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2017-03-13

『風に濡れた女』を見た。

犬のおさわりさん

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ロマンポルノ45周年を記念し企画された「ロマンポルノ・リブートプロジェクト」の一作目。監督は塩田明彦。主演は永岡裕、間宮夕貴鈴木美智子中谷仁美ら。


都会を離れ山奥の小屋でひっそりと暮らす元劇団作家の高介(永岡裕)は、ある日海辺で自転車に乗った若い女と出会う。汐里(間宮夕貴)というその女は自転車のまま海へとつっこみ、そのまま何事もなかったかのように海から上がり、平然と肢体をさらけ出し、そして高介にまとわりつくようにして「家へ泊めてほしい」と申し出て・・・



冒頭、自転車に乗った女がいきなり男の目の前に現れ、そのまま海の中へと突っ込んでゆくのは確かに神代辰巳監督『恋人たちは濡れた』のオマージュであり、ロマンポルノリブートプロジェクトと称された作品であることを高らかに宣言しているとも思えるのだが、しかし塩田明彦監督は既に『カナリア』で少年と少女を似たようなそっけなさで衝突させ、さらに女がなんだかんだと言いながら男についてくる場面を撮っているのだから、企画だから筋を通した、などということではないのだろう。



しかしそれでも神代の影が見えるとしたら、それはこの冒頭ではなく、登場人物が延々と遊びに興じていることである。そこに流れる情感に差異はあれど、不思議と祭りのような様相を呈する人物たちの動きに魅了される部分に僕は面影を見た。本作では、舞台から道具から人物の行動に至るまで多くの装置に満ちており、その装置はある女によってひとたび作動させられてしまえばあれよあれよと男の予期せぬ方向へ動きだし、それにより物語も転がってゆくのである。しかもその一つ一つは意味を持たず、ひたすらに展開される無益な遊びにひたすら笑い通すこととなる。つまりは単純に面白いのだ。実際この作品を見ている間はとにかく笑った。あまりにも面白いので、こんなことでいいのかと思わされるほどである。その装置感覚の一つの極まりが夜の乱交パーティーであって、一つのセックスが無数のセックスを生み出し、しかも車ではほとんど機械的にセックスがなされているのである。



さて、とはいえこの作品の遊びには男女間の闘争が根底にあるといえるのだろう。しかもその闘争とは文字通り相手の上に立つということであって、間宮夕貴演じる女は永岡佑演じる男の頭の上によじ登ろうとしている。男は、かつて西部劇に出てくる男たちがそうしたように抱きかかえ、更に落とすわけだが、それでも女は男の生活に無許可で立ち入り、相手の上に立つ機会を獣のように、時に獣の真似さえしながら、殴り合いかのごときアクションと化したセックスを武器に狙うのである。このようにしてみると本作はロマンポルノとはどこか違い、しかし西部劇とももちろん違う。もしかしたら、これはセックスさえも闖入者の破壊的行動と化したスクリューボールコメディなのではないか。そう考えれば、最後に家が倒壊し、犬の本性が暴かれた男の耳に虎の咆哮が聞こえるのも無理はない。



そんな犬と虎の物語が成立しているのには、間宮夕貴という女優の存在がやはり一番大きいだろう。本作には確かに濡れ場は多く存在していれど、それは色気を欠いた闘争としての濡れ場であって、そういう点で見れば最良のキャスティングであったと思わざるを得ない全身の説得力を持っている。もちろん、永岡佑中谷仁美の、それぞれ種類の違う犬感も素晴らしいのだが、それもまた全身に魅力を纏った女優が中心に存在しているからこその輝きなのではないか。というわけで本作は間違いなく、美しい女の映画でもあるのだ。間違いなく今年のベストに入る傑作。

風に濡れた女

風に濡れた女

2017-03-09

最近見た旧作の感想その30

『顔役』(1971)

勝新太郎主演であり初監督作品かつ、菊島隆三と共同で脚本を手がけ制作までした一作でありながら未だこの作品はDVDはおろかVHSですら見ることの叶わないという状況に置かれているのだが、先日まで行われていた没後20年の特集上映により遂に見ることが出来た。そして驚いた。アヴァンギャルドな作品だという話は聞いていたがまさか『警視-K』や『新座頭市物語 折れた杖』を上回る作品だとは思いもしなかったのである。



