に渡り観察したというのだから、かなりの労作だ。
「雪華図説」は、雁皮紙木版刷りの小冊子。86個の雪の結晶が描かれているらしい。オリジナルを見てみたいものだ。

「魔法のことば」 柚木沙弥郎/絵 金関寿夫/訳

これは、「魔法としての言葉-アメリカ・インディアンの口承詩」(思潮社)の中の一篇、金関さんの名訳で知られる詩を絵本にしたもの。エスキモーの人々に伝わる詩で、星野道夫さんも好きだったものだ。
「ずっと、ずっと大昔 人と動物がともに この世にすんでいたとき なりたいと思えば 人が動物になれたし 動物が人にもなれた。」
ネイティブアメリカンの口承には、このような話が多い。人が動物と共に暮らしていたのだ。例えば、ポール・ゴーブルの「野うまになったむすめ」は、こんな話。嵐の晩、馬の群れに連れ去られた娘が馬たちと山で暮らし、1度は村に帰るが馬たちのことが忘れられず、また群れに戻った。そして、時が経ち、村人が探しにいくと、娘は美しい雌馬に変わっていた。本当かどうかは知らないが、かつて動物達と共に大地で暮らしていた人々は、それを信じる力を持っていたのだ。

「自給自足の本」 ジョン・シーモア 著 宇土巻子 藤門 弘 訳

この本、初版が1983年だから、静かなロングセラーと言える。
藤門弘が、「アリスファーム」を岐阜県有巣の里で立ち上げたのが、1974年。そして、北海道に移ったのが、1983年。その時に、この本が出版された。まさに自然生活を実践している藤門夫婦が訳したので、本書の内容を的確に忠実に伝えることに成功したのだと思う。
内容を簡単に言うと、自給自足に関するノウハウが書かれた本である。書かれている範囲が広範囲で、農業、林業、畜産業。作業工程がわかりやすいイラストで説明されている。見聞きしたものではなく、実体験に基づき試行錯誤した結果である。現代は、言うまでもなく各分野が専業化されており、農業でもこの作物は詳しいという人はいるだろうが、こんなに広範囲に渡り知識と経験のある人は、どのくらいいるだろうか?読み物としては、大変面白いが、実際行動に移すには、やはり本を読んだだけでは無理だろう。しかし、行動を起こす、きっかけになれば良いと思うのである。

「モミの手紙」 ロバート・フロスト 作 / テッド・ランド 絵

詩人ロバート・フロストの短編に挿絵をつけた絵本。物語の舞台は、年末のあるアメリカの農家。突然の来客、その男は、自ら「町の商人」と名乗り、クリスマス用の商品を探しにきたと言う。ほしいのは「クリスマスツリー」。その農家の所有する山には、見事なモミの木がたくさんあった。そのモミの木が、商人には「クリスマスツリー」に見えるのだ。農家の男は、売る気などないが、つい口から出たのは「お望みの木はありますか?」
そして物語は、意外な方向に向かう・・・。ここで商人は、「文明人」の代表、農家の男は「自然」の代表として扱われている。「大切なこと」は何でしょうか、と考えさせる。自然描写も豊かで、短い言葉で感情の起伏をなぞる。お話としても優れた短編小説に仕上がっていると思う。クリスマス絵本の秀作です。

「シンプルという贈りもの」ビル・コールマン 著 青山 南 訳

とてもとても美しい写真集。アーミシュの人々の生活を写したもので、1頭立ての馬車、シンプルで美しい調度品、農作業風景、戯れる子供たち等が収められている。それらは、まるで映画のワンシーンを切り取ったかのようだ。著者は、もう25年以上も彼らを撮り続けているという。長いつきあいがあったからこそ撮れたのであろう。これ、狙って撮れるもんじゃないな、と思うショットがいくつもある。
アーミシュの人々の存在を僕が知ったのは、映画「刑事ジョン・ブック」である。映画そのものも、素晴らしい出来であったが、中に登場してきた彼らの生活を興味深く見た。現代文明と離れた暮らし、電気を使わない生活、もちろん自動車も乗らない。頑なに守る信条に根ざしたライフスタイル。現代アメリカでそのような生活を送る彼らは、僕から見れば驚異であり、憧れだ。この写真集、田園風景が美しい、夏も冬もそれぞれ表情豊かに写っている。そして、子供たちの笑顔がとても良い。

「ヴァージニア・リー・バートン-「ちいさいおうち」の作者の素顔」 バーバラ・エルマン

これは、ヴァージニア・リー・バートンの伝記です。「ちいさいおうち」という普遍的な名作絵本を描いた作者の人生、その家庭環境、背景には何があったのか、とても興味深い内容です。破天荒な母親が「反面教師」だったことは大きい。ヴァージニアが16歳の時、母リーナは、24歳年下の男と同棲し家を出て行ったのだ。思春期に襲った衝撃を和らげるため、ヴァージニアは、エネルギーを美術に集中させる。そして、カリフォルニア美術学校の奨学金獲得。そこでの勉強がのちの彼女の基礎を作った。
このノンフィクションは、ヴァージニアの学生時代の生活から、その後生み出した作品の創作過程まで丁寧に記録してあり、また豊富に写真、イラストを載せ読みやすい形に仕上げている。最後の作品が、「せいめいのれきし」であったことは必然的なことだったのだ。