戦争決別宣言決議案

東中光雄衆議院議員は、衆議院議院運営委員会の理事になり、戦争決別宣言決議案の緊急上程に反対しました。これが、足かけ28年にわたる議運での最後の仕事でした。

2000年(平成12年)5月30日(火曜日)衆議院議院運営員会

大島理森委員長 次に、決議案の取扱いに関する件についてでありますが、本日、池田行彦君外五名から、自由民主党公明党改革クラブ、保守党
の三会派共同提案による戦争決別宣言決議案が提出されました。
 本決議案の取り扱いについて御協議願います。
 逢沢一郎君。

○逢沢委員 動議を提出いたします。
 池田行彦君外五名提出、戦争決別宣言決議案は、本日の本会議において議題とされることを望みます。

○大島委員長 伊藤忠治君。

○伊藤(忠)委員 私は、次の四点の理由において反対をいたします。
 まず第一点でございます。この戦争決別宣言決議案でございますが、正式に、今申されましたような提出者を含めて議運理事会の場に提案をされていなかったわけでございまして、文面を含めまして提案そのものに瑕疵がある、これがまず第一点でございます。
 二点目は、国会の決議といいますのは、国会を構成する全国会議員の意思を一つにまとめて、世界平和を望みます崇高な理念、思想、考え方、実行の具体的な施策を含めて盛り込むものだと理解をいたします。したがって、不戦の誓いと称するのもよし、戦争決別と称するのもよし、その表題にふさわしい決議案を、全党が一致してこれを仕上げるというのが大前提だと考えております。過去においても、野党が反対する状況の中で、与党だけでこういう大切な決議案を数でもって強行するということは歴史になかったと思います。
 そういう点からして、不戦の誓いあるいは戦争決別宣言というものは、とりわけそのような条件を満たしたものでなければいけないと考えております。これが二点でございます。
 三点は、今も少し触れましたが、全会一致が前提であろうと思います。過去にもそうしてまいりましたし、今回のように、野党が反対する中で与党だけで多数を頼んでやっていくというようなことは、これは異常でございます。
 しかも、きょうの理事会で、まさしくどたばたで上程の運びになるというようなことは、限られた時間の中で党内の検討もできない、こういう状況でございますから、絶対に納得できないものでございます。
 第四点は、そのように見てまいりますと、明らかにこれは議会制民主主義のルールに反するものであって、我が国の国会におきます最重要決議案であるにもかかわらずそのことが守れないということであれば、議会制民主主義は死語に陥るだろう、こんなふうに考えます。何としても議会制民主主義にのっとって、案文の作成も与野党協議の上で、時間はまだ余っているわけですから、一日もあるわけですから、そこで誠心誠意詰めていくというのが、国会、議運理事会の役割であろう、委員会の役割でもあろう、このように私たちは考えます。
 以上の理由によりまして、決議案を国会に上程するということについては反対をいたします。
 以上です。

○大島委員長 東中光雄君。

○東中委員 今提案されたという戦争決別宣言決議案なるものは、私は、いまだ正式に見ておりません。
 聞くところによりますと、議案課では、本日の午前十一時五十五分に提案がされたということであります。
 議案の案件は、全議員に当然配られるべきであります。ところが、議運の委員会はもちろん理事会も、その案文はいまだ見ていない。理事会が終わってからと同時ぐらいに提出されたということになると思うわけであります。
 極めて異例であり、それを本日の本会議にかけるというのは、これは議会制民主主義という点からいって異常である。
 同時に、国会決議という点からいいましても、基本的に全会一致でやれるということであってこそ、初めて国会決議としての意味を持つわけでありますが、こういう形での提案というのは極めて異例であるということを申し上げたい。
 内容については、戦争決別宣言決議は、自民党の野中幹事長が提起した不戦の誓い決議に端を発したものであり、自民、公明、保守三党の総選挙に向けた共通政策として出されてきたものであります。
 戦争決別といえば聞こえはいいが、問題は、今何のためにこのような決議を国会がする必要があるのかということが問題であります。
 戦争放棄、軍隊、陸海空軍その他の戦力を持たないこと、戦争する権利、交戦権を認めないことが憲法第九条に定められていることは、日本国民はもとより、世界じゅうの人々に知られていることであります。この九条こそ日本が世界に向かって戦争決別を宣言したものであり、これ以上の戦争決別宣言はないと思います。
 しかも、憲法は国の最高法規であって、国会決議とは比べ物にならない重みを持っています。憲法九十八条、九十九条では、憲法は、国の最高法規であって、天皇国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、「この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と定められております。戦争決別を宣言するというなら、憲法九条の擁護をこそ決議すべきであります。
 ところが、現実には、憲法九条を無視して自衛隊という名の軍隊をつくり上げ、日米ガイドラインとその関連法に基づき、アメリカのアジア太平洋戦略への加担、協力が進められています。アメリカの起こす戦争に日本が参戦し応援する仕組みが着々とつくられている。その上、憲法調査会では、政権与党の方から、公然と憲法九条改正が主張されています。
 こうした一連の憲法九条を無視した現実政治と、今回の戦争決別宣言はいかなる関係にあるのか。それは、憲法九条無視の自民党政治を覆い隠すものにほかならない。そういう決議には賛成するわけにはまいりません。
 今、森総理の、日本は天皇を中心とする神の国という発言が問題になっているのは、この発言が、戦前の日本において軍国主義侵略戦争を推進する力となった思想であり、戦後の日本は、侵略戦争の反省に立って、神国日本を否定する平和、民主主義の憲法を制定し再出発した、これが今日の政治の原点であります。

