酒とバラの日々 2

入院生活23日目。
いやあ、びっくりした。
昨日、思わぬ人と十年ぶり位に再会したんです。
こりゃ忘れんうちに更新するしかないわと思って 、今、興奮しながら携帯でポチポチ、ボタンを押しているわけです。
その話に行く前にざっとこれまでの入院生活を振り返ると、今回は酒やめる気で入ってるから思うんかもしらんけど、前回と比べて不良アル中多過ぎ。
みんな酒やめる気あれへん。
もし外で飲んで帰ってきて看護師にばれたら、内観室(みんなはドボン部屋と呼んでる。吾妻ひでおの漫画「アル中病棟」ではガッチャン部屋だった。病院によっていろいろ呼び名があるみたい)に24時間監禁されて、反省文書かされて、一週間外出禁止という重い罰が待っているんです。
だから前回は、全くゼロじゃないけどそうそう入る人いなかった。
ちなみに俺は、毎日近所のコンビニ行って、缶チューハイ二本が日課やってんけど、全くバレず(この病院ちょろいわ)と、たまに気分が乗った時なんかチューハイ六本いく有り様だったんです。
それでばれるかばれへんかのギリギリのスリルに身を焦がしててんけど、退院間際、いつものように飲んで病室帰ろうとしたら、病院の敷地内で俺を探してたらしいケースワーカーに捕まって、入院生活どうでした?とかいろいろ聞かれたわけです。
それに一つ一つ答えてたら結構長い時間なって、さすがに気付かれたらしく、「たこさん、匂いますけどひょっとして飲みました?」って聞かれて、こりゃとぼけんの無理やって思って認めたら、そのままチクられてドボン直行。
最後の最後にやってもうたな。
それがなかったら完全犯罪成立やってんけど。
それに比べて今回は、週末なったら毎回誰かドボン入ってるからね。
外泊許可取って家帰ってた人等が、ベロベロなるまで飲んで戻ってくるからそうなるみたい。
しかもドボン三回目、四回目とかめっちゃ多い。
退院したら飲むって公言してる人も多いしね。
そんな環境やけど、人は人と割り切って俺は、断酒で頑張ってます。
今まで断酒二週間が最長やってんけど、とりあえずそれは更新した。
今回の入院中は多分飲まんと思う。
でも、おそらく退院してからの人生の方が長いし、道は遠いですわ。
病院での一日をざっと説明すると、朝はだいたい六時半位に起きて、まずは煙草を一服(暇な時間多いから一日に吸う煙草の本数10本は増えた。喫煙所がアル中の社交場になってるのでそれも理由の一つ)その後、珈琲飲んで八時の朝食まで、携帯いじったり、本を読んだり。
今は、図書館で貸りてきたアーヴィン・ウェルシュの「トレインスポッティング」読んでます。
映画が面白かったから、原作も読んでみようと思って貸りてきたんだけど、原作も面白い。
本がたっぷり読めるのが、入院の数少ないいいところだな。
で昼食が、十一時半から。
飯から飯の間の時間は、とにかく本読むか、煙草吸って仲良くなった患者と雑談してます。
で六時の夕食までに月、火、木、金はARP(アルコール・リハビリテーション・プログラム)ってのがあってそれに参加します。
ARPには月一回、月曜と木曜にやる昼夜例会、グループミーティング、レクチャー、作業所説明会とか色々あるんやけど、その説明は、後日おいおいしていきます。
空いた時間は、基本、読書か喫煙&雑談、ブログ更新に使ってると思っててください。
あと週一回、交互に主治医ともう一人の先生の診察があります。
前回は診察の度に毎回、俺、酒やめる気ないですわ言うてたんで結構ボロクソ言われたりもしたけど、今回は真面目に断酒取り組んでるんで二人とも優しいもんやわ。
で血液検査が二週間に一回やろ、薬は、自己管理なんで、それの配給が週一回。
俺は、肝臓の機能を改善する薬が、朝昼夕一錠づつ。
寝る前に、メンヘラなんで精神安定剤が一錠、眠剤(アル中のほとんどが不眠症。酒で寝る癖をつけているので、酒を抜くと朝まで眠れない)が一錠 、胃薬が一錠。
まあ、普通の人にしたら薬漬けやろうけど、俺でだいぶ少ない方やからね。
酒はやっぱり、精神にも肉体にも色んな病気を呼び寄せるみたい。
俺が、メンヘラなったんも元を質せば酒が原因なのかもしらんなあと先生も言ってたもんな。
で十時に消灯。
眠剤飲んでさっさと寝る。
こう書くと結構やる事あるように思うかもしれんけど、時間めっちゃ余るからね。
だから暇をできるだけ作らんとこうと、前回、一回だけしか参加しなかったアル中ソフトボールにも今回は、今んとこ全部参加してる。