一体何がそんなにおかしいのか。ストーリー自体に難しいことはない。同じく菊島隆三が脚本を手がけた、黒澤明監督の『野良犬』を思わせるうだるような暑さの中、ベテランと新人かと思われる刑事がある事件を追うのだが、勝新太郎演じる先輩刑事の立花はほとんど彼が追うヤクザと同じような性分を持っており、上司役の大滝秀治にもそのように評されている。これだけ聞くと平凡な刑事ものの範疇に収まっているように思える。しかし問題なのは、その語り口なのだ。例えば、ピントがボケるほどの接写の連続であるとか、誰がどこにいて喋っているのか判断のつかない前後不覚な編集、ぶっきらぼうでそっけない描写説明不足のまま次の展開へ進む唐突さに、かと思えば不必要に長いと思われる場面が登場する。これらの要素は、互いに呼応しあいひとつの世界を作り上げているといった代物ではない。それぞれがそれぞれに画面と物語を破壊し、繋がりは分断され、暴力的に圧迫され続けるのだ。

これら映像的な特徴は、後のテレビドラマ『警視-K』に大きく受け継がれている。しかしあちらと異なるのは、その効果においてである。例えば『警視-K』では手前にとにかく物を置く執念が画面に奥行きを与え、鏡は相変わらずとはいえ前後不覚に陥ったまま整理されないということはないし、長いシーンは役者の突発的な面白さを引き出すためだろうし、事件の顛末が重視されないことはあっても、最後には家族の風景が静かに街へと溶け込み、ぶっきらぼうな男が暗く沈んでゆく心地よさがそこにはあった。しかし『顔役』はそうではない、ドキュメンタリックなつくりは似通っていても、『警視-K』が心地よく暗く陶酔させてくれる作品だとしたら、『顔役』は暴力的に泥酔状態にさせられた挙句放置されるような感覚に陥るのである。両者の終わりの風景はその通り、明らかな差異がある。



ところで、この作品は勝新太郎の兄・若山富三郎主演、三隅研次監督の『桜の代紋』(1973)と似ている部分が多い。モデルが同じらしくある程度似ているのは当然だろうが、陰鬱でカタルシスを掴めない展開も似ているし、何より反射演出は『桜の代紋』でも頻出している。しかし三隅研次はそれ以前より光の反射に強く美的関心を抱いていたことは間違いないだろうから、これをしてすぐに相互の影響が、というつもりはない。問題なのは、三隅研次はいくら暴力的で陰惨であろうともやはり美学と呼べる演出がそこに伴っていたということなのだ。そしてこの2作は北野武監督『その男、凶暴につき』の物語とも似ている。ただし北野武に関しては、その暴力性が引き延ばされた退屈な遊戯の感覚としてひたすらに歩くシーンを伴いながら演出されおり、やはりそれが作品のリズムのように成立していた。物語のみならず暴力シーンの突発さなどで共通しあう作品の中でも、『顔役』の極端さや無茶苦茶な様は群を抜いている。



では勝新太郎はこの作品で一体何をしようとしたのかというと、それはおそらく、破壊であろう。文法的な破壊により分断された画面や展開は勿論だが、この作品では警官という存在が破壊されており、それは彼が警察手帳に触れる瞬間に表れている。立花が警察手帳に触れるのはそれを捨てるか、投げるか、もしくは部下が手にしたのを叩き落とすぐらいなものである。さらに一度投げ返した警察手帳を再び受け取ったかと思いきや、彼はヤクザも真っ青の行動に出ており、手帳が象徴する「警官」という存在は破壊されている。そして勝新太郎は続く『新座頭市物語 折れた杖』で座頭市という存在を破壊した。そこに英雄的姿はなく、ひたすら蔑まれ忌み嫌われる存在となっていたのだ。その後の『座頭市』や、『警視-K』ではその傾向が減少していることを考えると、何故そうしたのかはわからずともこの2作の異様さはより際立つ。なかなか見ることの叶わない作品だが、強烈な個性に殴られるのは疲れるけど楽しいものだ。何とかして手軽に見れる環境を整えてほしい。

