ワークショップの報告

ワークショップの報告
複雑系ゆらぎデータの分析と制御II:超多自由度非定常系へのアプローチ」を2012年12月7日(金)に明治大学駿河台キャンパスにて開催しました。内容を私なりにまとめさせていただきました(以下、敬称は省略させていただきます)。
「数学・数理科学と他分野・産業との連携研究ワークショップについて」
宮澤憲弘(文部科学省):文部科学省が数学や数理科学の研究を推進する背景などの説明をしていただきました。
ビッグデータ解析の問題点:ベキ分布・非定常・超多自由度」
高安秀樹(明治大・ソニーCSL):多種多様なデータの集合であるビッグデータを解析するとき、最も基本的なことは変数間の相関を検出することですが、通常よく使われる相関係数は平均値と標準偏差に基づいているため、正規分布に近い変動をするデータ以外には適しません。また、ビッグデータ解析では、変化点を素早く求めるような必要も多く、その場合には少数のサンプルデータから無数にある可能性の変数との因果関係を検出するという難題に挑まなければなりません。これらの問題に対する処方箋を紹介し、さらに、偽相関を排除する方法に関しても解説しました。
「400万超の企業間取引データをどのように活用すべきか?」 
北島聡(帝国データバンク):海外での企業の信用評価は「株価が全てを織り込んでいる」という信念に基づき単独の企業の業績のみで判断することが多いが、日本では「友人を見ればその人がわかる」という考え方から企業間の取引関係を丁寧に調べています。膨大な量の企業間の取引データをどのような狙いでどのように集め、どのようにビジネスにつなげているのかに関して、いろいろな逸話も盛り込んでお話しいただきました。
集団知はいつ間違えるのか?」   
守真太郎(北里大):専門的な知識や判断力を持たない多数の集団はどのようにすれば正解を導くことができるのか、どのような場合には間違えた判断をするのか、という問題に対する答えは、民主的にものごとを決めていく私達の社会がうまく機能するために基盤となるはずです。人を集めて課題に答えさせるような実験を通して、どのような場合に多数の集団が間違えるのかを解明しようとしている研究の紹介をしていただきました。
「ネット上での311に関連したうわさの伝播」
佐野幸恵(日大):ブログやツイッターは、沢山の人が思いのままを自発的に文章に残す貴重なビッグデータで、最近、解析手法も洗練されてきています。ここでは、311の大震災に関連して発生したデマに焦点を絞り、その広がり方やデマの修正・収束過程をデータに基づいて分析した結果が報告されました。人々の不安な気持ちや何かをしたいけどできない気持ちを特徴づけるようなキーワードが多い時にデマが広がりやすい傾向があることや、利害の絡まない公的な機関からの情報発信がデマの収束に重要であることが指摘されました。
「渋滞の制御に向けて〜渋滞させない運転術とその実証〜」
友枝明保(明治大 / JST CREST):交通流の数理モデルに関するレビューをしていただき、また、最近の応用として、渋滞をなくすための運転方法に関しての報告がありました。渋滞を起こすと流れの総量が減るので、車間を十分にとり、前の車が一時停止してもひきつられて停止しないようにすることが渋滞解消に効果があることが示されました。
「社会のまるごとシミュレーションはいつごろ可能になるか?」 
伊藤伸泰(東大):現在のスーパーコンピュータよりも、さらに何桁かの性能向上が期待される次世代のスーパーコンピュータが実用化されるときには、私達が必要と思うような社会・経済のシミュレーションがかなり実現できるようになっているはずだ、という見通しを話していただきました。現在はまだ物質に関連した利用が中心のスーパーコンピュータですが、近い将来には、例えば、災害発生時にどのような対処をするのが最適かをコンピュータがいち早く答えを出してくれる、というような夢も実現させることが不可能ではない、ということでした。
ポスター発表では、2分間のショートトークと昼休みと休憩時間を利用して、次の方々が発表し、議論が盛り上がりました。(内容は省略させていただきます。)
「ゆらぎから検知するインフルエンザの流行変化」
 前野義晴(日本電気
リツイートによるツイッター上の情報拡散」
 川本達郎(東大)
「日本企業100万社の大規模データの解析とそれを用いた企業分類方法の研究」
 笠原章弘(東工大
「大規模企業間取引ネットワークで見られるパーコレーション相転移現象」
 河本弘和(東工大
「大規模企業データの解析とお金の輸送のモデル化」
 田村光太郎 (東工大)
合計40数名のワークショップでしたが、会場からの質問もしやすい規模で、密度の高い議論をすることができました。参加して下さった皆様ありがとうございました。

