『ニッポンの思想』と『ストリートの思想』

前者は佐々木敦氏の本、後者は毛利嘉孝氏の本です。(後者のリンクを張っていないのは、まだはまぞうで検索結果が出なかったからで他意はありません)

ニッポンの思想 (講談社現代新書)

ニッポンの思想 (講談社現代新書)

この二つ、ちょうど同じ時期に出たのは、偶然ながらとてもよいことだと思いました。
みなさん、ぜひこの両者を並べて読んでみてください。前者も後者も浅田彰と1980年代から始まっているにもかかわらず、じつに対照的な「思想史」を描いている。活況を呈しているらしいくせに見通しにくいと言われたゼロ年代の思想の光景ですが、この二冊が同時に出たことである種の立体的な見通しが得られ、初学者や編集者のみなさんにもとても理解しやすいものに変わったのではないかと思います。これは歓迎すべきことです。
ちなみに、基本的には前者は東浩紀派(?)肯定の本、後者は否定の本です。毛利氏は同書の冒頭で「ストリートの思想」と「オタク的な思想」を対比し、後者をはっきりと批判するところから議論を始めています。
ここで批判されているのが*1ぼくや『思想地図』であることは明らかですが、しかし、ぼくは毛利氏の筆致には党派性は感じず、むしろすがすがしい気がしました。毛利氏とは確か数度お会いしたことがあるはずで、どこかで対話できたらよいな、と思います。
ぼくは必ずしも、「オタク的な思想」が、そこで毛利氏が総括しているほど貧しいものだと思っていません。また「オタク的な思想」がストリートや政治と無縁とも思っていない。
ただ、つい最近まで、「オタク的な思想」のツールがそのような話題を扱えるところまで熟していなかったこと、またぼく自身が、批評市場の活性化のためにそのような話題を戦略的に避けてきたことは確かです。その点には理由もあれば反省もあります。それらの状況判断を含めて、あらためて有益な対話ができるのではないか。だれか、対談・鼎談でも組んでみませんか。
この話題、ブログでやるとすぐ消費されてしまうので、週刊朝日文學界の連載で続けようと思います。

*1:といってもわすか2頁なので、論壇プロレスを期待するひとは読まないほうがいいでしょう。そういう本ではありません。