今日も参加して、精神科のデイケア通ってる人等と試合してんけど、二打数、二安打やったわ。
ライト守らされて正味、守備はひどいもんやねんけど、打つ方は、今まで十打席くらい立って塁に出なかったの二回だけやからね。
野球経験、ほぼゼロやけどメンヘラとアル中相手やったら余裕やわ。
団体競技全般嫌いやったけど、やったらやったで面白い。
ARPのない水木土日には、外泊取って(二泊三日まで取れる)家に帰る人が多いねんけど、俺は、二週間に一回しか家には帰らないと決めてるので、その日はどうしようかなと思ってたんです。
でもそういう日には、全員参加が絶対のARPと違って自由参加のプログラムが予定されてて、前回は、一回も参加してないから、今回は、外泊日以外は全部(まあ月二回しかないねんけどね)参加しようと決めた。
でAA(酒をやめたい人の集まり。断酒会のライバル。詳しくは後日書きます)のメッセージとMAC(パソコンでもファーストフード店でもない)のメッセージに一回づつ参加してんけど、昨日、参加したMACのメッセージで思わぬ再会があったんです。
MACってのは、AAから派生した団体で、アル中集めて寮に住まわせて、一日中、酒害ミーティングして、お酒の事を考えさせないようにして断酒させようって集まりなわけ。
期間は病院みたいに決まってなくて、いたかったら一年でも二年でもいれるみたい。
もちろん有料で家賃、食事代、AAのミーティングに参加する為の交通費、その他雑費込みで月十二万だったかな。
そんな金、金持ちのアル中(少ないけどたまにいる)以外、働きもせんとどうやって払い続けるねんと思うけど、アル中の生活保護受給者めっちゃ多いんですよね。
この病院でも俺の感じだと入院患者の七割は生保受給者。
だから生活保護貰ってる前提での料金設定なわけ。
生活保護の金を酒に使うならMACに使って、立ち直りなさいって感じなんだろうな。
俺は、貰ってないし、金払って一年も二年もそんな不自由な暮らしするくらいなら、酒で死ぬ方がましやわ。
でもMACに命救われたって感謝してる人も多いみたいやから、存在意義はあるんやろうな。
寮も出ようと思ったら自由に出れるみたいやし。
そのMACに一週間の予定で体験入寮した入院患者のHさんという人がいて、俺が入院して二、三日した頃にMAC入りしたんかな。
で、一週間してから帰ってきてMACの事とにかくボロクソに言ってたの。
Hさんは、天王寺高校っていう大阪で二番目くらいに偏差値高い進学高から同志社大学行ったインテリで、アル中のインテリの多くがそうであるように面白いいい人やねんけど、俺の数倍ひどい統合失調症で昨日の事も覚えてなくて同じ話を何度もするし、もちろん生活保護やし、学歴なんかほんま意味ないんやぞと俺達に身をもって教えてくれる貴重な存在。
退院しても一人で生活するのは無理だと病院側から判断されたようで、それでMACはどう?って感じて体験入寮を勧められたみたい。
Hさん曰く財布も携帯も取り上げられて、飯と風呂以外はずっと寝るまでアルコールのプログラムやらされるらしい。
外出はAAのミーティング行く以外はできないし、トイレ行くのにも「トイレお願いします」ってスタッフに許可もらってしなあかんし、しかもドアの前まで付いてくるらしい。
刑務所やん。
Hさんは「あんなとこおったら頭おかしなる。洗脳や」と既に半分頭おかしなってる癖に怒ってました。
で個室やって聞いてたのに、寝る時は、床に蒲団引いて五、六人で雑魚寝やったらしい。
「聞いてた話と全然違う。もうマクドは一生食えへん。ドムドムバーガー食べるわ」とまで言うてたからな。
まあドムドムバーガー会社潰れたからもう食われへんけど。
それで「H君、そんな腹立ってんねんやったらこの日MAC来るから、聞いてた話と違うかったって言うたったらいいやん。それやったら僕等も参加して加勢するし」って他の人等に言われて、Hさんもその気になってきて、アル中達がMACの欺瞞を暴く会になりそうやったんです。
こりゃ面白くなりそうやぞと夕食後の七時から始まるそのプログラムを楽しみにしてたのに、いざ参加してみたら、Hさん直前でびびって参加してねーんでやんの。
用意された席もガラガラで、参加したの初入院の人とか本気で酒やめたいと思ってる真面目そうな人が数人。
まあ、MACなんか入る気サラサラないけど、ジュース一本貰えるし一応聞いとくかと席に座ろうとしたら、前に三人MACのスタッフが座っててんけど、そのうちの一番若そうな一人が、いきなり「たこさん、たこさん」と話掛けてきた。