ちょうど1年空いてしまいました。12月7日に明治大でワークショップを開催します。

昨年のワークショップの報告をして以来、ちょうど1年が経過してしまいました。
今年度も、12月7日に明治大学にて「複雑系ゆらぎデータの分析と制御」の第2回目の
ワークショップを開催します。口頭発表は下記のように決まっていますが、ポスター発表
はこれからでも応募できます。2分間の口頭発表と休み時間を利用したポスター発表と
なりますが、関連のある研究をやられている方は、是非、応募下さい。

ワークショップのお知らせとポスター発表の募集
複雑系ゆらぎデータの分析と制御II:超多自由度非定常系へのアプローチ」
日時:2012年12月7日(金)
場所:明治大学駿河台キャンパス 大学会館3階 第1・2会議室
   http://www.meiji.ac.jp/koho/campus_guide/suruga/campus.html
主催:明治大学先端数理科学インスティチュート  後援:文部科学省
オーガナイザー:高安秀樹明治大学ソニーCSL)
ねらい:多種多数の構成要素が複雑に相互作用しあうことで発生するようなゆらぎを複雑系ゆらぎとよびます。昨年10月に開催された「複雑系ゆらぎデータの分析と制御」では、網膜から人間集団、世界経済、さらには、宇宙にまで話が広がりましたが、今年度のワークショップでは、いわゆるビッグデータの分析によって急速に研究が進展している社会の現象に焦点を当てます。数理的な側面としては、現在、研究の最前線にあるベキ分布・非定常性・ネットワーク・超多自由度系に関連したデータ解析やモデル構築に着目し、その中でも実社会への応用を視野に入れたような話題を取り上げます。
 それぞれの講演では、40分間で入門的なことから最先端の話題までを紹介していただき、その後、20分ほど自由な質疑応答を予定しています。公募のポスター発表では、2分間のショートトークと休憩時間を利用した議論の場を用意します。終了後は、懇親会を開き、議論をさらに深めます。懇親会は有料ですが、ワークショップは予約なしで、どなたでも自由に参加していただけます。

10:00 ビッグデータ解析の問題点:ベキ分布・非定常・超多自由度
       高安秀樹(明治大・ソニーCSL)
11:00 400万超の企業間取引データをどのように活用すべきか? 
       北島聡(帝国データバンク
12:00 ポスター発表ショートトーク(1件2分間程度)
      終了後 昼食休憩
13:30 集団知はいつ間違えるのか?   
       守真太郎(北里大)
14:30 ネット上での311に関連したうわさの伝播 
       佐野幸恵(日大)
15:30 休憩+ポスター発表
16:00 渋滞の制御に向けて〜渋滞させない運転術とその実証〜
       友枝明保(明治大 / JST CREST)
17:00 社会のまるごとシミュレーションはいつごろ可能になるか? 
       伊藤伸泰(東大)
18:00 終了
18:10 懇親会(アカデミーコモン1階 カフェパンセ)

ポスター発表募集:社会現象に限らず広い視野での複雑系ゆらぎに関連した研究のポスター発表を募集します。発表希望者は、①希望講演タイトル、②著者名+所属、③連絡先(メールアドレス)、④アブストラクト、を下記までお送り下さい。
連絡先:高安秀樹 メールアドレス:takayas1@meiji.ac.jp
締め切り:11月29日(木)
会場の制限によってポスター発表の数が限定される可能性があります。ポスター発表をしていただく方には、発表のために必要な情報を連絡致します。

