[]弁護士を1年やっていてわかったこと

ご無沙汰しております。

弁護士になって以来、実質的な更新を全くしていなかったので、芸能界であればそろそろ死亡説も流れてもおかしくないですね。しかし、おかげさまで生きています。

都内の企業法務を主に扱っている中堅(?)事務所*1でなんとか一年やりきり、二年目に入りました。

知っているだけで同期数人が既に事務所を変えていることからすれば、ずいぶん恵まれているなあと実感しています。

業務内容は、私個人は紛争寄りで、一年で40件程度の交渉・仮処分訴訟を担当しました。内容は、やからとの交渉や債権回収から、裁判例が固まっていないややこしい分野の訴訟までとかなり幅広です。また、紛争以外にも、契約書レビューや企業の日常相談、デューディリジェンスを中心とするMA案件コンプラ案件、再生案件等も担当しています。さらに、弁護士会の研修ではありますが、刑事事件も2件担当しました。そういう意味では、同期の中でも、多岐にわたる経験ができたほうなのではないかと思います。もちろん、裏を返せば、それは専門性の浅さにつながるのですが…

とにかく、この一年は、企業法務を扱う中堅事務所のよさである、幅広く色んな経験ができるというメリットを大きく享受できたのではないかというところです。

一方で、日々の業務の忙しさにかまけて、経験したことの抽象化帰納がまったくできなかったことが最大の反省点でしょうか。また、業務外での趣味や社交にいまいち時間がさけなかったのも残念です。

さて、曲がりなりにも一年間弁護士をやってきて、気づいたことがそれなりにあります。

上に述べた通り、この一年、それらを抽象化帰納する機会がなかったので、ここでまとめてやってみようと思います。

■キャリアの長さ≠能力

 勤務を始めて衝撃を受けたのが、訴訟の相手方の書面の仕事としての完成度の低さでした。そして、それは明らかに、事実関係や法令の十分なリサーチが足りていないゆえでした。しかも、これは、キャリアの長短や準備期間の長短にかかわりなく、完成度が低い弁護士は、いつも完成度が低いのです。おそらくそのような弁護士は、勤務を開始して数年の間、きちんとした指導を受けなかったか、(意識しているかどうかは別にして、)適当に仕事をしてきたのでしょう。また、キャリア開始数年できちんとした書面が書けるようにならないと、おそらくもう改善の見込みはないということでもあるのだろうと思います。

■日々の業務の忙しさにかまけると成長はない

 私の昨年一年の勤務率*2は、おおむね43%でした。これは、やってる身としては、結構忙しい印象でした*3。そして、ある程度忙しいと、ある種の満足感ともいうべ、「やった感」を感じるようになります。また、周囲も、「○○先生頑張ってるね」と一応評価してくれます。しかし、これが危険です。弁護士は、知識を武器に戦うわけですから、業務を行うだけではなく、知識を身に着けなければなりません。特に、企業法務に携わる弁護士にとって、クライアントのために知らなくていいという法律はあまりないはずですから、絶対に勉強を続けなければなりません。日々の業務には励みつつ、勉強を怠ると、一応の腕はあるが、知識がなく、経験とそれによって得たもの(場当たり的なハッタリや交渉力)しか武器がない弁護士になってしまうでしょう。

弁護士=プロである・独立自営業者である

 弁護士は、一年目でも四十年目でも、同様にプロです。一年目は実質的にお目こぼしやハンデをもらえたりしますが、それに甘んじているようではダメでしょう。気持ちの上では、謙虚さを忘れてはいけませんが、パートナーや先輩アソシエイトとも対等であるという意識を持ち、その裏返しとして対等の責任感を持たなければなりません。パートナーのクライアントであっても、自分のクライアントだと思って接すべきですし、それが期待されるのがプロとしての弁護士であると思います。

 また、プロは仕事をやるからプロなのであり、その唯一の義務は仕事をきちんとやることです。一応上ではいい経験ができたなんて書いていますが、それはあくまでも副次的・結果的なもので、仕事は自分の成長や経験のためにやるものではありません。リクルートの面接ではそのような発言をしていてもいいでしょうが、プロになったらそんな気持ちは捨てて、クライアントのため仕事をすることに専念すべきでしょう。

