水星の近日点移動(5)
前回の (1) 式を で割った式
から の項を落とした式を書き換えて
まで計算したのだった。
の項を復活させると
見やすくするために
として、u を y で書き改めると
ここで
とした。
で、この形になれば を摂動項と見なせることは明白だ。
(3) を振動子の方程式と見て、釣り合いの位置 の周りで展開する。 の値は後で決めることにして
とすると (3) は
となる。ただし、正の実数 γ, ω を導入して
とした。
は釣り合いの位置なので、(6) の右辺の の1次の項の係数は 0 になる。
これから
これを (8) に代入して
同様に (7) から
(9) により (6) の y' の1次の項が落ちるので、書き直すと
いくつかの文献で採用されている方法にここではひとまず従って、(13) の の項を無視してしまうことにする。
この方程式の解は、φ の原点で y' が最大になるように初期条件を選べば
(2)(5) と u=1/r により、r の式に直すと
とすれば
これを無摂動の場合の解、前回の最後の式
と比較する。
まず、(10)(11)(12) により
なので、軌道のパラメーター が摂動の影響でわずかにずれることが分かる。
より重要なのは、(14) で cos の中身に余分の ω がかかっていることで、この影響で太陽水星間の距離 r が最小値を取ってから次の最小値になるまでに φ が 2π/ω 動くことになる。r が最小値を取る点が近日点だから、これは水星が近日点を迎えてから次の近日点を迎えるまでに、2π/ω ラジアン回転するということを意味する。回転が2πラジアンなら丁度同じ点に戻ってくるので、その差
の分だけ、近日点が水星の公転と同じ方向に移動する、つまり前進することになる。
(11) を使って
(4) により結局
結果を、太陽質量 M、水星軌道の長半径 a、離心率 e で表しておく。
以下、面倒なので の項は省略する。
*1 を (17) に代入して
δφ は1公転ぶんの近日点移動なので、これを公転周期 T で割れば単位時間当たりの近日点移動 Δφ が求まる。
ケプラーの第3法則より
だから
として計算すると(AU は天文単位)
一般相対論的な効果によって、水星の近日点が100年間で43秒前進するというよく知られた結果を得る。
最後に (18)(19) を導くのに使った近似について書いておこう。
ただし、水星が他の惑星から(相対論的な摂動より1桁程度)大きな摂動を受けていることや、観測精度には目をつぶっておく。
(i) 観測される軌道のパラメーターは摂動を受けたあとのもの ((16) の みたいなもの) だが、それを無摂動時のパラメーター と同一視している。
(ii) 近日点移動や (13) で落とした y' の3次の項の影響で、厳密には楕円とは言えない軌道を無理やり楕円と考えている。
(iii) ケプラーの第3法則を導くときに相対論版の角運動量保存則 を使うのだが、このときに固有時 s (つまり水星に置いた時計の刻む時間)と座標時 t を同一視する近似をしてニュートン力学版の第3法則の形にしている。
これらによって持ち込まれる相対誤差は (i)(ii) が 、(iii) は v を水星の速度として で と は同程度の大きさ。
結局、(17) がもともと持っている相対誤差 を考えると、これらの誤差は無視して問題ない。
*1:近日点距離 q、遠日点距離 Q はそれぞれ (15) の最小値、最大値なので 。長半径はこの平均で 。