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千倉日記

2017-01-29

五十嵐塾第2回目 「苗のしくみ」「低温育苗法」

| 21:11

 朝8時過ぎ、千倉の家で目を覚ます。いつも千倉に来たときは、やらなければならない仕事があって泊まることが多いので、ゆっくり寝られるのはありがたい。簡単な朝食をとった後、畑に向かう。最後の大根を収穫するためだ。
 今朝の畑はよく晴れていて暖かい。もう寒の底はうったようだ。もちろん、このまままっすぐ暖かくなるわけではなく、何度も寒くなったり、暖かくなったり、ジグザグしながら春に向かって行くのだと思うが、明らかに春の足音は確実に聞こえ始めている。
 畑の中に入ると、昨日来たばかりだというのに、作物たちが大きく伸びをしているような気がする。畑の中にいるだけで気持がいい。
 早速、大根を抜き始める。もう最後の大根なので、葉が枯れているものや小さいままの大根もある。このままここに残しておいてもこれ以上大きくなりそうにもないので、端から抜いていく。なかには根を地中深く伸ばしていてなかなか抜けないものもあるが、腰を沈めてなんとか抜き出す。大小含め全部で30本近くある。できれば、今日の第2回目の五十嵐塾に持って行って、もらってくれる人がいれば、あげたいと思っているのだが、どうだろう。


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最後の大根を収穫した。太くて大きなものはもうないが、数は30本近くある。

 大根のほかにはマル子さんたちが私の畑に植えたニンニクがとても元気よく葉を伸ばしていて気持がいい。暖かい陽射しに畑中の作物たちが伸びをしているのがよくわかる。

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マル子さんたちが植えたニンニクが伸び伸び葉を伸ばしていて気持がいい。

 私は、田んぼに向かう。昨日来たばかりだというのに、こちらの田んぼの小麦たちも緑を増しているような勢いがある。これなら心配しなくても小麦たちは大きくなりそうだ。

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心なしか、私の田んぼの小麦の緑が昨日よりも増したように感じられた

 私は、収穫した大根や荷物を車に積み込んで待ち合わせの道の駅三芳村 鄙の里に向かう。

 待ち合わせの鄙の里はあきれるほど混んでいた。何かイベントをやっているらしい。私は駐車場には車を停められず、農道の脇に車を停めて戻ってきた。まだ誰も来ていないようだ。ふと見ると、駐車場の横の木に昨日の勉強会で見かけた柴犬のコムギ*1がリードでつながれている。飼い主の女性はいない。私がコムギと遊びながら待っていると、コムギの飼い主の黒川さんが戻ってきた。「コムギを木につないでおけば、それがランドマークになると思ってつないでおいたの」と言う。なるほど、正解だ。続けて、昨日の勉強会で会った茨城から来たという30歳くらいの男性(南さん)や、五十嵐さんがやってきた。昨日はどんな人がくるのかわからなかったのだが、一度顔をあわせているので、今日は心強い。コムギと同じく、背の高い五十嵐さんもランドマークになるようで、私たちから少し離れたところに立っていた40歳くらいのスマートな男性も近寄ってきたので、挨拶をする、最後に、昨日の勉強会で会った20代後半くらいのショータさんがやってきた。どうやら今日の勉強会は私を含め5人らしい。五十嵐さんの車に先導されて、今日の勉強会の会場である五十嵐さんの家に向かう。
 五十嵐さんの家は山の中にあった。庭のまんなかには木の枠で囲われたプランターが6個くらい並んでいた。その左右に家があり、左側は平屋の古民家風の家、右側は2階建ての白い壁の家。2つの家が向かい合うように建っている。私たちは、五十嵐さんに先導されて左側の家に入って行く。

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左:古民家を改築して使えるようにしている。ここが勉強会の場だ。 右:五十嵐夫妻の家。トイレは外にある。男性はいいが、女性は抵抗感がある人もいそうだ。

