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2011-12-12

アド・バード

ブログ書くネタがないというわけではないのだが,どうも書いているうちに賞味期限切れのネタになってしまうものが多いので,ここは一つ,色々なところに書き散らした書評の再録でもしてお茶を濁しておこうと思う。

一つ目は,アド・バードである。

アド・バード (集英社文庫)

アド・バード (集英社文庫)

シーナワールド全開のSF三部作第一弾。

二大資本の宣伝戦争が創り出した摩訶不思議な生き物たちと,それによって破壊された都市に暮らす人間たち。

タイムマシン」における未来のような,恐ろしさを含んだ世界であるはずなのに,どこかユーモラスなのは,その生き物たちのネーミングセンスにもよるだろう。言語感覚がとにかく秀逸なのである。

ストーリーは一般的な冒険小説の体だが,あふれ出るアイディアを止められず,無闇に長くなっている感も。特に後半は無理矢理に収束させた印象があり,前半ほどの躍動感がないのが残念である。また,物語の目的である「父捜し」も,事前に結末が読めてしまうので意外性はない。

とはいっても,最後に主人公兄弟が「夕空晴れて秋風吹き」と歌う場面は,彼らの抱えている気持ちを思うと切なくなる。しかし,その切なさが直接表に出てくることはない。一抹の寂しさを感じさせつつも,あくまで,爽やかでヘンテコな冒険小説なのだ。

多神教と一神教―古代地中海世界の宗教ドラマ

多神教と一神教―古代地中海世界の宗教ドラマ (岩波新書)

多神教と一神教―古代地中海世界の宗教ドラマ (岩波新書)

古代地中海世界において人類が初めて「神」を見出したとき,それは種々の事物の中に見出された,多神教の神であった。しかし今日の世界では,人類の過半が,ユダヤ教キリスト教イスラム教という一神教の信者である。

これは何故だろうか?四千年という人類史の大半を占める古代史を解析することで,上記のような人々の心性の変化を明らかにすることが本書のテーマとなっている。古代の人々にとって宗教の持つ意味合いは大きく,宗教をめぐる人々の心性の変化を明らかにすることは,生き生きとした歴史を把握するのに必要なのだろう。

筆者は結局の所,文字,それも表音文字たるアルファベットの発明と,抑圧された環境が一神教の発達の要因であると結論する。そして,一神教の地中海世界全体への拡がりが,ポリスといった公共体の解体と個人としての信仰の出現にも関係すると主張する。

詳細は本書を読むしかないが,「多神教においては神々が人々に語りかけていたが,後にはそれが見られなくなった」との主張は難解である。また,「アルファベットの普及が論理性をもたらし,一神教への道筋をつけた」との記述と「論理ではなく個人の感覚的な神との出会いが一神教をもたらす」との記述がどの様に整合するのか,判然としない。

もっとも,その他の部分も歴史的事実を綿密に分析するというよりは,大胆な推論を繰り返す面が多く見られるから,大まかなグランドデザインを示すものとして読むものだろう。アクエンアテンの一神教とユダヤ人出エジプトを関連づけるあたりなど,実に胸が躍った。

何故地中海世界のみに一神教が生まれたのか,紀元一世紀のローマ帝国に多数流入した振興一神教で何故キリスト教が生き残ったのか等疑問は尽きないが,ひとまず古代史を見渡すに楽しい一冊である。


なお,堺屋太一は「東大講義録 文明を解く」の中で,キリスト教など地中海の周縁部で生まれた宗教の帝国への流入を,人口自体の周縁部から帝国への流入に由来するものとしているが,これも大雑把ながら少し納得させられてしまう。

東大講義録 ―文明を解く―

東大講義録 ―文明を解く―