 少し話は変わりますが、リクルートをやっていると、「寄らば大樹の陰」と思って大規模・中規模事務所に来る人がいます。しかし、弁護士は、どこにいても*4独立自営業者であることを理解しなければなりません。大規模・中規模事務所でパートナーになるか、或いは事務所を出て独立するか、いずれにせよ独立自営業者なのですから、いつかはサラリーマンを卒業し、自分の腕一つで喰っていかねばなりません。そのような覚悟・意識を持っていれば、「寄らば大樹の陰」なんて考えは湧いてこないでしょう。また、入所後も、「いい仕事」*5をしようという意識が先行するはずで、パートナーやボスに阿ろうなんて意識は湧かないはずです*6。いずれにせよ、弁護士は、クライアントの信頼を勝ち取れるいっぱしの弁護士になれなければ、喰っていけないわけです。

弁護士事務所ビジネスモデル

 以下は、パートナー弁護士(経営に参画し経費負担をし、主に仕事を取ってくる弁護士)とアソシエイト弁護士サラリーマンで、パートナーの仕事を下請けする弁護士)によって構成されている弁護士事務所を想定します。

 弁護士事務所の経費は、アソシエイト労働者ではなく、残業代が発生しないため、人件費含め、ほとんどが固定費と思われます*7。すると、弁護士事務所での生産量を高めるには、パートナーの生産量(仕事をたくさん取る)と、アソシエイトの生産量(仕事をたくさんこなす)を上げるべきということになります。

 生産量=生産効率×生産に掛ける時間という理解を前提とすると、アソシエイトが生産量を上げるには、生産効率と生産に掛ける時間を上げるほかありません。このことから、弁護士事務所でありがちなアソシエイト長時間労働という事態が生まれます*8。また、パートナーは、自らの生産量を上げるため、言い換えれば、アソシエイトには担当できないパートナーとしての業務(仕事を取ること*9)に集中するため、なるべくアソシエイトができるような業務は担当しないという方針を取ります。

弁護士業務の次元

 乱暴に弁護士業務の段階を分けると、以下のようになります*10

 1 仕事を獲得する

 2 仕事の分担やスケジュールを決めて、適宜指揮をする

 3 仕事の問題点を発見する

 4 仕事の問題点を解決する

 訴訟の例で言うと以下のようになります。

 1 訴訟を受任する

 2 複数の弁護士の間で、訴訟物ごとに担当を分け、取りまとめをする

 3 当該訴訟物の要件事実ごとに問題点を発見する

 4 必要な事実聞き取り、資料収集、法令リサーチをし、主張を構成し証拠を作成する

■評価されるアソシエイトとは

 以上のビジネスモデルを前提とすれば*11、評価されるアソシエイトがどのようなものかというのは簡単にわかります。

 まず、アソシエイトとしての生産量が大きい人です。これは、上記のとおり、生産効率か、生産に掛ける時間をたくさん取るかしかありませんから、いわゆる仕事ができる人、或いはモーレツ社員のような人ということになります。もちろん、生産効率が高く、かつ、生産にかける時間が長い人が最も評価されることは言うまでもありませんが、両立は容易なことではないでしょう。

 次に、パートナーの生産性向上に貢献できる人です。アソシエイトが、パートナーの生産効率向上を手助けするのは困難ですから、これは、パートナーが生産に掛ける時間を確保できるようにする人ということになります。わかりやすく言うと、パートナーが最低限のチェックさえすればいいという程度まで仕事を完成させてくれる人です。

■無難な結論=結局仕事を「回せる」かどうかが大事

 以上を前提とすると、アソシエイトとして大事な能力を一言で言うならば、仕事を「回す」能力です。

 これには二つの含意があります。

 一つは、自分に与えられたタスクを納期内に完成させる能力。この能力の内訳は、そのタスクを完成させる基礎的な能力、そのタスクを完成させるために必要な時間を見積もる能力、その時間を確保する能力(タイムマネイジメント能力)です。これは、上記の業務の段階でいうと、3や4をなるべく早く・高いクオリティで完成させる能力です。

 二つは、仕事全体を見渡し、アソシエイト間で適宜分担し、効率よく仕事を完成させる能力。これは、3や4を自ら完成させるのみならず、2まで達成できる、言いかえれば他のアソシエイトが3や4をどこまで実行できているか等に目配りしつつ、クライアントやパートナーとの調整を行い、最終的にパートナーのチェックを残すところまで仕事を完成させられる能力です。

■結局どうすればいいの?

