アジアカップを振り返る トークショー編 その2

昨日のエントリーで取り上げたアジアカップを振り返ったトークショーですが、その中で西部謙司さんがお話された内容を断片的にですが箇条書きで残しておきたいと思います。
(順不同だし、筆者の要約が間違っている可能性は常にあります。悪しからず)

  • 準備期間不足だった。6月30日まで国内リーグ戦を戦っている状況では、大会に向けたチーム作りをする時間などなかった。また日本代表はフィジカルコーチを置いていなかったが、実際にいたとしても大会を通じたコンディション作りなどをやる時間的余裕もなかったので、今回のアジアカップに限ってはフィジカルコーチを置いたとしても何もできなかっただろう。
  • ハノイの気候では、常時走るのは無理。
  • もう一人突出したFW、もう一人突出したDFがいたら勝てたのではないか。
  • 高原は日本人FWとしてはひとつ頭抜けている。ゴール前でのキレが違う。ただ、大会後半は疲れていた。
  • 練習時のミスパスを怒る選手がいない。川口は練習でも試合でも味方のミスに対して激しく言っていたが、やはり経験から来る危機察知能力があるのだと思う。しかし、本当はフィールドプレイヤーの中に怒るキャラクターがいた方が良かった。そして実際の試合の中でも相手に渡してしまうミスパスがあった。またセットプレーから低いボールでニアサイドを通されてしまう場面が多かったが、それも背景は同じかもしれない。
  • 両SBの消耗が激しかった。実際にテレビで映るのは「ボールが来て、クロスを上げて、そのクロスが合わずに抜ける」場面だけだが、実際にはボールがないところでも(テレビの画面に映らないところでも)頻繁に上下動を繰り返しているので(恐らくチームの約束事として)、精度が落ちてしまうのはあの気候の中ではしょうがない部分もある。
  • キーワード的にもなっているが、日本人選手のボリバレント性の限界が見えてしまう大会だった。ここで言うボリバレントとはオールラウンダーという意味ではなく、守備の選手が攻撃に上がっていったときに、試合の中で決定的な仕事を1〜2度するとか、攻撃の選手が味方のピンチのときに相手選手に対し守備を仕掛けて絶対的なピンチを1試合に1〜2度未然に防ぐとか言う能力でのボリバレントであり、それが不足している。PKにはならなかったが、オーストラリア戦での中村俊の際どいスライディングタックルであり、遠藤のサイドを抜かれた失点の場面でもある。
  • 中盤のパスまわしの技術は日本が一番高い。その意味での個の力がないわけではない。ただし、他の国が中盤でのパスまわしを志向していない国もあることも考えなくてはいけない。中東などは気候的にも暑い国なので、中盤を飛ばして相手ゴール前での勝負を志向している。またオーストラリアのように大会前は中盤でのパスまわしを志向していたが、実際にアジアカップに参加してその暑さを体験し、ラスト30分以外は中盤でのゲーム作りを放棄してしまった国もある。韓国は最終ラインを上げコンパクトフィールドを保ちつつパスをまわすことを志向したが、実際には技術がついてこなかった。
  • 少ない準備期間や現地での気候を考えれば、日本選手は良くやったと思うし、ベスト4という結果は妥当。しかし、それはある意味現在の日本代表の限界を見せてしまってもいる。サイドからクロスが上がっても、それが2mそれる。決定機を作ってもFWが決められない。日本代表がさらにスケールアップするためには、今、選ばれている選手が個々の能力をさらに高めスケールアップするか、または新しい選手を見つけてきて置き換えるしかない。これからのワールドカップまでの時間を考えれば、若い選手にチャンスを与え経験を積ませ、才能を伸ばす機会を作るべきだと思う。現在の29歳前後の選手を今後使わないという意味ではなく、若手に経験を与えて伸ばしながらベテランと競わせ、結果的に力が上回っている方を最後に使えばよい。
  • 今回の”相手との勝負をしない”日本代表であるが、これはオシム監督の言う”日本化”の結果そうなったのではないか。日本人選手は個の力で劣ると言うが、決して全てに劣っている訳ではなく優っている部分もある。それは接触しないでプレーをする分には日本選手の個の技術はアジアでは優位に立っていると言える。また劣っている部分は相手との接触プレーであり、これはアジアレベルでも競り負ける。これらの弱点をぼかし、長所をより伸ばしていった戦い方が今回のアジアカップでの日本代表となったのではないか。これは外国人であるオシム監督が何年かの日本滞在中に日本人を見て到達したひとつの考え方なのではないか。
  • しかし、今回の日本代表にはどうも燃えきれない部分もあった。それは例えば外国人が思う”日本人的”な部分と日本人が思う日本人的な部分とのズレなのではないか。例えば外国人が日本人の絵画をイメージするときに浮世絵であったり、水墨画であったり、古い庭園の枯山水をイメージするかもしれないが、普段の日本人はそれらに囲まれて生活しているわけでもない。今回の代表チームが前述した日本人の弱点をぼかし長所を伸ばす方向で突き詰めていった結果、実は我々が日常で見ている世界のトレンドたる現代サッカーと今回のアジアカップの日本代表の戦い方のズレが燃えきれない煮え切らない戦い方と映ってしまったのではないか。


以上、簡単に箇条書きにしてみました。
が、だいぶ筆者の要約時の意図が入ってしまっているかもしれません。ですが、できるだけ排除したつもりです。また、3人によるトークショーの全体の流れの中で出てきた文言を一部取り上げる形になっているので、前後の話の流れからなら自然な話もここでの箇条書きでは唐突に感じる部分もあるかと思います。
でも、昨日も書きましたが全体的な傾向としてはサッカーキャストでの振り返りと近いのではないかと感じました。ただ、練習時の雰囲気などは現地にいないと分からないですから、とても貴重なお話を聞くことができました。