 天井はなく、吹き抜けで、梁などの木組みが見える。木には秋田杉などと焼き込まれているのが見える。太くて黒光りするような古材ではないが、結構いい感じだ。玄関を入っていくと、畳敷きの部屋が2部屋続いている。左側が8畳で右側が6畳。2部屋の外側には縁側を兼ねた廊下がめぐっている。私は、こういう民家が大好きなのだ。
 五十嵐さんの話では、引っ越してきて4年目になるそうだが、まだ改築中だそうだ。確かに、床には畳が敷いてあるが、畳の大きさが合っておらず、5cmくらいの隙間があって、うっかりすると、足がはまりそうになる。五十嵐さんが奥の部屋から持ってきた板の下に黄色いビールケースを2つ並べて脚にする。これだけでは全員がテーブルのまわりにすわりきれないので、炬燵をくっつけてテーブルの足しにする。テーブルができると、みんな、そのまわりに適当にすわる。
 ふと見ると、70歳くらいの女性が「こんにちわ」と挨拶してきたので、私たちも挨拶を返す。川上さんというらしい。昨年も五十嵐さんの勉強会に参加し、もう一度くわしく話を聞きたいので、参加したそうだ。先ほど鄙の里の駐車場で初めて会った40歳くらいのスマートな男性(川端さん)も昨年五十嵐さんの田んぼの手伝いを田植えの段階からしたらしいのだが、その前の苗作りには参加しなかったので、苗作りの話をくわしく聞きたいと思って、参加したそうだ。テーブルを囲んで自然に話が始まった。昨日の勉強会では自己紹介タイムがあったが、今日はみんなが半分自己紹介を兼ねながら自由に話し始めている。みな、田んぼをやりたいという共通の関心があるので、自然に話が弾む。
 聞いてみると、コムギの飼い主の黒川さんと川上さん*2は千倉に住んでいると言う。私も千倉に畑と田んぼを借りてやっていると言うと、「それじゃあ、千倉グループができるわね」と川上さんが言う。私も黒川さんも「それ、いいね」と声をあげる。「じゃあ、連絡先を教えて」ということになり、早速、おたがいの携帯電話の番号を教え合う。私が「千倉に行くときには連絡するから」と言うと、2人も「ぜひ教えて。一度チクラッチさんの畑や田んぼに行ってみたいから」と言う。私が「田植えをするときには手伝ってね」と言うと、黒川さんが「そう甘くはないわよ」と切り返す。今日の勉強会に参加した6人のうち3人も千倉関係者というのは心強い。たぶん、お二人とは今後ともいろいろなかたちで協力し合えそうだ。そういう人間関係の広がりも私がこの勉強会に参加した理由のひとつだったが、こんなにトントン拍子に話が進むとは思ってもいなかった。
 みんなで雑談兼情報交換をしていると、ひろこさんが手作りの昼食を持ってきてくれた。写真がそれだ。

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ひろこさん手作りの昼食。おいしかった。

 おにぎり2個と、塩こうじを表に塗って焼いたお餅、焼きナス、レタスなどが入ったサラダ、赤カブをスライスしたもの、ジャガイモを揚げたもの、カリフラワーのスープなど、バランスが絶妙にいい。白いおにぎりは、たぶん、五十嵐さんの田んぼでとれたお米でつくったものだろう。ふうわりしていて、やさしい味がする。野菜にもみんな表情が感じられる。手作り料理の味わいだ。なかでも私が気に入ったのは、塩こうじを塗ったお餅。塩こうじの甘辛さとお餅のもっちり感が合わさってなかなかおいしいのだ。ひろこさんは、「ちょっと時間が経っちゃってお餅が固くなっちゃいましたけどね」と、焼き上がりを食べてもらえなくて残念そう。「あとで昼食のレシピを教えてください」と頼んでおいたのだが、聞き忘れてしまった。
 お昼を食べ終わったところで勉強会の準備を始める。ひろこさんは、8畳間と6畳間の間の梁にガムテープで白い布を留めている。勉強会のレジュメをプロジェクターで映す際のスクリーンにするためだ。何から何まで手作り感いっぱいだ。「ここで上映会をしてもいいですね」と、私が言うと、笑っている。

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梁にガムテープで白い布を留めてある簡易スクリーン

 プロジェクターの準備がすむと、いよいよ勉強会の始まりだ。ひろこさんがプロジェクターにつないだMacノートを操作しながらレジュメを読み上げ、五十嵐さんが時々話の補足をしていくスタイルだ。最初に、基本の基本、「苗作りの心得」が説明される。

