JASRAC vs 週刊ダイヤモンドの争点を見直してみるよ

 「週刊ダイヤモンド」に掲載された記事で名誉が傷つけられたとして、日本音楽著作権協会JASRAC)がダイヤモンド社と記者に対し損害賠償を求めていた訴訟の判決があり、東京地裁加藤謙一裁判長)は2月13日、「記事の内容は真実であることの証明がなく、また真実であると信じる理由も見当たらない」としてJASRAC側の主張を認め、550万円の支払いを命じた。

「JASRACが横暴な取り立て」は「真実との証明なし」 ダイヤモンド社に賠償命令 - ITmedia News

さてさて、JASRACはどの点について名誉毀損が生じたと訴えていたのかってところから見ていきましょう。

<主な争点>

  1. 当協会の飲食店経営者に対する使用料徴収業務につき、「横暴な取り立て」などと表現した記事が名誉毀損にあたるか。
  2. 当協会の使用料徴収・分配の基準や実態につき、「不透明」、「曖昧」などと表現した記事が名誉毀損にあたるか。
  3. 当協会の組織運営につき、「非民主的」、「まともなガバナンスも働かない」などと表現した記事が名誉毀損にあたるか。
株式会社ダイヤモンド社に対する訴訟について - JASRAC ニュースリリース

JASRACニュースリリースによると、これらのすべての主張が認められたのだとか。
このそれぞれについて、週刊ダイヤモンドの記事ではどのように表現されていたのかを、現在PDFにてWeb上で公開されている記事から見ていこう(以下、引用部分は断りがない限りこのPDFからのものとする。また、強調部分は引用者heatwaveによる。)。

「横暴な取り立て」などの表現

p56より

毎月二〇万円の赤字だったデサフィナードの経営は、機材が使えなくなったことでさらに苦しくなった。それでも「ジャスラック横暴な取り立て行為に対しては断固として戦う」という木下氏に対し、ジャスラックは氏が所有するマンションの仮差し押さえ命令を申し立てた(今月七月に仮差し押さえ決定)。

p57より

管理楽曲数二二六万曲(データベース登録数)、会員・著作権信託者は合計で一万三六〇〇人。圧倒的な規模を誇るジャスラックが、かくも強引な使用料徴収に注力し始めたのは、〇一年以降のことである。

それでもジャスラック強引な取り立ては続いている。

p58より

冒頭のような過酷な取り立てで集めたカネはどこに配分されているのだろうか。

また56ページのグラフタイトルの「強引な使用料徴収の実態」という表現がなされており、おそらくは徴収が「強引な」ものであったのかどうか、という点も争われたところだろう。

JASRACの使用料徴収・分配基準の「不透明」「曖昧」といった表現

音楽著作権管理を事実上独占
「徴収・配分」の不透明な実態

というタイトル部分がまず第一にあるだろう。
p57より

その徴収基準はきわめて曖昧だ。

だが、実際の使用料は必ずしも規定どおりではない

いったいどういう基準で利用料が決められているのか。店主やオーナーに対する明確な説明はない

一方、ジャスラックの会員(著作権者)に対して送られている徴収額の明細にも、「いつ、どこで、どれだけ使われたか」という内訳についてはいっさい報告されない

音楽喫茶やライブハウスに対する徴収基準が曖昧であると同時に、ジャスラック会員に対する配分の実態も不透明そのものだ。事実、全国のジャズ喫茶で演奏されている曲の作曲者たちに聞くと、誰一人として「生演奏の使用料が振り込まれたことはない」という。

p59より

天下り人事の問題、使用料徴収・配分の不透明な実態について、ジャスラックには何度も取材を申し込んだが、「忙しくて時間がない」(広報部}との理由で、いっさいの取材には応じてはもらえなかった。

JASRACの組織運営を「非民主的」「まともなガバナンスも働かない」とした表現

p58より

ジャスラック会員の中には、永六輔小林亜星野坂昭如氏ら日本作詞作曲家協会を中心とする「改革派グループ」がある。だが、彼らの声は組織運営には反映されない

その説明として、JASRACの理事選出方法を説明した上で、

改革派以外の候補者一人当たり十九票以上投じるように根回しをすれば、改革派の理事選出を阻止できるのである。
 これでは、自浄作用など望むべくもない。現在、ジャスラックの理事会を牛耳っているのは、演歌関係者を中心とする多数派理事。非民主的な組織運営に対して、会員のあいだには「使用料配分が演歌に偏っているのではないか」との不満も根強い。

p59より

毎年一〇〇〇億円のカネが集まり、まともなガバナンスも働かない

何が問題に?

といっても、私は法律に関しては詳しいわけではないので、この辺のことは詳しい方にお任せしたのだけれども、1つ言えることは、このJASRACに関する記事は、公共性、公益性が高いものであることを考えると、問題点としては、その真実性にあるのかなと思う(参照:名誉毀損 - Wikipedia)。
そんな風に判断すると、週刊ダイヤモンド誌上で述べられた主張の1つ1つを裏付ける明確な証拠があったのかどうか、という点が問題になるのかなと思う。
1点目については、JASRACの業務として行っている行為が、どのような事実に基づいて横暴である、といえるのか。
2点目については、使用料徴収・分配の基準が、どういった事実に基づいて不透明であるのか、曖昧であるのか。
3点目については、理事選出において、実際にそうした改革派の理事選出を阻止するような動きがあったのかどうか。
ただ、JASRACニュースリリースによると、地裁の判決では、

本件記事は,原告の名誉を毀損してその社会的評価を低下させるものであり,その内容について真実であることの証明がなく,意見又は論評としてもその前提事実の重要な部分について真実であることの証明がなく,むしろ明らかに真実ではないと認められる事実を摘示したり,それに基づく意見や論評をしているものであり,取材やそれに基づく判断にかなりの偏りが感じられ,被告らがそれを真実であるとか又は意見・論評が正しいと信じる相当の理由も見当たらないものである。そして,本件記事の表現・体裁もかなり一方的かつ独断的であり,調査不足や誤解,更には悪意に基づいて構成されているのではないかと疑念を持たれてもやむを得ないようなものである

株式会社ダイヤモンド社に対する訴訟について

と述べられたようだ。まぁ、一方的といってもJASRACが取材に応じていればなぁと思うところもある。
ただ気になる天下り問題や役員報酬問題なんかにはノータッチだったりするので、そういった部分まで否定されているわけではないということで。
個人的な意見を述べると、JASRACが音楽著作権料の徴収を行っていること自体は否定的には見ていないけれど(むしろ、JASRACのような組織があるからこそ、著作権者に使用料が配分される)、これまでのような、疑わしきはクロとして使用楽曲を問わない包括契約を結ばせていることや、著作権管理事業がJASRACの独占状態にあることなどは、改善すべき点かなと思う。
さてさて、こんな時期にもかかわらず、本日「JASRACに告ぐ」なんていう素敵なタイトルの本が公刊されたようで。

JASRACに告ぐ(晋遊舎ブラック新書 5)

JASRACに告ぐ(晋遊舎ブラック新書 5)

ビリー・ジョエルの曲をハーモニカで演奏していたバーのマスターが逮捕!? 新潟の老舗ジャズ喫茶に550万円の損害賠償請求!? 近年、とみに増加する音楽著作権訴訟。そして常にこの問題の中心にいるのが、JASRAC(日本音楽著作権協会)。だが、その情け容赦ない取り立て手法に、ネット上では批判が相次ぎ、利用者からは不満の声が噴出中。JASRAC問題の真相を追及する、魂の一冊。

面白そうだから読んでみることにする。いやいや、内容は真実に即しているのかしら?