タクシー問題について


 新年明けましておめでとうございます。
 突然ですが、いま塾生の間で、「タクシー」ブームが起きています。
 これはじつに興味深い話題です。2つ下のエントリでタクシー問題を紹介されている藤井教授は、国交省の審議会等でも積極的に発言されています。
 数日前、日経新聞が下記のような「タクシー規制強化」反対の社説を書いていました。

 問題多いタクシー規制強化(12/26)
 http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20081225AS1K2500225122008.html


 国土交通省がタクシーの規制強化に乗り出す。新規参入の要件を引き上げるほか、台数が増えすぎた地域では減車を促す措置も講じる。現状に様々な問題があるとしても、それは業界の自主努力で解決するのが本来の道筋だ。過度の行政介入は望ましいものではない。
 (略)
 業界の自助努力も欠かせない。供給過剰は無理な増車に走った業界が招いた事態である。これを解消するには、身を削るリストラか、需要を増やすための営業努力が必要だが、その取り組みは十分だったのか。
 自分の責任は棚上げし、苦しくなれば規制強化や値上げを政府に求めるのでは、利用者の理解は得られまい。運転手の待遇改善についても、労使の協議でできることはまだ残っているはずだ。雇用状況が厳しくなるなかで、新規参入や増車を制約すればタクシー運転手への転職という選択肢を閉ざすことにもなる。
 (略)


 「自分の責任は棚上げし、苦しくなれば規制強化や値上げを政府に求めるのでは、利用者の理解は得られまい」と言われると、たいていの人は「業界ってのはなんてわがままなんだ! 自由競争しないなんてけしからん!」と、日経新聞に賛意を示すのかも知れません。
 しかし、それはまったく間違っています。私はタクシーについては素人ですが、庶民感覚で素朴に考えても、利用者としては競争とか何とかよりも、タクシーの運転手に無理せず仕事をしてもらわないと恐いですよね(笑)


 まずは藤井教授が書かれた新聞コラム(2つ下のエントリからリンクが貼られているもの)を読んでいただきたいと思います。そして、このタクシー問題では豊川博圭氏という方のブログが大変鋭い内容で、勉強になるので必読です。
 今回の日経新聞記事に対しても、すぐに反論を書かれていました。

 日経社説の知能の低さ
 http://footcall.blog24.fc2.com/blog-entry-115.html


 (略)
 この論説委員は明らかに規制改革会議方面から吹き込まれて一方的な論説を書いていますけれど、タクシーの問題は構造問題であり、個々のプレイヤー(事業者、乗務員)がどうこうできる問題ではないという基本の基本が分かっていないようです。
 (略)


 規制緩和論の不毛さについて、豊川氏はブログ全体を通してさまざまに批判されています。また、ノルウェーの鯖漁業とタクシーとか、規制緩和とモラルハザードとか、医師不足問題とタクシー問題とか、規制改革会議の論理破たんとか、EV導入の可能性とか、素敵な運転手さんの泣ける話とか、農村文化とタクシー市場とか、テーマ設定が多様で、「タクシー業界」という範囲に留まらない示唆も多く非常に勉強になります。


 タクシー問題というのは、大雑把に言えば「規制緩和が失敗した」ことの実例の一つのようです。あらゆる規制改革に反対する必要はないでしょうが、このところすっかりイデオロギーと化してしまった「規制緩和論」「構造改革論」「小さな政府論」を懐疑し、冷静な議論を行うためのきっかけの一つになり得る、きわめて重要なトピックだと思われます。