ワークショップ「複雑系ゆらぎデータの分析と制御:脳から社会まで」

この一カ月あまり、いろいろと急ぎの用事が入り、ブログを更新するのをすっかりさぼってしまい、申し訳ありません。
 10月27日と28日、明治大駿河台校舎にて、ワークショップを開催しました。両日とも50名以上の方が参加し、極めて幅広い話題に対して、質疑応答もいろいろとあり、主催者として期待以上の盛り上がりでほっとしています。
 私なりの印象に基づいた報告なりますが、下記のような内容でした。(敬称は省かせていただきます)。
清野健:心拍の間隔のゆらぎに関するこれまでの研究のレビューと、これから巨大な心拍データベースが構築される計画などを含めて、わかりやすい話をしていただきました。心臓自体はゆらぎを生み出さず、体の状態を把握した上での脳からの制御が心拍ゆらぎを作り出しているということから、心拍のゆらぎを観測することで、体の状態を知ることができることに大きな可能性を感じました。
武者利光:簡単にマルチチャンネルで脳波を観測できる装置を開発し、アルツハイマーなどの病状が定量的に評価できるようになり、臨床での利用も広がっているという最先端の成果の報告でした。基本的な着想は、脳波のゆらぎのパターンに見られる空間的な局在の程度を定量化することで、アルツハイマー病によって脳の一部の活動が低下している状態を定量化するという方法で、最近は、うつ病などの状態も識別できるようになってきているとのことでした。数分間、目を閉じて脳波を計測するだけで脳の健康状態が診断できるようになる近未来像を描くことができます。
矢野和男:精密な加速度計や赤外線センサーなどを付けたネームタグを付けているだけで、その人の状態だけでなく、職場での人間関係のネットワーク構造をデータ解析から読み取る技術を開発した“ビジネス顕微鏡”のレビューをしていただきました。これまで、勘と経験だけでしか評価されてこなかった職場の人間関係を観測データに基づくデータから科学的に制御しようという夢のような狙いが、ビジネス的にも回りだし、急成長しながら、データの蓄積が進んでいるとのこと、このデータは匿名化して研究者向けに公開されているので、さらに、様々なことがデータから読み取れるようになる可能性を秘めています。
金坂秀雄:職場での人間関係ネットワークの改善の試みとして、苦情処理などを行っているテレフォンセンターでの事例を紹介していただきました。キーになる人の職場での立場を変えることで全体的な効率が向上されることが示され、人間ネットワークの大切さが企業にとって重要な意味を持つことが改めてアピールされました。
山田健太:膨大な量になる日本中のブログの書き込みデータを分析し、日常的に表れる単語の出現頻度の観測から、次第に、ブームが形成される単語、ニュースなどで突然注目され、次第に忘れられていく単語などの基本的な統計性をデータから明らかにし、さらに、数理モデルによって、これらの特性を全て再現することができるようになっている研究の最先端の話題を紹介していただきました。数理モデルが構築されれば、予測や制御という次の段階の研究成果も自然に期待でき、アカデミックにもビジネス的にも大きなインパクトを与える予感をさせる内容でした。
小泉周:目の錯覚の話から入り、網膜を構成する細胞の詳細な構造やつながりの観測に関する最新の情報、さらに、神経細胞の構造やネットワークが目の錯覚にもつながるいろいろな機能を生み出していることをわかりやすくレビューしていただきました。網膜上の特定の速度を持った光の動きを検出するような高レベルの機能が、脳の処理なしで神経細胞のネットワークだけから生み出されているという事実は、生命の巧みさを改めて感じさせるものでした。
藤本眞克:アインシュタインが予言し、未だに直接的な観測ができていない重力波を検出するための実験施設の現状を紹介していただきました。超新星の爆発レベルの巨大なイベントであっても、地球で観測される重力波のゆらぎは極めて微量になるので、考えられるあらゆるゆらぎ要因を取り除き、従来の常識だった量子力学の限界を超えるような観測技術が完成しつつあり、アインシュタインの予言からちょうど100年後になる2015年には直接観測ができるようになる見込み、ということでした。