 語弊があるのですが、「自分の事務所のパートナーやボスは法律が苦手で超めんどくさがり屋だ」と思って仕事をすることだと思います。つまり、自分ができるだけ頑張って、パートナーがちょっと見ればOKといえる段階まで仕事をやるということです。この段階まで仕事をやる癖がつけば、必然的に、そのような仕事をするための基礎的能力や、タイムマネイジメント能力は付いてくるはずです。

 抽象的なので、一例を挙げると、お客さんから相談内容を記載し、資料が添付されたメールが送られてきたとします。ここで、資料を検討して、自分で一定の結論を得たとします。そこで、パートナーに報告メールを送るわけですが、パートナーに一番ありがたいのはどういうメールでしょうか?おそらく、メールの文面さえ読めば、「事案の概要」「関連法令の概要」「結論」がわかるメールでしょう。逆に、「結論」しか書いていなかったらどうでしょう。パートナーはいちいち資料を一から読み、関連法令を一から調べなければいけなくなります。どちらがパートナーの生産量を上げるのに貢献するかは一見して明らかです*12

 こういうことを書くと、いかにもパートナーの機嫌取りで、口さがない方からは「大きな事務所は大変ね」と言われてしまいそうですが、これが事務所にとって最も合理的な行動ということになります。

 その上、普段からそういったことを意識して仕事をすれば、アソシエイトにとってもプラスがあります。他人に簡潔に報告するというのは、事案や法令をきちんと理解していなければできないことですから、仕事をきちんとやるようになるのはもちろん、法令の理解や、業務遂行力の成長にもつながります。


以上、二年目のお前が言うか?という内容ではありますが、僭越ながら書いてみました。また、言うまでもないことですが、言うとやるとでは大違いです。上の内容を自分が実践できているかというと、穴があったら…というところです。そして、このブログは基本的に恥を「書き捨てる」という姿勢のもと運営されていますので、お許しください*13

(とはいえ、特に一年目の弁護士の方なんかに参考にしていただければ幸甚です。)

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*1:地方で修習していた私からすれば、弊所は大規模事務所以外の何物でもないのですが、四大法律事務所を念頭に置いている方からは中堅と呼ばれることが多いです。

*2造語です。一定期間の時間に対し、勤務をしていた時間の比率を指します。

*3:余談ですが、私の場合、月の勤務率が50%(月労働時間360時間)を超えると、急激に仕事に対するモチベーションが落ちます。

*4:むしろ、大規模事務所の方が経費は高くなるので、逆に喰っていくのは大変でしょう。

*5:これがいったいどういうものなのかというのは、あと20年くらいすれば私もわかるようになっているかもしれません。しかし、少なくとも主観的に「ベストを尽くす」ことは必要条件であろうと思っています。

*6:一般的に、大規模事務所や中規模事務所には一定数存在するようです。

*7:私はアソシエイトなので実際のところは知りえません。

*8:これは、ビジネスモデルから必然的に帰結するという趣旨です。実際は、私含め仕事好きな人が多いとか、いろんな理由があると思います。

*9:これも、アソシエイトが仕事を取ることがないわけではないので、例外がある話ではあります。

*10:実際の感覚からすると、2と3は段階的というよりある程度同時並行的であるように思います。

*11:当たり前ですが、アソシエイト弁護士業務をこなす能力のみで評価されるわけではありません。下っ端のうちは雑務もやらなければなりませんし、事務局とタッグを組めるかどうかといった能力も重要です。とはいえ、これらの能力も結局生産効率に関わってくるもののように思うところですが。

*12:なお、パートナーもその内容に違和感があったり、リサーチに不安がある若手が作成したメールであったりすれば、自ら確認するのが通常ですので、その点を心配する必要はありません。

*13:しばらく経ってこの記事を読み、まだまだだったなあと思えるようになっていたいものです。

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he_knows_my_name
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