え、誰やろと顔をじっと見てみるが全く思い出せない。
それで失礼やと思ったが、「誰?」って聞いたら Fですと答えるじゃないですか。
なんと!俺がボクサー時代に六回戦で対戦して、ばちばちにしばきあげてKOした相手だったのです!前入院した時も、俺以外に患者で元ボクサー一人おったし、ボクサーのアル中率高過ぎやろ。
だいたいそういうアル中の施設はスタッフも回復したアル中である事が多いから F君もアル中やったんかとびっくりした。
色々話したい事はあったが、すぐにプログラム開始の時間になったので久しぶりやなあと一言話しただけで、俺は席に着いた。
MACのメッセージが始まったのだが、ようするにスタッフ三人がいかにアル中(ギャンブル依存もいた)やった頃は、ひどい生活をしてたかを話して、その後、MACに繋がって(吾妻ひでおも書いてたけど気持ち悪い言葉だと思う)救われたと、そのお陰で今があると、だから皆さんもMACに入りましょう。
そういう内容やったね。
でF君は、何を話すんだろうと興味深々で聞いてたけど、中学生の時から酒とシンナーに溺れながらもボクサーになりたいという夢は持ってたそうで、17でプロになって酒をやめられないながらも勝ち進んで、今日ここにいるたこさんと試合が決まった。
デビュー前から知ってた強い相手なので、気合いを入れて、一ヶ月酒をやめて臨んだが負けてしまった。
たこさんも依存と戦いながらボクシングやってたんだなと今日初めて知りましたとか言うてんの。
勘弁してくれよって思った。
俺、アル中なったん引退してからやし、ボクサーだった事も隠してはないけど、自分から言う事はまずないからね。
その場にいた参加者全員に知られて、プログラム終了後、「凄いやん。ボクサーやったん?」とか話し掛けられてめんどくさかった。
俺が今まで見てきた感じだと現役の時しょぼかった奴に限って自分がボクサーだった事を言いたがるね。
俺から言わせれば世界チャンピオン以外みんな負け犬やで。
そんな誇れる過去でもないわ。
でF君の話に戻ると、それで勝ったり負けたりしながらボクシング続けてたけど、どうしても酒をやめられなくて23で引退。
引退後も未練があったので、地下格闘技の大会に出てチャンピオンになったりしたらしい。
しかしそのうち酒だけじゃなくて覚醒剤にまで手を出すようになって、ますます身体をボロボロにしていったみたい。
その頃にMACに繋がって、初めて酒も覚醒剤もやめれて、今は、スタッフとしてMACのお手伝いさせてもらってます。
身体も元気になったので、もう一度リングに立ちたくて渥美ジムで練習しているところですと話終了。
F君正味弱かったし、31で復帰しても厳しいもんがあるやろうけど、まだやりたいんやったらやったいいし、頑張ってほしいと素直に思う。
プログラム終了後、ちょっと話してんけどすっかりMACに心酔してたな。
「俺、アル中なったん引退してからやで。自分現役中からアル中で、よう練習とか減量できたな」
「はい、しんどかったです。だから練習もさぼりがちなって体重も落ちへんから階級も上げて」
「そうやろなあ。俺は入院二回目やねんけど、今回こそは酒やめたいと思ってるねん」
「じゃあ、たこさんもMAC入ってお酒を手放したらいいんですよ」
「月十二万もよう払わんわ」
そしたら曇りのないキラキラした目で「生活保護貰ったらいいんですよ」と駄目な事言ってた。
そりゃ国の借金も何兆円にもなるわ。
今はMACで貰う給料が保護費を超えたので生活保護は貰ってないらしい。
しかしなんでMACにしろ、AAにしろ、ああいう団体って「ハイヤーパワー」だの「棚卸し」だの「手放す」だの独自の言葉を自分等のキーワードにすんのかな。
気持ち悪いわ。
酒やめれるとしてもああいうのにはなりたくないなあ。
国民の三大義務に勤労は入ってるけど断酒は入ってないからね。
断酒会やAAやMACに毎日通うのも大事かもしれないけど、若い奴はまず働けよと思う。
生活保護とかほんま最後の手段やからね。
俺は、退院したらとりあえず三ヶ月は失業保険が出るのでそれ貰いながら仕事探します。
断酒と人生初就職、それが今の目標。
原付免許とA級プロボクサーライセンスとホームヘルパー2級しか持ってる資格がないので、とりあえずあんま気はすすまんけど介護の仕事をしようと思う。
人全然足りてないらしいから、俺でも採用されるんじゃないだろうかと甘く見てるんですがどうでしょう?
小さい子供よりお年寄りの方が好きやしね。
まあ入院中に他の道もゆっくり考えますわ。