高安美佐子:コンビニのレジでおなじみのバーコードによる販売記録であるPOSデータの時系列を分析することによって、潜在的な客をどれくらい逃しているか、など、直接的にはデータに表れない量を推定し、販売戦略を向上できることが報告されました。また、企業の取引ネットワーク構造が企業の売り上げや成長率とかなり強い関係を持つことが膨大な取引関係のデータから導かれるということもわかってきたとのこと。これまでの経済学では漠然と企業の活動を捉えていたのに対し、定量的な数理モデルによる企業の記述ができるようになってきたとのことです。
久保田創:本の売り上げがベキ分布に従うような大きな裾野を持つことを考慮したような出版社の経営戦略を数理モデルに基づいて考える意欲的で実践的な研究の提案をしていただきました。大ヒットがあってもその後低利益が持続する可能性があるような業種の企業の経営を科学的に合理化できる可能性が見えてきました。
前野義晴:マクロ的に見た伝染病の感染の様子を数理モデル化し、シミュレーションによってパンデミックリスクを予測できる可能性が紹介されました。どのような対策をとれば伝染病が爆発的に拡散するのを抑制できるのかに迫ることができれば、社会に大きな寄与ができるようになると期待されます。
木下幹康:原子力発電所の事故の規模が正規分布よりもずっとすそのの大きなベキ分布に近い分布に従うことを理解するための基本的な数理モデルを提案しています。従来の独立に事象が発生するモデルでは正規分布に従う現象しか説明できず、被害を過小評価しがちですが、不具合の発生に相関を考慮することで実際の現象に迫ることが可能になり、リスクを正しく評価できるようになることが期待されます。
佐藤彰洋:ホテルや旅館などの予約サイトの状況をクローリングで観測し、宿泊の予約がどれくらいの時期にどのような地域でどのような価格帯から埋まっていくのかを定量的に分析をしています。3月の大震災後しばらくの間は、極めて異常な振る舞いをしましたが、それが次第に正常な状態に戻る様子も観測されています。
家富洋:政府が公開している国内の産業ごとの月次でのお金の流れに関するデータを、新しい方法で分析した結果を報告して下さいました。このようなデータでは、どこまでをノイズとみなせるのか、それをどのように除去するのか、ということが重要なテーマになりますが、ここでは、ランダム行列と比較し、そこから突出した成分をシグナルとして、取り出し、ランダム行列に埋もれるレベルのゆらぎをノイズとして捨てるという新しい方法を提案しています。
大西立顕:為替市場の詳細なデータを分析し、変動が定常とみなせるかどうか、を丁寧に検定し、金融市場は、数日間に一度程度の平均値を持つようなランダムなタイミングで定常とはみなせないような変動が発生していることを明らかにしています。また、価格の上がり下がりの統計性を網羅的に連検定によって調べ、市場が乱れている時期には、短い時間スケールで上がり下がりが有意に持続しやすくなる性質があることを報告しています。
植之原雄二:物質の熱拡散を記述する基本的な方程式であるボルツマン方程式の定式化に基づいて、金融市場の価格変動の数理モデルを構築し、データによってパラメータフィッティングをすることで、オプション価格を高速で計算できるようなシステムを開発した話をしてくださいました。通常の金融工学では考慮しないようなボルツマン方程式の衝突項を考慮することで、現実の現象をうまく記述できるようになるとのことでした。
谷博之シンガポールヘッジファンドを運営している視点から、現在の金融市場の問題を話していただきました。特に、注目したのは、ほんの数分間で市場価格が大きく変動するフラッシュクラッシュとよばれる現象で、コンピュータの自動売買のアルゴリズムが大きくかかわっている様子を詳しく解説していただきました。

