Scene28 12:15〜 1/5

 あの、女性警官のマンションだ。
 清潔で簡潔な部屋の真ん中で、彼女は木製の椅子に腰かけていた。
「黒崎正吾」
 と彼女は言った。
「きっと、貴方の血縁者。お父さんかしら?」
 なぜ、この女性警官がそんなことを言うのか。決まっている。
 やはりこの女は、あの岡田という少女を匿っていたのだ。ジオラマの写真を知り、その制作者の名前を知った。
「指紋が、作品に残っているんでしょう?」
「何を言っている」
 とぼけることに意味があるとは思えなかった。でも、他に返す言葉が思い当たらない。
「ガラスケースの中で、誰にも触れられないままに、ずっと保存されていたジオラマ。もちろんそのジオラマについた、制作者の指紋も一緒に保存されている。指紋は意外と長く残るわ。ノートから25年前の指紋が検出されたこともある」
 そんなことは知っている。
 指紋が消える期間など、一番に調べた。
「指紋のことに思い当たれば、あとはもう簡単。それこそが、嘘みたいなトレインマンの、確かな実像なんだから」
 切符切り。
 口に出すまでもない。
 トレインマンにとっての、指紋の意味だ。
「警察は驚くでしょうね。血眼になって探しているトレインマンの指紋が、公民館に展示されているんだから。台座には指紋の主のネームプレートまで飾って」
 女性警官は、テーブルの上からティーカップを持ち上げ、口に運んだ。
 唇を濡らす程度に傾けてから、続ける。
「警察があのジオラマを知れば、貴方のお父さんは、すぐに日本一有名な犯罪者になる」


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