2010-02-22
公訴時効廃止の遡及効(学説まとめメモ)
以前「公訴時効廃止とか」というタイトルで公訴時効廃止の遡及効について疑問を呈しましたが、この話をもう少し。とはいっても、頂いた反論に対して再反論を練り上げるにはまだまだ時間がかかりそうなので(疑問点はいくつかあるのだが、うまく言語化できない)、ひとまず様々な刑法学者の見解をまとめるのみに止めます。
なお、ここでの肯定派否定派の分類は、山口刑法総論p.16によります。山口自身は、「訴訟法規定に関しては、新規定を適用することが原則」と記すのみで、公訴時効期間の変更について個別のコメントはありません。
否定派
まずは遡及効に否定的な見解。
第一に平野。総論I p.69-70より
公訴の時効にも問題がある。現行法では殺人の公訴の時効は20年になっている。この場合犯行後20年以上を経過した後に、時効期間を延長してこれを処罰することは許されないだろう。一度,もはや訴追・処罰されないという状態になった後に、これをくつがえしてふたたび訴追・処罰できるようにするのは、不当だからである。しかし、20年が経過する前に法を改正して25年とするのだと、ただちに憲法違反というべきかは問題である。(ここでナチスの犯罪に対する公訴時効廃止の例を挙げる)公訴の時効の性質については争いがあるが、証拠の散逸という訴訟法上の理由だけでなく、犯罪の重大さに応じた一定期間の経過によってその可罰性が減少するという実体法上の意味も持っていることは否定できない。したがって、時効期間の事後の延長には、なおかなりの疑問がある。少なくとも現行法の下では、公訴の時効は常に新法によるべきではなく、刑法六条に従い、軽い方を適用すべきであろう。
ここで、反対の判例として札幌高判昭和29年6月17日を挙げる。
なお、より一般的な手続き法に関する問題については、以下のように述べる。
訴訟法上の規定については、事後法の禁止は適用されない。たとえば、行為のとき、その犯罪については、上告が許されていたが、裁判のときには上告を許さないように訴訟法が変更されたときは、上告は出来ない(最判昭和25年4月26日)。もっとも、自白に補強証拠を必要とするというように、事実認定に一定の証拠を要求していたのが、その必要がないように変更された様な場合は、単なる訴訟法の変更とはいいきれないであろう。(前掲最判の少数意見)
ちなみに、札幌高判昭和29年6月17日は、刑の変更があったことによる公訴期間の延長の事案なので、ここでの問題の本質とは離れているが、「刑の変更がある結果その罪に対する公訴時効の期間が変わつた場合には、新旧両者を比較して短い方の期間を適用すべきではなく、変更後の刑を標準として、その罪の時効期間が定まるものと解すべきである。」とする点で、最判昭和42年5月19日と抵触し、最判はこれを変更していることに注意が必要である。最判昭和42年5月19日は以下のとおり。
しかし、公訴の時効は、訴訟手続を規制する訴訟条件であるから、裁判時の手続法によるべきであるとしても、その時効期間が、犯罪に対する刑の軽重に応じて定められているのであるから、その手続法の内容をなす実体法(刑罰法規)をはなれて決定できるものではない。従って、公訴の時効が訴訟法上の制度であることを理由として、時効期間について、すべて裁判時の法律を適用すべきであるとするのは相当でない。そして、本件のように、犯罪後の法律により刑の変更があった場合における公訴時効の期間は、法律の規定により当該犯罪事実に適用すべき罰条の法定刑によって定まるものと解するのが相当である。
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次に大塚。刑法概説(総論)第三版増補版p.70より
刑の時効、公訴の時効、親告罪としての性質の変更などは、刑の変更そのものではないが、被告人の利益を考慮して軽いものによるべきである。
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最後に堀内。刑法総論(第二版)p.22より
事後法は、刑罰法規においてのみ問題になるわけではない。刑事訴訟法上の公訴時効期間の変更には、証拠が散逸し、正しい裁判が困難になるという手続き豊穣の理由と並んで、社会の処罰欲求の解消、被害者の処罰感情の緩和など、刑罰を科する必要性が薄れるという実体法上の理由があるので、公訴時効期間の延長は不利益変更にあたる。
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肯定派
はじめに団藤。刑法綱要総論p.77より
刑以外のものが変更されても(刑法)6条の適用はない。たとえば刑の時効、公訴の時効、訴訟条件としての告訴の要否など。
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次に前田。刑法総論講義(第四版)p.66
なお、刑の時効、公訴時効、訴訟条件、情状に関する規定の変更は刑の変更にあたらない。
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最後に大谷。新版刑法講義総論p.72-73
刑の時効、訴訟条件としての告訴の要否、および右の場合(公訴時効の期間等の変更)などは、刑の適用に直接関連するものではないから、6条の適用はないものと解すべきである。
素っ気ないので付記すると、大谷は刑の変更は、実質的な処罰に変更をもたらす場合をさす、すなわち刑又はその適用に直接影響を与える実態法上の規定に変更があった場合をすべて含むと考えている。「直接」影響を与えているか、という点がキーになるか。
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ざっとしか見ていないが、刑法学者が考えるところは大体こんな感じ。肯定派があまりに素っ気ないのが寂しい。形式的に訴訟法は別のものなのだから、特段論証する必要もないと言ったところか。
あとは憲法39条と刑法6条の関係、憲法39条の射程といった話になってくると思うので、憲法学者の方にも目を向ける必要が出てくるように思う(憲法学者にも一応否定派はいるようである)。
詳細なコメントはまた後ほどに。