ちなみにこの作品の山崎努は不敵さも色気もあって最高。勝新太郎は自分のことだけではなく役者の扱いがうまいのだと思う。

2017-01-26

『沈黙 -サイレンス-』を見た。

てんたさんに放し給ふことなかれ

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マーティン・スコセッシ監督最新作。アンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライバー、窪塚洋介笈田ヨシ塚本晋也浅野忠信イッセー尾形リーアム・ニーソンら日米のキャストが集結した。原作は、遠藤周作の代表作「沈黙」。



1640年。日本で宣教活動をしていたフェレイラ(リーアム・ニーソン)が、厳しい弾圧に屈し、遂に棄教したとの噂が、彼の弟子であり神父のロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)とガルペ(アダム・ドライバー)の耳に入った。その噂を信じられない2人は、危険と知りながら日本へ潜入することを決める。マカオで出会ったキチジロー(窪塚洋介)の手引きを得て日本へ上陸した二人は隠れ切支丹の里へ案内され・・・



いかにもスコセッシらしい作品である。まず作品のスタイルとして、ボイスオーバー、長回し気味の移動撮影や主観視点の移動、真上からの俯瞰、止め画の挿入、スローモーション、リズムを生むカッティング、素早いパン等、『君のような素敵な娘がこんなところで何してるの?』から今に至るまで数多くの作品で見られたいくつものテクニックが、抑え気味とはいえそこかしこに散りばめられている。

加えて、テーマ的な面でもいかにもな「らしさ」に満ちており、矛盾を抱えた者と贖罪、友情と裏切り、精神的・肉体的な地獄を巡る物語、そして負けたその後の人生という、スコセッシ作品に遍在する要素が当然のごとく本作にも表れている。程度の差こそあれ、精神と肉体の地獄をパラノイア人物が躁鬱気味に行き来するのはスコセッシ作品の常であり、その地獄が快楽に基づけば作品は狂騒に、苦悩に基づけば作品は抑圧に向うのだが、もちろん本作の場合は間違いなく後者で、苦悩に基づいた抑圧的な地獄を巡る物語となっている。つまり物語にしても間違いなくいつものスコセッシ映画ではあるのだが、映像も含め過去作で最も近いのは『最後の誘惑』や『クンドゥン』といった直接宗教を題材にした作品ではなく、『シャッター・アイランド』の雰囲気であろう。水に囲まれた霧のかかる列島の、その視界不良な様は真実を覆い隠す孤島に重なり、スコセッシ作品において頻出する炎が暗闇で灯り、明るみになった火と水の恐怖を前に、格子の中にいる主人公は迫害されるのではなく、懐柔を望まれる。はっきりホラーとしては演出されてこそいないものの、間違いなく『沈黙』にはその要素がある。



もう一つ、スコセッシ作品の特徴として見逃せないものがある。それは生活スタイルの描写だ。生活スタイルとはつまり街と、そして街に住む人物たちの生活描写のことであるが、それは自伝的な初期作品の頃から拘っている部分だ。ギャングであれ聖職者であれ音楽家であれ画家であれ上流階級であれ金融業界であれ、スコセッシは彼らの生活スタイルをまずは丹念に描写してきた。本作であれば隠れ切支丹がそれにあたり、彼らがいかなる生活を強いられ、いかなる信仰を持つのかということは後の展開、つまり「沼」たる土地ということと併せ繰り返されているし、もちろん反対にその「沼」へやってきたキリスト教者たちの傲慢さにも目はむけられている。

この生活スタイルの描写を支えている大きな要因として、それが正確であるかどうか僕には判断できないとはいえ全体のデザイン・造形の説得力があるのは間違いないだろう。ただしそれら諸々のデザインの後押しを受け、画面に生を与えた役者の演技も忘れ難い。本作では劇伴がほとんど流れないため、必然的に自然音や役者の声そのものに耳を傾けることとなる。そしてその、それぞれに持っている声の個性が『沈黙』という作品を形作っているのである。事実、物語としてもフェレイラの声なき声がロドリゴを日本に呼び寄せ、そこで彼ははじめ隠れ切支丹の声を聞き、自ら声をかけ手を差し伸べることで司祭としての役割を果たすものの、次第に見守ることしかできなくなり、手を差し出すこともできないまま、聞こえ浴びせられる無慈悲な声だけが徐々に近づくその果てに、見守られているということに疑念を抱く。そうして最早見守ることすらできなくなった彼の声は消え、最後には全くの第三者の声によって幕を閉じることとなる。声とその距離は、作品の最も重要な主題でありそしてそれは神や、神に仕える者ならず登場人物たち全ての声であって、見るもの、見られるものという視点の絡み合いを経て変遷してゆく。