全体を通して、質疑応答も盛んで、いろいろな話題を楽しむことができ、新たな人との出会いもあり、とても有意義だったと思います。
また、機会があれば、同様の企画をしたいと思います。

ワークショップ「複雑系ゆらぎデータの分析と制御:脳から社会まで」プログラム確定しました

ワークショップ「複雑系ゆらぎデータの分析と制御:脳から社会まで」

日時:2011年10月27日(木)と28日(金)
場所:明治大学駿河台校舎大学会館内会議室(JR御茶ノ水駅近傍)
主催:明治大学先端数理科学研究科   後援:文部科学省
オーガナイザー: 明治大学先端数理科学研究科 高安秀樹+三村昌泰

ねらい:多数の構成要素が複雑に相互作用しあうことで発生するようなゆらぎを、ここでは複雑系ゆらぎとよぶ。複雑系ゆらぎは、この30年ほどの数理科学の研究によって大きく進展し、様々な基本的特性が明らかになっている。フラクタル・カオス・ベキ分布・1/fゆらぎ・相転移・ネットワークなどをキーワードとして、数理モデルの解析がまず進み、しだいに、現実の中の現象におけるデータ解析の手法も開発されてきている。本ワークショップでは、複雑系ゆらぎのデータ解析方法を用いて明らかになってきているゆらぎ現象を集め、様々な階層の現象を横断的に見渡し、相互の研究者の情報交換を行うとともに、新たな分野融合の可能性を探る。

10月27日(木)大学会館 第1+第2会議室
小テーマ”いろいろな複雑ゆらぎ”

10:30 オープニング  高安秀樹+三村昌泰
10:40 清野 健 日本大学工学部
“心疾患における心拍変動の非ガウス性と死亡リスクの関係”
11:10 武者利光 脳機能研究所
  “脳波のゆらぎと異常の検出”
12:10-13:30 昼食
13:30 矢野和男 日立基礎研究所・人間情報システムラボ  
  “ビジネス顕微鏡を用いた人間相互作用のゆらぎ分析”
14:30 金坂秀雄 もしもしホットライン・営業開発事業部
“Organizational Network Surveyを使用した企業組織活性化、生産性向上への取り組み”
15:00 山田健太 早稲田大学・高等研究所
“ブログ書き込み行動のゆらぎとブームの発生”
15:50-16:10 休憩
16:10 小泉周  自然科学研究機構・生理学研究所
  “網膜神経構造の秩序とゆらぎ”
17:10 藤本眞克 国立天文台
”宇宙のゆらぎの観測:重力波の検出”
18:10 終了
18:30- 懇親会(アカデミーコモン1F カフェパンセ):
10月28日(金)大学会館 第3+第4会議室
 小テーマ”経済活動に伴うゆらぎ”

10:30 高安美佐子 東工大総合理工学研究科 
  “購買行動と取引ネットワークからみる企業のゆらぎ”
11:30 久保田 創 草思社編集部
“書籍出版社の売上げのゆらぎと書籍販売数分布の関係”
12:00 前野義晴 日本電気株式会社
“ネットワークゆらぎが解き明かすパンデミック・リスク”
12:30-13:30 昼食休憩
13:30 木下幹康 電力中央研究所原子力技術研究所
原子力事故がロングテール確率になる機構の数理モデル的考察”
14:00 佐藤彰洋 京大情報学研究科数理工学専攻
“ホテル予約サイトデータを用いた利用可能施設数の統計分析:
東日本大震災の影響と復興への足がかり”
14:30 家富洋   新潟大・理学部
  “産業のゆらぎと外乱への応答”
15:30-15:50 ティータイム
15:50大西立顕 キャノングローバル戦略研究所
  “金融市場の非定常ゆらぎ”
16:40 植之原 雄二 クェーサー22
“輸送モデルによる「ゆらぎ」のシミュレーション”
17:10 森谷博之 クェーサー22シンガポール
  “市場の流動性とその重要性”    
18:10 終了

聴講や議論への参加は自由で、予約や登録は不要です。

27日の懇親会に参加を希望される方は、おおよその人数を把握する必要がありますので、下記まで、ご一報下さい。実費を当日会場でいただく形になります。都合が悪くなり出られなくなってもキャンセル料をいただくことはございません。少人数でしたら、当日、急に参加されるケースも受け付けます。