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簡易スクリーンに映し出された「苗作りの心得」

 心得の最初に、「苗作りが成功すれば、お米作りの8割が成功したとも言えます。」と書いてある。確かにそうかもしれないし、それほど苗作りが難しいとも言える。次に、「基本通りにやってください。そうしないと何が原因で失敗したかわからなくなってしまいます」と書いてある。五十嵐さんが、思いつきやいろいろな方法論のいいとこ取りだと、何が原因で失敗したのかわからなくなってしまうと、補足する。私などがやりそうなところだ。心得は全部で7つくらいある(2画面目もある)のだが、なかでも五十嵐さんが力説していたのは「揃えること」の重要性だ。「種の大きさを揃える」「発芽の時期を揃える」などを行わないと、イネの成長がバラバラになり、刈り取りの手間もかかるし、お米の出来にもばらつきができてしまい、それはお米の味にも影響してしまうと言う。だから、種の大きさを揃える「塩水選」、発芽の時期を揃える準備のための「浸種」、発芽の時期を揃える「種子消毒と催芽(さいが)」などが重要だと言う。
 ここで五十嵐さんは、イネの種がどうやって大きくなるかを、種や成苗の構造から始めて、種の中のデンプンがどのように利用され、種がどうなったら芽が出るか、芽が一斉に出るために何をしなければならないかなどを説明していく。とても具体的で、わかりやすい。さらに、Part2 岩澤信夫方式の低音育苗法の説明に入っていく。先ほど、言葉だけ紹介された塩水選、浸種、種子消毒と催芽とは、何を、どうするのかが具体的に説明される。
 たとえば、塩水選の場合は、塩分濃度が1.15の食塩水に種籾を入れて沈んだものを使うそうだ。塩分濃度は、新しい卵を水に浮かべ、横になった卵の水面に出た部分が500円玉くらいの大きさになるまで塩を加えていって塩水を作るそうだ。私は、モリ子さんから「塩水に種籾を入れてみたけれど、みんな、浮いちゃって沈んだものがほとんどなかった」という話を聞いていたので、果たしてできるのだろうか、と秘かに頭を抱えた。
 浸種は、種籾の水分含有量を25%以上にし(20日以上種籾を水に浸けておけば25%以上の含水率になるそうだ)、種籾に含まれる発芽抑制物質であるアブシジン酸を溶かし出すために行うそうだ。
 種子消毒と催芽は、浸種でどの籾にも十分な水分を吸収させ、発芽の条件が整ったところで発芽の最適温度を与えて一斉に発芽させるために行うそうだ。ちなみに、催芽とは、芽が目を覚まして動き出したが、まだ伸び出さない、発芽直前の状態のことを言うそうだ。これらのことが、イネの発芽までのプロセスに沿って、どの段階で、何を、どうすればいいか(もし、そうしなかった場合にはどうなるか、まで含めて)、説明されている。
 五十嵐さんは、自分でも苗作りをやっているが、今の自己評価では60点くらいしかつけられるものしか、自分の環境や今の自分の力では作れていないという(ちなみに、種籾は毎年、業者から買っているそうだ)。つまり、苗作り専業業者がどこまでやっているか、わかったうえで、そうしていると言う。つまり、ただお米がとれればいいということではないのだ。
 私が「週一回東京から千倉にやってくるような人間でも苗作りはできますか」と五十嵐さんに聞いたら、「それはとても難しいことだけれど、作るお米のグレードを落とせばできないわけではない」という答えが返ってきた。私は、やっぱり、そうかと肩を落としてしまった。今年は、五十嵐さんに紹介してもらった農場で苗を分けてもらうことにしたが、来年以降はできれば自分で苗からイネを育ててみたいと思っていたので、ガッカリしてしまった。やはり、自分には苗作りは無理なのかなと思いながら、最後に今日の感想を話す段階で、私の隣りにすわっていた川端さんが、「自分の場合は、借りている田んぼもないので、自宅のベランダに苗箱をひとつ置いて、それで始めてみようと思っている」と聞いて、私は「その手があったか」と、膝を叩いてしまった。せっかく、これだけ密度の高い苗作りの説明を聞いておいても、実際にやってみなければ、2,3日もすれば、今日聞いた話はすっかり忘れてしまうだろうと思っていた。でも、苗箱1枚だけなら、東京の自宅でもできるかもしれない。いきなり、自分の田んぼ分の苗を作ろうと考えるのが無謀だったのかもしれないと思い直してしまった。ひろこさんの話では、去年の勉強会に参加した40代くらいの女性は初めて苗を作ったにもかかわらず、五十嵐さんの評価で言えば、かなりの点数がつけられる苗を作った人もいるそうだ。その人の場合、どんな環境で苗作りをしたのかくわしいことはわからないが、私はひろこさんの話を聞いて背中を押される思いがした。ダメ元でもいい、苗箱1枚での苗作りに挑戦してみようと思った。
 ちなみに、千倉グループの黒川さんは、今日聞いた方法で苗作りをしてみるつもりだと言っていたので、黒川さんの苗作りがどんなふうに進んでいるか、聞いてみたり、見に行ってみたりすることもできそうだ。
 最後に、ダメ元で千倉グループの黒川さんと川上さんに、私が千倉の畑でつくった大根は要りませんか、と言うと、二人とも快く受け取ってくれた。残った大根*3は、ひろこさんに差し出すと、こちらも快く受け取ってくれた。私は、まだ手元に残っている20本近くの端物大根を車に積んで東京に向かった。大根をもらってくれたことも嬉しいが、新しい出会い・新しい展開がこれから期待できそうで、胸がふくらむ思いだった。

追記:後日、ひろこさんが昼食のメニューを送ってくれたので、掲載しておく。
・耕さない田んぼのおにぎり
・白菜と水菜と紫にんじんのサラダ(橙のドレッシング)
・紫にんじん、しめじ、ニンニクの芽のソテー
・里芋の素揚げ(カレー風味)
・赤カブの甘酢漬け
・紫にんじんの葉のナムル
塩麹照り焼き餅
・カリフラワーのポタージュ

*1:小麦色の毛並みの犬に育ってほしいと、黒川さんがつけた名前だが、私には、自分の田んぼの小麦が連想されてならなかった。

*2:2人とも最近千倉に移住してきたそうだ。千倉への移住を考えている私にとってもお二人から役に立つ話が聞けそうだ。

*3:あらかじめ状態のいい大根とイマイチの大根を分けておいた。