しかし、声のみならず肉体的に映画を動かす人物がいる。それがキチジローだ。彼は不自由な土地の中、一人惨めに動き回っており、そんなキチジローの動きを常に見ているのがロドリゴである。中でも、捕らえられたロドリゴが牢の中から彼の姿を見つめるシーンは素晴らしい。踏み絵を断った切支丹の元へ侍が徐々に近づき、首が切り落とされる。その首が視線を左右に誘導させつつ、さらに早めのパンによってキチジローの「踏絵」と逃走を見せる。このシーンは、格子を使った見せ方や声の距離という観点から、本作の白眉といえるだろう。そして窪塚洋介は、キチジローというキャラクターを歩き姿から立ち振る舞い、そしてせわしない眼や口の動きによって作り上げていると思うのだが、このキャラクターは非常にスコセッシ的でもある。卑しく弱く、救いを求めつつも相反する行動をとってしまうキチジローは、その性ゆえに苦しみから解放されることはなく、周囲から見下され、そして自らをも見下して生きていかざるを得ない。これは初期作品におけるハーヴェイ・カイテルに、ジェイク・ラモッタに、その他諸々のスコセッシ作品に共通するキャラクターの特徴であり、彼らのような、憧れた姿になることはできず、身勝手に「愛」を求め彷徨う惨めさは、少なくとも僕にとっては最も共感出来るキャラクターであり、スコセッシ作品が好きな理由の一つでもある。ただしこのキチジローは、最も卑小であると同時にロドリゴにとっては、最も偉大なる贈り物でもあるのだ。



以上のことからいかにもスコセッシらしい作品であることは間違いないのだが、しかし彼のフィルモグラフィーにおいて、取り立てて素晴らしい作品であるとは思わない。というのもまず、本作は役者の演技をこそ見せることに終始している印象を受けてしまう。確かに、会話シーンはクローズアップだらけとはいえ丁寧に演出されているから退屈ということにはならないし、ロドリゴと日本人の距離演出するカメラワーク、またすでに述べたデザインと合わさったショットの充実に、洞窟内で松明の灯が画面右上からぼうっと登場する場面など楽しむことはできるものの、溝口健二と、そして何度目かの『狩人の夜』のやや無謀なオマージュでは画面に物足りなさを感じる。そして最大の不満点は、原作でも最も強烈な印象を与える「鼾」の描写があまりにもおざなりであるということなのだ。「鼾」かと思われた音の正体が明らかになるまでがあまりにも性急であるために、その音がもたらす混乱が、ひどく薄味に思えてしまったのである。

とはいえ、『沈黙』は個人的に感慨深い映画ではある。スコセッシがこの小説の映画化に着手しているとの話を目にしたのはもう8年ほども前の、僕が高校生だった頃にさかのぼる。当時『タクシードライバー』や『グッドフェローズ』に感銘を受けた僕はスコセッシが映画化することを知ってこの小説を読んだ。といっても、スコセッシが映画化するということに加え、学校が指定する読書感想文のリストにたまたま入っていたから読んだのであって、自主的な選択とは言えないのだが、しかし読んでみて驚いた。キリスト教に関する知識などほとんどなかったものの、地獄めぐりの果て価値観が転倒し「転んでくれ」と思わせる、物語の面白さに引き込まれたのである。全く読書家ではなかったし、当時は感想文など授業でしか書かなかったからその興奮をうまく伝えることもできず、自分の中に残り続けていたのだが、それから長い年月を経て、ようやく映画作品として見ることが出来たという点において、嬉しい劇場鑑賞ができたのである。

沈黙 (新潮文庫)

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2017-01-03

最近見た旧作の感想その29〜下半期旧作ベスト〜

皆さんあけましておめでとうございます。今年も当ブログをよろしくお願いいたします。

さて、早速ですが、昨日書きましたように2016年下半期に見た旧作の中で特別面白いと思えた作品について、一言程度コメントを添えつつ、紹介したいと思います。並び順は単に見た順というだけです。ちなみに、昨年の旧作鑑賞数は218本でした。上半期ベストについては<こちら> をどうぞ。



