日本代表

日本代表候補の合宿も終了しましたが、こういう記事を見るといろいろと考えてしまいます。
川口、ふくらはぎ痛める スポナビ

サッカー日本代表のGK川口能活(磐田)は19日の代表候補合宿(千葉)での練習試合で、右ふくらはぎを痛めて途中退場した。磐田に戻り、検査を受ける。
 また、DF阿部勇樹(浦和)も左内転筋に張りを訴え、大事を取って途中交代した。MF鈴木啓太(浦和)は左臀部(でんぶ)痛のため練習試合には出場しなかった。 


リーグ開幕2週間前のこの時期にクラブでは主力の選手たちが代表合宿で体を痛めてしまうというのは、非常に辛い状況です。例えばこれがワールドカップ本番の試合だったら代表活動中にアクシデントがあったとしても多少はしょうがないと割り切れる部分もあるでしょうが、今回は公式戦でもなく親善試合でもなく、単なる合宿だからこそ辛いですね。
ただ、それでは日本代表は公式戦などの試合だけをやって合宿なんていうのは無用の長物かと言えば、そうとも言い切れない訳で、日本代表が強くなるためにはやはりある程度の期間まとまって練習する時間も必要でしょう。


『日本代表が強くなるために』
かつて日本代表にとってワールドカップが遠い雲の上の存在だった頃、いやもう少し後かな、日本代表がもうちょっと頑張ればワールドカップ出場に手が届きそうになる頃なら、”日本代表が強くなるために”という言葉は全ての出来事に対しての免罪符だったと思います。例えば、日本代表がアメリカワールドカップを目指して戦っていた時に、左サイドのスタメンであった都並選手はクラブと代表との掛け持ちのハードスケジュールがたたって、足首に爆弾を抱えてしまいました。試合に出られるかどうか分からない情況の中で、常に都並選手は代表と行動を共にしていました。
(詳しく知らない方は、こちらを図書館で借りて読んでみてはいかがでしょう)

日本代表は残念ながら予選最終戦のロスタイムにワールドカップ出場を逃しましたが、ヴェルディとしては日本代表の活動が終わっても怪我の癒えない都並選手が帰ってきたわけです。でも、その当時の気持ちとしては自分の応援するクラブの選手が試合に使えない状態で戻ってきた”怒り”というようなものはこれっぽっちも感じなかったですね。


一方、時は移り日本代表が悲願のワールドカップ出場をフランス大会で果たし、自国開催という強烈なプレッシャーの中でベスト16まで進んだ後のジーコ監督の日本代表時代、当時はまだヴェルディにいた山田卓選手が日本代表に招集されても試合には出られず常にベンチだけという状態が続いた時は、「代表に招集してもどうせ使わずに遠征に帯同させるだけなら、呼ぶなよ」という気持ちがありました。これは明らかに93年当時とは違う心境だったと思います。この時点では”日本代表が強くなるために”という言葉は免罪符足り得なかった。


日本サッカー界が大きな飛躍を遂げるために世界の桧舞台への出場を渇望した時代には、”日本代表が強くなるために”という言葉は全てに優先していました。しかし、ワールドカップへの出場も果たし自国リーグもJ1だけでなくJ2やJFL地域リーグまでが国内リーグの頂点であるJリーグ入りを目指せるような国内サッカー界の充実が図られてきた現在では、”日本代表が強くなるために”は全てにおいて優先する言葉ではないと思います。
でも、日本サッカーが発展する過程において、日本代表の果たした役割を忘れてはいけないと思うのです。例えばジュビロ磐田の中山選手ですが、偉大な選手ですから日本代表に一度も選ばれなかったとしても活躍する選手になっていたでしょう。しかし、オフト監督時代に当時はJ1ではなかったクラブから日本代表に抜擢されたことでプレー面での発展や人気面でのブレイクにつながった部分もあると思います。日本代表に選ばれなかったら今ほど活躍しないというわけではなく、日本代表に選ばれてそこで経験したことは大きな財産になっていると思うのです。


