本田靖春著、ちくま文庫を読む。
本田靖春のノンフィクションは『疵−花形敬とその時代ー』以来2冊目。
この話は、私より上の世代の人なら必ず知っている営利誘拐殺人事件である「吉展ちゃん事件」の話。1963年だから、私が生まれる2年前に事件がおき、私の生年の1965年の7月に犯人が逮捕された。犯人は小原保32歳。身代金は50万。当時の貨幣価値から行っても決して高額ではないらしい。
何故犯人はこのような凶行に走ったのか?何故2年もの間犯人は捕まらなかったのか?事件の全容が、被害者とその家族・加害者とその親族・警察側といろいろな側面から描かれており、大変興味深い。
誘拐は憎むべき犯罪だけど、自供するまで曇っていた小原の目が吹っ切れたようになり、自分の罪にしっかり向かい合う場面や獄中歌人として300首以上の短歌を詠んでいるところは胸に迫る。
最後の1行、自供に追い込んだ警視庁刑事平塚八兵衛が、小原の墓前でこう叫ぶ。
「オトしたのは俺だけど、裁いたのは俺じゃない」
裁いたのは裁判官でもない。世間の人々一人ひとりが裁いたんだとも聞こえる。罪を憎んで人を憎まずというが、人を殺めた以上それなりの責任を取らねばならない。しかし、それでもなお、人が人を極刑としての死刑を与えることの是非を改めて考えさせられた1冊でした。
- 作者: 本田靖春
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2005/10/05
- メディア: 文庫
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