スカイ・クロラ

原作は森博嗣、脚本はセカチューの伊藤ちひろ、でもやっぱり押井守映画。見終わって「映画」だったな、と思ったのはカットを割らずに長回しが多かったとか、ロングで引いた絵が多くて人物のアップで寄るときは芝居を見せるときだとか、声も俳優を使ってドラマも役者の芝居もアニメ的な誇張を抑えたとか、そういったもろもろの要因の総合だろう。
同じ過去を繰り返す、誰かのコピーでしかない自分がゲームとしての戦争を日常として生きる、とか押井ワールドではある。それでもクサナギは素子じゃないし、カンナミもバトーじゃないし。最後にユウイチティーチャーにドッグファイトを挑むところはしっかりと青春映画だった。
繰り返しのモチーフというのは、いろんなとこで出てくるけれど、ミートパイを食べにドライブインに入るシーンが、夜と昼で同じカット同じ動作の繰り返しになってていわば伏線になってるあたり、わかりやすい構成だった。キャラがみんなとにかくタバコを吸いまくるのは、地上にいるときは他にすることがなくって間が持たないんだろう。ユウイチ瑞季に、なにもやることがないって言ってたし、
エンドロールの後のエピローグが余韻を残さず唐突に終わって、なんだか中途半端な気持ちのまま場内が明るくなる感覚は劇場版エヴァを思い出す。なんかメッセージを意識するとそうなっちゃうんだろうか。まあ気持ち悪いとか言われるよりは、待っていたと言われる方がポジティブではあるよな。プログラムでは庵野秀明が、綾波がいっぱいいたと書いててワラタけど、キルドレってもはや何人目かもわからない綾波ばかりのチルドレンではある。
レシプロ機の空中戦アニメ、と言えば紅の豚だけど、大人でかつ自由であることが豚であるというポルコと、戦場で死ぬために繰り返し生きるキルドレの対比というのも面白そう。全翼の爆撃機を擁した編隊とかではナウシカを思い出したけど。
作画も、非常に面白い。オープニングの、基地が雲間から見えて、滑走路にぐんぐん近づいてって着陸するまでのシーンは息を呑む美しさだった。完璧に計算された3DCGで、それが地上に近づいてくると不思議な感覚がある。実際に飛行機に乗って着陸直前、最終アプローチで窓の下の地上を見たときのような、精巧なミニチュアを使った特撮のような、非現実的な現実感。そして、地上世界はフォトリアリスティックな精密な背景と、シンプルで線の少ない、影とかも重ねないようなのっぺりしたキャラ。まるで昔の実写とアニメの合成シーンのような、ディズニーのメアリーポピンズとかみたいな、それでこれだけ濃密なドラマを描けるってのは、劇場版パトレイバーの鼻無し作画を思うと感慨深い。
冒頭にいきなり撃墜された機から脱出したパイロットが機銃弾を浴びて爆発したように血しぶきを上げるカットがあったけど、「戦争」はあくまで空の上でおこる。爆発するのも飛行機だけで、爆撃シーンでも地上で見えるのは煙ばかり。ウリス基地が爆撃されたときも、爆撃されるシーンは一切ない。煙がたちこめる基地をロングで遠くから見せるから、広い滑走路の中で地上班が慌ただしく動き回っていても全体は妙に静かな絵になってる。
とにかく最高のドッグファイトアニメだから、それだけのためでも劇場に行く価値はある。いわゆる板野サーカスとは違う、迫力の空中戦が体験できる。