王と鳥(1980 『やぶにらみの暴君 1952』)

これは傑作だった。デザインや動きの、ただひたすらな面白さ。ファンタジー且つSFのアイデアに満ちつつシニカルで現実を反映させたような世界観。そしていくつかの場面はキリコ絵画みたいでもある。階段が多く登場するが、王は殆ど自分の足では歩いておらず、主人公の少年少女はその多くの階段を下るという、縦の画面もまた非常に印象に残る作品。個人的には今まで見たアニメーション作品の中でもかなり好き。



『静かなる男』(1952)

陽光差し込む風景の美しさであるとか、窓枠から覗く顔、それに2度ある雨と風の中での抱擁とキスなどなど、画面から多幸感があふれ出ている。特に素晴らしいのは、モーリン・オハラがストッキングを外して水浴びした後の脚の輝きなのだが、他にも投げられる帽子とか宮崎アニメみたいな最後の喧嘩など、とにかく諸々全部最高。フォードの中で、といってもまだ15本程度しか見ていないのだが、ベスト3に入るくらい好き。

静かなる男 [DVD]

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眠狂四郎 悪女狩り』(1969)

真っ黒な背景、逆さづりの女、ぶら下がる箱からの死体飛出し、蝋燭、謎の舞踏集団、偽狂四郎と対決する森の美術、そして池広一夫監督お馴染み真上俯瞰などなど、外連味が凄い作品。物語上、市川雷蔵の登場は少ないが台詞は相変わらずの感じだし、女優陣も目立ってる。今年は眠狂四郎の未見作品を制覇しようと思う。

眠狂四郎 悪女狩り [DVD]

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トリュフォー思春期(1976)

なによりも坂道を歩いたり走ったりする子供たちの姿が魅力的で、大人から見た子供、というよりはちゃんと「子供たち」を捉えようとしている。密集した住宅でのやりとりや、時間になり教室から走りだすのがその教室内だけでなく、窓越しにも見える学校の風景がいい。タイトルにもある「思春期」なラストも好きで、どことなく塩田明彦監督の『どこまでもいこう』に近いものを感じる作品であった。



マジェスティック(1974)

怒りのスイカ農園主。急に始まる銃撃戦、大地を突っ切る車、狩場に誘い込まれる敵一味、水平に飛ぶブロンソン、家を舞台にした銃撃戦などの、位置を把握しながらの戦いは燃える。廃工場みたいな場所(ちょっと黒沢清みたいだ)や最後の車に乗るまでの長回しも最高。下半期見たフライシャー作品では『見えない恐怖』も良かった。



東への道(1920)

壮大なメロドラマ。ロングの画面からシーンが始まることが多いのだけれど、その中でも特に風景を切り取った画面の美しさがすごくいい。最後の流氷は確かに凄まじいとはいえ、個人的にはリリアン・ギッシュが過去ゆえに告白を受けようとしない場面の水面、光が反射する湖の美しさのほうが好き。水が激しさと緩やかさによって、恋愛の場面を彩っている。あと縦に伸びる一本道。ちなみにその、縦に伸びる一本道のうち、画面奥で雪合戦をしている子供たちがいるシーンはリュミエールが頭をよぎったりもした。



パリ、テキサス(1984)

ヴィム・ヴェンダースは今までなんとなく見る気が起きないでいたのだけれど、これは面白かった。緑や赤の場面が多く、そして青もときたま印象的に出てくる。そして何より、歩いているシーンがいい。特に道路を挟んで子供と歩き続けるところは最高だろう。そして最後、ガラス越しに妻と会話するシーンは、お互い自分が話すときには相手に背を向けており、そのガラス窓の使い方も良かった。

パリ、テキサス デジタルニューマスター版 [DVD]

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『浪華悲歌』(1936)

流麗に動き、歩きを捉えるカメラや冒頭と反転して水面に映る街や室内の画面構成、例えば電話交換手という立場を利用しての視線のつけ方など、当然のごとく素晴らしい。また面白いのは、金を横領した父親を、同僚が家まで訪ねに来る場面、父は傘の柄を見て家に入らず逃げる。また山田五十鈴の恋人は、彼女が自分の行いを告白した辺りから、画面上で顔を見せなくなっているという部分である。



