2011-06-20
■[books]すばらしい墜落(ハ・ジン、立石光子訳、白水社)
- 作者: ハジン,立石光子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2011/03/18
- メディア: ハードカバー
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ニューヨークのフラッシング(Flushing)というチャイナタウンに暮らす中国系移民たちの、人生の一シーンをうつしとった短編集。短いながら心に残る物語ばかりだった。インド系移民の生活を描いたジュンパ・ラヒリもそうだが、故郷と文化も価値観も違う土地で必死で生活する人たちの悲喜こもごも、というのは切なくときに可笑しい。
通して読むと、中国の人たちの「家」や「家族」に対する思いの強さがわかる。生きていく上での礎となる深い愛情は感動的ではあるが、しかしときには束縛となり、自由の国で戦い続ける男女にとって悩みのタネにもなりうる。ここにいるものといないもの、その価値観のギャップに翻弄される話が多い印象だ。
インターネットの呪縛
中国にいる妹から無心されるアメリカ在住の姉。短篇集全体を象徴するかのような以下の部分が心に残る。
昔はアメリカに行けば、故郷のしがらみはいつでも断ち切れると思っていた。人生を思い通りにやりなおせると。でも、インターネットのおかげで何もかも台無し――家族はいつでも好きなときに、わたしをつかまえることができる。これでは近所に住んでいるのとちっとも変わらない。
「作曲家とインコ」
微妙な関係の恋人が置いていったインコを預かった作曲家の范林。インコと心を通わせるうちに、少しずつ人生が動きだしていく。インコのボリが賢く健気でかわいい。
「美人」
美しい妻をめとった男、しかし生まれた子どもは不細工だった…! 男は妻の浮気を疑う。ドタバタギャグものになりそうなシチュエーションだけれど、ぎりぎりのところで踏みとどまって、最後は「愛情はどこに宿るのか」という真摯な問いかけに終わっている。
「子は敵のごとし」「板ばさみ」
嫁姑もの! いやー中国の嫁姑問題は読んでいるだけで胃が痛くなるほどたいへんそうだ。
「子は敵のごとし」では、アメリカに馴染んで改名・改姓し、祖国の文化を嫌う孫たちと、それを受け入れることができない祖父母の嘆きが描かれる。祖父母の怒りが、孫たちではなく嫁に向かうところが……ね……。「板ばさみ」はよりストレートに、アメリカで暮らすカップルのもとに、突如夫の母親が押しかけてきて同居を始めるという物語。このおかーさん、ものすごく迷惑な人だけど、行動の基本に「息子への揺らぎない愛」があるので息子はまさに板挟み状態。
「英文科教授」「年金制度」
アメリカで、安定した職と定収入を得るのは難しいようだ。「英文科教授」の主人公は“ハーバードと北京大学の両方の学位を持っている”優秀な英文科助教、「年金制度」の語り手は正規雇用されない40代介護職の独り身女性、と立場はまったく異なるが、不安の根源は驚くほど似かよっている。
以下、全収録作品。
- インターネットの呪縛
- 作曲家とインコ
- 美人
- 選択
- 子は敵のごとし
- 板ばさみ
- 恥辱
- 英文科教授
- 年金制度
- かりそめの愛
- しだれ桜のある家
- すばらしい墜落