連絡先:高安秀樹 takayas1@meiji.ac.jp
ホームページ:http://www.mims.meiji.ac.jp/seminars/

全国銀行協会、不渡り猶予を年末まで延長

 東日本大震災の影響で企業が支払い期日に手形の決済ができない場合に、特別の猶予策として、不渡りとしない処置を全国銀行協会がとっているが、これを年末まで延長するというニュースがあった。通常は、企業は2度不渡りを出すと、その企業はブラックリスト入りし、全ての口座が凍結され、ほとんどの場合は倒産となる。不渡りはいわば、イエローカードというわけだ。(ちなみに、金融機関の場合は、一発でレッドカード、即口座凍結となり、これが、金融システムをガラスのような脆性破壊させる原因となっている。)津波の被害を直接受けた企業はもちろん、それらの企業と取引をしている企業は、お金の流れが極端に悪化しているので、このような猶予処置は、企業を存続させ、再起させるのに非常に有効だ。国の対処は何につけても非常に遅れているが、民間の対応は素早く適切である。
 新聞によれば、3月から7月の不渡りの件数は、岩手・宮城・福島の3県だけで、およそ3000件あり、昨年の4倍にもなるという。復興をめざす企業を再生するためには、不渡りの猶予だけでなく、国や公的な機関からの資金の援助や、投資や融資のお金を集めることが必要だ。企業を経営するためには、様々な経験に基づくノウハウが必要であるから、全く新しく企業を作るよりは、壊れた企業を回復する方がずっと効率的だ。お金さえかければ、元に戻せる企業には人がいる間にお金をつぎ込んで再生した方が経費の節約にもなる。経済的な自立を求められている被災者にとって、働く場所がなければ自立のしようがないのであるから、企業をできるだけ沢山普及することは、国や県も最優先で進めるべきだ。
 直接被災した地域だけでなく、遠く離れた地域にある企業も、取引関係で非常に密接に被災地域と結び付いているケースも多い。そういう企業にも丁寧に光を当てて守らないと、被災地域の企業が復興しようにも、取引先がなくなっている、というようなことになりかねない。つまり、企業の救済は、企業の取引ネットワークを分析しながら行う必要がある。
 もし、ほっておいた場合には、どれくらいの企業が倒産し、どれくらいの経済的な損失になるか、どれくらいのお金を注入すれば、どれくらいの企業を救うことができて、何年後にはどれくらいの経済的な発展を期待できるか、そのような計算をデータに基づいてシミュレーションを行い、見積もることが必要とされているわけだ。
 実は、今、私達(私と、東京工業大学の高安美佐子研究室と、帝国データバンク社)は、このような目的の企業ネットワーク解析の研究を進行中である。詳細は、時期が来ないと発表できないが、ともかく、震災の復興に本当に役立てられるような形で、急ピッチで研究を進めている。これまでは、比較的のんびりとアカデミックな視点で研究をしていた経済物理学の分野であるが、この2,3年が、本当に社会の役に立てるような学問になれるかどうかの正念場であると思っている。