『抜き射ち二挺拳銃』(1952)

斜面に聳える岩山の陰に隠れつつの銃撃戦とその位置関係。ここぞというところで派手な動きや馬の疾走を入れるアクション。窓を通り抜け家の内側に移動するカメラ。そして、ファムファタールに翻弄される男の一人称語りが頻出する、ノワール的話でもある。タイトで間違いなく楽しめるドン・シーゲルの一本。

抜き射ち二挺拳銃 [DVD] FRT-287

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『西部魂』(1941)

だだっ広い荒野に電線を張り巡らせていく。その下では馬車の移動があったりで、奥行きの存在感が印象的。また男たちの友情が育まれる中で、ある過去ゆえ1人が途中、真っ黒いシルエットに身を染める影の使いかたも流石フリッツ・ラング。最後の銃撃戦は布やカーテンの使い方、そして弾痕の跡をしっかりつけてゆくのが良く、また山火事スペクタクルまであるという楽しませっぷりが最高。

西部魂 [DVD]

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『雷鳴の湾』(1953)

海底油田掘削譚。『裸の拍車』も『ウィンチェスター銃73』でも特徴的であった、アンソニー・マンらしい高低差も今作では例えば階段を使ったりして地味ながらも随所で発揮されており、またその立ち位置の差はキャラクターの関係性に繋がる。若干狂気を感じさせる夢追い人のジェームズ・スチュアートは基本上なのだが、最後の最後に彼がどういう位置で対立するかというのが面白い。そして冒頭と対になる車もいい。

雷鳴の湾 [DVD]

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『日本暴力列島 京阪神殺しの軍団』(1975)

山下耕作監督の実録路線は美学はあるけど猥雑さは弱くどこか物足りないと思っていて、実際本作もそんな感じではあるのだけど、例えば2度ある橋の下にカメラを置いたところからのアクション(2度目は山下監督らしく花まで登場する)はカッコいいし、特に素晴らしいのは、風が吹き白い布の揺れる川岸での殺害シーンであって、これはロングショットの気持ち良さが抜群に素晴らしかった。



新宿の与太者』(1970)

一杯のラーメンをすすりあった菅原文太佐藤允の友情に泣く。ちょっと長めのショットで見せるパチンコ屋襲撃や即報復する文太の暴れっぷり。しかし同時に友情に熱い、というよりちょっと可愛らしさのあるキャラも良く、また照明、それにカメラが引いてからの車からの銃撃、歩行者天国の撮影も最高で、一体この、高桑信という監督は何者なのか非常に興味がわき、2017年はこの人の作品を見ていきたいと思わされた。

新宿の与太者 [VHS]

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摩天楼(1949)

圧倒的仰角と俯瞰は同じくキング・ヴィダー監督の『群衆』よりも強烈で、その角度がまず一つのスペクタクルだし、冒頭の廊下の伸びや並べられた机、それに話自体も『群衆』と似つつも対になっていて面白い。風でめくれる紙の演出、そして馬鹿でかいあの窓たちが非常にいいし、破壊と爆破の恋愛物語としてもまた、面白いのである。

摩天楼 [DVD]

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拳銃魔(1949)

ちょっとやそっとではないというくらい面白い。冒頭の雨からしてやられてしまう。そして強盗長回しのみならず、車関連のシーンはカメラの動きからすべて素晴らしく、特にあの視線の交わりからのUターンは最高だ。もちろん、視線のやり取りはその男女が出会う射的場からすでに結びついているものでもある。ところで長回しの場面でもそうなのだが、クローズアップにするタイミングがうまい。ノワールらしい黒い影の映え方も女の存在感も素晴らしい。

拳銃魔 [DVD]

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以上が2016年半期に見た作品の中で特にお気に入りの作品でした。他にも、『年をとった鰐』の、何と表現していいのか言葉が思いつかないシンプルな良さであるとか、ヌーヴェルバーグ感を漂わせつつ天知茂の役に泣く中島貞夫監督の初期作品『893愚連隊』や、既に少し触れた『裸の拍車』『ウィンチェスター銃73』などアンソニー・マン作品。ニコラス・レイの『暗黒への転落』は冒頭の逮捕劇が無茶苦茶よく、その後も退屈にならない法廷劇の見せ方や判決が下るシーンのカメラ、そして多用される格子状の影に汗等々、画面で楽しめる作品だった。ウィリアム・A・ウェルマン『廃墟の群盗』はその廃墟描写もあることながらシュトロハイムの『グリード』を思わせる展開に、「見せない」最後の屋内アクションや、伏せる男達が印象的な作品だった。定期的に一気見したくなることが多い東映実録路線の作品については、以前ブログにも纏めて書いたことがあったのだけれど、今年も何度かブログを書きたいと思っています。特にDMM動画は作品が揃っているのでありがたい。