確かに選手はクラブに所属し、選手の給料はクラブが払っているのですから、代表で怪我なんかされたらクラブにとっては大きな損出です。世界大会への渇望を抱えていた時期ではなく、現在のように国内リーグが充実してきた時代ならなおのことでしょう。でも、代表活動は余計なことではなく、やはり必要なことというか、果たすべき役割はあるのだと思います。自国リーグの充実と日本代表の強化というものは、別々の方向を向いたベクトルではなくやはり車輪の両輪のようなものではないでしょうか。自国リーグが充実して各選手がそこで経験を積むことによって日本サッカー全体の底上げを図ることができる。その中から選ばれた代表選手は、クラブだけでは経験できないことを練習で試合で大会で経験し、それを自分の糧としてまたクラブに戻りチームにフィードバックする。若手は代表を目指し、代表でいろいろなことを経験したベテランはクラブに戻り若手に何かを指し示す。このようなサイクルが円滑に回転してこそ、その国のサッカー界がスムーズに発展するのではないかと思います。


今回の代表合宿に浦和は6人の選手を出しています。浦和というクラブから見れば海外遠征から帰ってきて、国内キャンプで最後の仕上げを考えている時期に主力をごっそりと抜かれるのは喜ばしいことではないと思います。特に浦和の集客力をもってすれば、”代表選手が何人”というのはキャッチフレーズとしてすら必要ないと思います。でも、代表活動で何かを得た選手はそれをクラブでのプレーで有形無形に還元していると思うし、主力が抜けた状態はクラブの若手にとってはアピールの大チャンスでもあるわけです。また、「あいつが代表に呼ばれるなら俺だって…」と発奮することもあるでしょう。
代表選手を送り出すのが常のクラブであれば、「またかよ…」という気持ちになるかもしれませんが、クラブ創設以来初めての代表選手を送り出したとしたら、迷惑とかではなく誇らしい気持ちになるのではないでしょうか。


『初心忘れるべからず』ではありませんが、日本代表が日本サッカー界にとってどのような存在なのか、どのような存在であるべきなのか、考える時期に来ているのかもしれません。自分が応援するクラブや自国リーグのことだけを考えれば良いのか。これから日本はそのような道に進んだほうが良いのか。世界を見渡せば、スペインのようにクラブには盛り上がるけれど代表には盛り上がらない国もあるわけで、そのような道もあるでしょう。
また代表中心で代表だけが盛り上がることを最優先に考える考え方もあるかもしれませんが、現在の日本の国内リーグの成熟度を考えれば、それもまた現実的ではない。これからサッカーが発展する国であれば一時的に国内リーグを犠牲にしてでも代表活動を優先しなければいけないでしょうが、あくまでそれは過渡期の一時的な状態だと思います。その国のサッカー界が成熟期に入ってくれば、代表優先と言うのはワールドカップ直前でもない限り考えられない。


現在ヴェルディはJ2にいて代表選手が送り出せるような状況ではありませんが、それでもオリンピック代表とはいえ一柳選手が選ばれているのは嬉しいし、もし誰かがフル代表に選ばれたら相当嬉しいだろうと思います。自分のクラブから大量の代表選手が出ていた時代があって、その後まったく出ない時代を経たからこそ、自分達のクラブの選手が代表に選ばれる誇りとでも言うべきものをより一層感じることができるかもしれません。
代表合宿での選手の怪我というのは非常に残念な出来事ですが、過去の日本代表との係わり合いや未来の自分達のクラブに与える影響など、いろいろと考える機会にはなりそうです。目先の利益だけを考えれば大きな損失であることは確かですが、久しぶりにあった練習だけの合宿だったので、いろいろなことを考えてしまいました。今回の合宿で怪我をしてしまった選手たちが一日も早く良くなって欲しいと願いつつ。