財界の姿勢

「実は移民問題とは経費削減対策なのだ。財界主導の政策は、ほとんど常に我田引水の経済論だ。消費増税と法人減税もそうだ。それらは、ここ十数年間が示すように、弱者を追い込み、雇用を壊すことでデフレ不況や少子化を推進したばかりか、社会をズタズタにしてきた。自省はどこにも見られない。」
この発言の主は、藤原正彦氏です。出所は、週刊新潮の冒頭コラム「管見妄語」、昨年の秋頃の記事ではなかったかと思います。いいことをおっしゃるな、と思ってその場で破いておいたのを、資料の束から最近見つけました。
藤原正彦氏の経歴は、コラムの本を刊行している新潮社のHPにありました。「1943(昭和18)年、旧満州新京生れ。東京大学理学部数学科大学院修士課程修了。お茶の水女子大学名誉教授。1978年、数学者の視点から眺めた清新な留学記『若き数学者のアメリカ』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞、ユーモアと知性に根ざした独自の随筆スタイルを確立。。新田次郎藤原ていの次男」(新潮社HPプロフィールより)。
新田次郎は、有名な『八甲田山死の彷徨』や『富士山頂』の作者であり、藤原ていは、満州からの引き揚げを描いた『流れる星は生きている』の作者で、私も両者の本を若いころ読んで感動しました。
藤原氏の「」部分は、最後の結論で、前段の部分はこうです。非熟練労働者として移民を受け入れる前にこの現実を見よ、ということ。つまり、260万人の失業者が現に日本にいる、1900万人の非正規労働者も存在する。経済界は正規採用で適正な賃金を払え、そうすれば建設、介護等の労働力に向かい、子育てにも取り組んで少子化も解決に向かう、と。
私も、まーったく同感。家族や社会を壊すゆがみを作り出す雇用制度や法人減税及び規制緩和の身勝手な理屈やそれに乗っていち早く儲けることを考える企業家、それも一部上場企業やその団体である経団連の考え方を見ると、日本の大企業経営者の国を思わない姿勢をしばしば思います。
こういうゆがみの悪影響を被っているのは、毎日の生活と家族の維持に苦心惨憺している大多数の普通の住民です。さらに普通の住民の生活を維持・向上させようと苦心惨憺している自治体、市町村、こう言ってもいいと思います。地方自治に関わっていると、社会的ゆがみ・格差是正に、住民に接しながら制度的に関わっているのが、国の法律や制度の枠組みの中での市町村であることが分かります。そこには、制度の原理・原則なき修正に翻弄され、苦労している実態があります。政権・政府を中心とし大企業も含む権力エスタブリッシュメントが、より根本的な所で社会の安定と平和と作り出そうとしていない、と感じます。
こんなことを漠然と思うので、冒頭の「 」の発言に拍手を送ったわけです。藤原氏は英国紳士(『遙かなるケンブリッジ』の著者)ですが、辛辣と言っても、こういう批判はあまりしないようなのですが、余程、腹に据えかねたのでしょう、直截な表現でした。
こういう批判を保守派あるいは保守的な人が、是々非々で活発に行えばもっと世間の議論の中身も変わってくると思います。大企業批判は、特定の政党だけの専売品的なものにすべきではありません。もっと出でよ、保守論客です。