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2010-01-29

公訴時効廃止とか

殺人罪など重大な事件についての公訴時効の廃止が問題となっている。

 骨子案は、法務省の公訴時効の見直しに関する勉強会が昨年7月にまとめた報告書に沿った内容だ。人の命を奪った罪のうち、特に重い罪は公訴時効を廃止し、それ以外はおおむね時効期間を2倍に引き上げるとした。

 具体的には、殺人などの「死刑に当たる罪」の公訴時効(現行25年)は廃止し、強姦致死などの「無期懲役禁固に当たる罪」は現行の15年を30年に延長する。その他の罪は、傷害致死危険運転致死は現行の10年を20年に、自動車運転過失致死や業務上過失致死は現行の5年を10年にそれぞれ延長するとした。

 また、これらの見直し策を、施行前に発生し時効がまだ成立していない事件に適用するかどうかについて、骨子案は「適用するものとする」と明記した。例えば2000年12月に発生し、時効が現在進行中の東京都世田谷区の一家殺害事件は、骨子案通り改正された刑事訴訟法が、事件発生当時の時効期間である15年を迎える2015年までに施行されれば、時効がなくなることになる。

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20100128-OYT1T01001.htm

政策的な判断はおいて、法律論としては「これらの見直し策を、施行前に発生し時効がまだ成立していない事件に適用するかどうかについて、骨子案は「適用するものとする」と明記した。」というところがミソ。「施行前に発生し」という一語で「遡及処罰ではないか!」という叫び声が聞こえてくる。以前の時効拡張の改正の際は「この法律の施行前に犯した罪の公訴時効の期間については、第二条の規定による改正後の刑事訴訟法第二百五十条の規定にかかわらず、なお従前の例による。」としたので、厳密に改正後の犯罪についてのみ適用され問題にはならなかった。

この点については、法務省は憲法上の支障はないとしている模様。確かにこちらのブログで縷々述べられているとおり処罰の基礎は変更されていないわけだし、山口大先生の青本にも「訴訟法規定に関しては、新規則を適用することが原則であると解されている。」とある。

ただ、なんか時効関連で遡及処罰にあたる事項があったような・・・と思って読み進めると、「刑の加重による公訴時効期間延長については、適用される加重前の罰条を基準とする旨の判例がある(最判S42.5.19)。」要するに、訴訟手続き関連は遡及禁止の範囲に含まれないけれども、実体法の変更から反射的に生まれる不利益については遡及禁止ですよ、ということ。

確かに実体法訴訟法でスッパリ分ける立場からは説明しうる話なんだろうけど、反射的な時効延長は禁止だけど大元のところを変えるのは大丈夫、というのは何となくしっくり来ない。別に「時効自体は訴訟法の規定なので、実体法の加重によって変更されたとしても遡及禁止に含まれません」と言ってしまうことも出来るわけで、わざわざ最高裁が踏み込んで遡及禁止を選んだのは時効を遡及することについての抵抗感が強いからではないかなあと思ったり。


まあ別に最高裁が抵抗を持っているからと言って何かが禁止されるわけではない。しかし、「行動に関する予測可能性が失われ、遡及処罰の可能性によって国民の行動の自由が著しく害される」という遡及処罰禁止(不利益変更禁止)の実質的根拠から見たら、時効延長も不利益変更にあたるのではないかと思う。

前出のブログの後の方の記事が述べるように「25年逃げ回ればゆるされるというのは刑法の認めるところではない(要約)」というのも理解できないわけではないが、何年経ったら公訴時効が完成する、ということも犯罪者の期待の利益として捉えてよいのではないか。逆に、そう解さないと、行為時にすでに処罰されていた行為に対する刑罰を事後的に加重して、それを遡及適用することも遡及禁止に抵触するという解釈と平仄が合わない。「罪を犯したらこれだけ刑罰を受けます」→「こんだけの軽さなら犯してもいいよね」という期待の利益と「罪を犯したらこの期間だけ訴追されます」→「こんなすぐに訴追されなくなるなら犯してもいいよね」という期待の利益がそうそう違うものとは言えないんじゃないだろうか。

前出ブログ様は巧いので、その辺にきちんと気を配っていて「刑法は、「あらゆる殺人」を禁じているはずなのであって、「殺人をして逃げる自由」を認めた規範などと考えるべきではない」とある。しかし、刑法(というよりひっくるめて刑事法)は犯罪行為への非難の意味(「あらゆる殺人を禁じている」)と共に、それとは別に犯罪事実に対する効果の意味での刑罰を定めていると考えられるので、その効果の面から見るならば、非難の意図からすれば抵触するような期待の利益を保護することはそんなにおかしいとは思えない。というか、そう考えないと「あらゆる殺人を禁じている」以上刑罰の加重は遡及して大丈夫ですよ、という話になってしまうからね。

まあ、前出ブログ様は相当に勉強なさっているようで、刑法総論で可しか取れないような私なんぞが論戦をふっかけることはとても畏れ多い、むしろ純粋に恐ろしいのでここで一方的に言っておくだけにしておく。自分としても自分の論理が正当とはとても思っていないし、上の理屈からいくと、手続きの変更も全て遡及禁止に触れることになりうるわけで、それは流石に行き過ぎではないか、とも思う。だから法律論として「時効の遡及はダメ」というつもりは毛頭なくて純粋にその辺りの説明がどうやってなされているか分からないだけなのだが(検索して出てきた2,3ページ見ても言及していない)、こうやって疑念が出てくるような話であることに変わりはないわけである。そうならば、あくまで政策論として「こんな面倒なことせず、遡及効はあきらめたらどうなんでしょうか」と言っておきたい。


以上まとめて、自分の中ではよく分からず、論点としたいところは三点。

  • 憲法の遡及処罰禁止を手続き法には一律適用しないとする、実体法と手続法峻別の是非。
  • 刑法の趣旨、目的(犯罪事実に対する効果を予告するという面と犯罪への非難、禁止という面をどう考えるか)。
  • 時効の拡大の不利益と、刑罰の拡大の不利益は同質的か。

まあこの議論については完全に決着がついてるので論点にもならん、と一蹴されるようなものかもしれませんが。

それから、斜体は山口先生の青本の引用です。

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