○大島委員長 手短にお願いします。

○東中委員 これを否定するものとして、森発言が国際的に大問題になっているのであります。
 ところが、森総理は、発言を撤回もせずに居直っています。こういうことを放置しておいて、何が戦争決別宣言か、この決議で世界に何を訴えようというのか、国会の責任が問われることになります。
 国民にも世界にも説明がつかない、道理のない決議はやるべきではありません。
 今、多くの国民が、そして世界が、憲法九条に対する日本の政治、政治家の態度を厳しく見詰めています。

○大島委員長 東中先生、そろそろお願いします。

○東中委員 このことに心をいたして、議院運営委員会としては、この議案を今度の本会議に上程するなどという暴挙は断じてやるべきではない、このことを強く申し上げて、意見の表明を終わります。

○大島委員長 東祥三君。

○東(祥)委員 先ほど両党から、この決議案の緊急上程に関する手続上の瑕疵について発言がございました。全く我が党としても同感でございます。
 さらにまた、今この緊急上程をされるに当たって、提案理由もされておられません。提案理由は、聞くところによれば、悲惨な経験をした九州、沖縄において今般九州・沖縄サミットが迎えられる、この佳節に当たり改めて戦争決別宣言をする意味がある、このようなことを聞き受けております。
 しかし、もしそうであるとするならば、なぜ今日緊急にこの案を提出しなければならないのか、その理由には全く理解に苦しむところであります。
 いろいろと予想されている、本当かどうかはわかりませんが、たとえ近々総選挙があったとしても、総選挙後に特別国会を開くなりして、この問題の重要性をそれほど深く認識するとするならば、そこでちゃんと時間をかけてやられればいいんじゃないでしょうか。
 さらにまた、内容について、これまたよくわからないのでございますが、なぜ何度も戦争決別宣言なるものを我が国会は行っていかなくちゃいけないのでしょうか。
 一九二八年、パリ不戦条約において日本国は戦争をしないと調印した国であります。しかし、それを破棄し、そして第二次世界大戦に向かっていく。そのとき、二百数十万の同胞のとうとい命を失った。
 一九四五年、国際的に第一回目のいわゆる国際連盟の経験を踏まえた上で国際連合ができ上がる。国際連合を担保している国連憲章において、国際社会全体として戦争違法化の思想がビルトインされたはずです。その思想を受け継いで、一九四六年、現憲法が成立し、その第九条一項において戦争放棄というものを明確にしたためているではありませんか。日本国民一億二千六百万人、その基本的な思想を共有していると思います。
 そしてまた、一九九五年、先ほどお話がありましたとおり、改めて国会全体としての決議として、この悲惨な戦争経験を踏まえた上で、新たなる平和に対しての決意を日本国はしておるわけです。そして、この二〇〇〇年というときにまた新たに決別宣言をしていくということは、どういうことなのでしょうか。日本というのは、事あるごとに何か言っていかなくちゃいけないのでしょうか。
 一九九〇年、委員長もよく御存じであった、あの湾岸戦争が勃発したときに、日本は国際の平和と安全のために何をどのようにしていくのかということが鋭く国際社会から問われたのではないですか。それを具体化していくために、今、国会の中でもけんけんがくがくの議論がいろいろなところでされていると思います。それがまだ実現されていない段階で、ただ宣言だけを言うということ、中身はよく見ていませんからよくわかりませんけれども、それは余りにも国際社会における日本の位置づけというのを知らなさ過ぎるのではないでしょうか。
 そういう視点から、内容はともかくとして、一番初めに両党からお話がありましたとおり、この緊急提案がなされるそのプロセスそれ自体に瑕疵がある、まずその一点でもって、本日の本会議における上程に対し、厳しく、また強く反対の意を表明したいと思います。
 以上であります。

○大島委員長 深田肇君。

○深田委員 社民党の深田肇でございます。
 本日の議事運営について大変に疑義と不満があることを冒頭に申し上げておきたいと思います。
 と申しますのは、本日の十一時から議運があって、それで意見交換をした上で四十五分まで休憩をいただいて、その冒頭に野党の筆頭の方からいろいろ意見が出ました。
 特に私どもとしては、その意見に賛同する立場で申し上げるのでありますが、やはりこういう重要な国会決議は、できる限り粘り強く話し合いをして、そして意見の一致を見出すという努力をするべきだというふうに今でも思っています。そのための努力を惜しまないつもりでございます。
 その立場から申し上げますと、余りにも短い時間で、そして、そこのところは、十分な討論なり横の連絡もとれないままにこういう形の中で開かれることについて、大変に不満であることを申し上げておきたいと思います。
 そういうことを申し上げた上で、私は、今同僚議員がおっしゃっているとおり、前例のないこういう国会決議を今回あえてやることについて、大いに不満だし反対だということを申し上げておきたいと思います。
 短くやれというお話でありますから、それに協力する立場で申し上げますが、内容については多くを語るつもりはないのでありますが、一九九五年の国会決議よりも本日予定されていると言われるこの決議案の方が内容的にはレベルが低いのではないかということを直感として感じております。したがって、それより低い国会決議をやることについても反対だということを申し上げておきたいと思います。
 最後になって恐縮でありますが、小渕総理を失って、その方の追悼をするこの日、私どもの村山富市が追悼のごあいさつをするその日になぜやるのか、日を変えてもらえればよかったなという気持ちが強いということを最後に申し上げておきたいと思います。

○大島委員長 それでは、逢沢一郎君の動議に賛成の諸君の挙手を求めます。
    〔賛成者挙手〕

○大島委員長 挙手多数。よって、そのように決定いたしました。
 なお、本決議案の趣旨弁明は、提出者の池田行彦君が行います。
 また、本決議に対しまして、内閣を代表して、森内閣総理大臣から発言があります。