財政再建の道:相続税の改革に着手せよ

 ブログの更新が2週間以上滞ってしまった。8月下旬締め切りの仕事が貯まってしまい、小学校の時の夏休みの宿題が最後の1週間に大きくのしかかって来た時のような余裕のない状態になっていたのが大きな原因だった。
 さて、民主党の新しい内閣のチームが決まり、政府はこれからとてつもない大きな宿題をこなしていかなければならない。自民党時代から積み上げてきた最大の宿題は、財政の立て直しと震災の復興だ。今度の総理はこれらに真剣に取り組むということなので、どのような行動に移るか、注目したい。
 もしかすると少しは参考にしてもらえるかもしれないという期待を込めて、財政再建に関する私案を提案する。結論を先に言えば、相続税を見直すことで財政再建は自動的にうまく回りだすはず、というのが私の考えだ。
 日本の頼りは、1000兆円を越える個人の金融資産で、現在はこのお金が金融機関で渋滞している状態だ。日本の経済は成長期を20年ほど前に終え、成熟期に入っているので、体(社会インフラ)が勝手に育っていた当時に有効だった金融システムと同じ方法では、お金が増やせなくなっている。お金は物やサービスと交換することで初めて本当のお金としての価値を生み出すのであるから、流れないお金、あるいは、金融機関の間を行き来しているだけのお金は存在しないものとほぼ同じである。金融機関が適切にお金を回せなくなっているのであるから、個人のレベルで持っているお金を直接流すようにする政策が有効ということである。
 日本にある個人の金融資産の半分以上は、リタイアした世代が老後のため、子孫のために貯めているお金である。したがって、相続税を変更することで、大きなお金の流れを生み出すことができる。ちなみに、現状の相続税は、年間の総相続額がおよそ30兆円に対し、税収は1.5兆円程度、つまり、お金の流れに対してかかる税率は実質的には消費税と同等の5%である。私の提案は、わかりやすく極端に表現すると、現金・銀行口座のお金と国債に対する相続税は100%、それ以外の全て、土地・建物・貴金属・美術品・株式などは0%とせよ、というものだ。国が発行したお金は、所有者が亡くなった時点で全て国に返し、それ以外のものは、国は一切関与しない、という立場だと言ってもよい。
 世界を見渡すと相続税が0%という国はけっこうあり、そのような国は、お金持ちに住んでもらって生活に伴うお金の流れから税をいただこうとしている。上記のように物に関して非課税にすることで、お金持ちは住みやすくなり、大きな土地に立派な家を建て、高価な調度品を揃え、貴金属を蓄える。また、株式を非課税にすることで、企業主も子孫に企業を残しやすくなる。資産家に居やすい環境にすることでお金持ちが喜んで住み、国に富を貯め込んでくれる国にするのだ。豪邸は後世の観光遺産になることも考えれば、大金持ちが住みたくなる国にすることは長い目で見ても悪くない。
 このようなお金の流れが生じれば、まず、お金の流れに対して消費税などが入る。いわば贅沢品の需要が増えるが、贅沢品を作り価値を維持するためには高度な知識や技術の集積が必要で、単純労働ではなしえない高度な産業が必要とされ、雇用のニーズも増加する。このような高度の労働は、海外の安い労働力と戦うためには必要な方向性だ。海外の貴金属や美術品を買い集めるようになれば、大量の円が外貨に換えられるので、円安の方向にお金が流れる。1兆円の介入でおよそ為替レートは1ドルあたり1円動くのがこれまでのデータからわかることであるから、例えば、30兆円くらい海外の価値の高いものをまとめ買いすれば、1ドル100円くらいのレートに戻る可能性もあり、輸出産業を助けることにもつながり、一挙両得だ。使ったお金はものに代わって国に残るので、国としては何も損はない。
 このようにものの対する相続の非課税化は、いいことづくめであるが、マイナス面として懸念されるのが、国債が相続できない、ということになったときの国債大暴落である。これに関しては、国のお金は国が責任をとる、という方針で、売れなそうな分の国債でどうしても予算立ての上で必要な分に関しては、日銀が全て買い取る、という臨時の対策が最善の案であると考える。上記の方法で、1000兆円のお金が流れ出せば、確実に社会の中のお金の流れは大幅に上昇し、相続税以外の税制は現在のままでも、政府の税収の大幅アップが期待できる。そうなれば、一時的に中央銀行が預かった国債も近い将来の税金でつじつまを合わせることができると期待する。このように貯金を有効に使うことで問題を解決できるのは、借金に苦しむ諸先進国の中では日本の特権である。
 震災復興に関しては、既に、このブログの中でも私案を紹介しているが、不動産証券化をベースにした民間のお金を有効活用することで資金繰りをすることが可能であると考える。もちろん、復興プランを作れるようにする段階までの被災地の整理に関しては国のお金を使う部分も必要だが、これは、発展途上国の経済と同様に、お金をかければその分だけ社会の価値が上昇するので、ニーズがあるところにお金を使うことに躊躇する必要はない。

送り火問題、京都市、最悪の決断:なぜ安全な部分だけでも使おうとしないのか?

 岩手から取り寄せた薪の一部から放射性セシウムが検出されたため、京都市は一転して、岩手の薪を送り火に使うことを取りやめたという報道があった。セシウムが検出されたということで、TVのコメントなども、「しかたがない」、というような主張が多く、また、京都市への電話も「断念してくれてよかった」というような声が多く、中止を批判する声は少なかったという。しかし、私は、結論から言えばこれは最悪の決断だったと思う。
 関東に住んでいる立場から言えば、その薪を燃して飛び散るセシウムよりもはるかに多い量を既に3月の時点で浴びてしまっているので、この程度の薪を燃やすことに対して、少なくとも私はほとんど不安を感じない。それよりは、岩手の人の悔しい気持ちの方が共感できる。しかし、まだ放射線汚染の少ない関西の人にとっては微量であっても気になる気持ちも理解できる。薪に関しては、表皮の部分だけを集めて測定したサンプルからセシウムが検出され、薪の内部からは検出されなかったということだから、岩手の人の気持ちを踏まえ、京都の人の不安な気持ちも配慮すると、唯一の両者を満たす答えは、薪の表面を削り、セシウムが検出できない部分だけにしたうえで、その誰もが安全と思えるところだけでもいいので、送り火で燃やすことだったと思う。そのような努力をすれば、岩手の人も京都の人の誠意を感じることができただろうし、京都の不安な人はそれでも不安かもしれないが、徹底的に調査してセシウムが検出されない状態にしたものというお墨付きがあれば、実害がでるはずはないので、多くの人はしぶしぶでも納得できたはずだ。少なくとも私は、京都市がそれだけの努力をしてくれれば、今年の送り火は、より強く共感を持つことができる特別のものになったと思う。
 しかし、今回のように、セシウムが見つかったので、一気に全部ご破算、というのでは、結局、最初に放射能の心配をして電話で岩手の薪を燃すことを非難した人と京都市は同じレベルだったということになる。京都市は、わざわざ改めて岩手から薪を取り寄せたのだから、精一杯、少しでも使える所を使う、という志を見せてほしかった。これでは、市が率先して風評を正当化したようなもので、考えられる中で最悪のシナリオだ。
 関東と東北一帯には既に放射性物質が散布されてしまっているので、厳密に検出すれば、どこからでも多かれ少なかれ放射性セシウムなどは出てくることは当然予想される。このような形で自治体やマスコミが率先して放射性物質アレルギーを是認するようでは、今後とも風評を押さえることは無理だろう。今回の岩手の薪の使用禁止に賛成する人は、おそらく、関東や東北の物産は買おうとは思わないだろうし、旅行にも行きたくないと思っているのではないか?
 インターネットの書き込みで、京都は国際的な観光地だから少しでも放射能汚染を広げてほしくない、という内容があった。その気持ちはわからなくはないが、だからといって、使っても大丈夫な部分の薪も十把一絡げにして全部使用しないというのはあまりに人の気持ちを踏みにじる乱暴な決断だ。それに、このような発言は、暗に体内被曝してしまっている人は京都に来てほしくもない、と言いたいようにも聞こえる。例えば、駅や道路に放射線測定装置を付けておいて、一定値以上の放射線を出す人や車を京都からシャットアウトすれば満足するのだろうか?
 海外から見れば、京都を含めて日本は放射能で汚染された国だ。放射能が怖いから京都には行かない、という海外の人は今でも多いと思う。そのような風評と戦うためには、福島の原発周辺以外の地域は、生活したり観光したりする範囲では放射能の心配はない、日本の産物も安全だということを長い時間を掛けて地道に世界にアピールしなければならないだろう。日本人が現在のように放射能に過敏に反応しているニュースを海外から見れば、やっぱり日本は危ないと思うに違いない。京都市は自分で自分の首を絞めている。薪の表面から放射線が検出されて、内部からは検出されなかったなら、大騒ぎしないで、表面を削った上で改めて放射能汚染を調査しなおして、問題のなくなった形で使用することにすればそれで済んだことなのだ。
 観光地は単に歴史的に重要なものがあれば人が集まるというものではないと思う。観光はサービス業の典型であるが、サービスの基本はお客様の心を満たすことのはずだ。見るだけなら、テレビでもかなり満足できる。わざわざ現地に足を運ぶのは、そこにいる人と会話をし、暖かい心のふれあいができるからではないだろうか? 今回の件で、京都は観光の原点を自ら放棄してしまったと思う。少なくとも私は、今後当分の間、京都に行っても不快な気持を思い返すことはあっても心のやすらぎを感じることはないと思う。
 今ならまだ、16日の本番までに時間がある。岩手の薪の表面を削って誰もが安全と思える形にしたものを、少しでもいいので、送り火で燃やすために最後まで努力をしてほしい。