さて、去年の下半期旧作ベストでは本を読みたいなどと書いておりましたが、結局去年はあまり読めませんでしたので、今年もその目標は継続していきたいと思います。また、ブログの更新頻度も年々減っているので、なるべく改善したいところです。というわけで皆様、今年もよろしくお願いいたします。

2016-12-31

今年の映画、今年のうちに。2016年新作映画ランキング。

年の瀬でございます。というわけで今年もやります。2016年に見た新作映画ランキングです。今年は68本の新作を鑑賞しましたので、その全てに順位をつけていきたいと思います。尚、年内のうちに前後篇と分けて公開された作品については別々に順位をつけたいと思います。また公開日が昨年になってる作品でも、地方では今年初公開となった作品はランキングに入れております。つまり、今年劇場で公開された作品のうち、リバイバル上映を除いたものが選定基準です。それではまず、次点とベストテンから発表していきます。一応、ベストテン内の作品で、且つ個別に記事を書いた作品についてはリンクを載せておきます。



次点 傷物語 鉄血編

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とんでもない表現の数々。階段と建築、それに風や水面など非常に面白い描写、表現の連続で、しかも一つ一つのカットが早いうえに、カットが変われば世界がどう変わってもおかしくないというかのごとく自由。テレビアニメ版においても特徴的だった手法が、より尖った形で出ていると思いました。そしてテレビアニメ版では主に言葉が画面を先行しているのに対し、劇場版は画面が言葉を先行し世界を作り出しているように感じられました。あとは『ウイークエンド』を連想させる事故のシーン、僕はあれが一番好きですね。しかし3部作がまだ完結していないので、今回は次点とさせていただきます。



10位 ディストラクション・ベイビーズ

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暴力そのもののような男が暴力のみで行動することによって、暴力が様々な形で伝播し、さらにはその暴力の根源が見えてくるというまさしく暴力の映画なのですが、その過程を心理によってではなく、行為によって描いたことが素晴らしいと思います。途中不快になる、というか本作で菅田将暉が演じた役の有り方というのは心底最低だと思うのですが、そういう点も含めて暴力的でしたね。勿体ない部分、特に車が出てくるというのにその表現がイマイチというか、雨に濡れた車の色気がもっとほしいとは思いましたが、楽しませていただきました。



9位 サウルの息子

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言葉では到底言い表せないほどの暴力が目の前を通り過ぎ耳に入る、アウシュビッツという圧倒的な地獄の中を引きずり回される作品でした。説明はなくとも、サウルの背中を追ってゆくだけでその地獄の一端を見事な画面設計や音の効果によって感じ取ることが出来るのですが、しかしそれはアウシュビッツを理解させるというより、狂気と混沌の中では理性を殺さざるを得なくなるのだと実感させてくれるような作りで、そしてサウルはそんな中、一人正気と狂気の境界線上に残された微かな理性を保とうとしており、そのドラマも素晴らしかったですね。ただやはりこれは、整理されたものではない、かつてそこにあった地獄の真っただ中へ投げ込まれるという点が好きです。



8位 アイ・アム・ア・ヒーロー

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日常〜ゾンビパニックという最初の流れが素晴らしい。特に土足で家に入る、というところが素晴らしかったですね。大泉洋が走りだしてからは、あと一手、奥行きや背景を生かした惨劇が見られたらもっと良かったとか、森に入ってからのシークエンスがちょっともったいないとか、目に光を持たず微笑み続ける有村架純が、可愛いという事以外に役に立っていないじゃないかとか、完璧とは言い難い部分もありますが、終盤のロッカーシーンで泣いたことに嘘はつけないので、8位とします。「名前」についての物語も良かったと思います。

<感想>



7位 クリーピー 偽りの隣人

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廃墟のみならず、廃墟的人物による恐怖譚でありながら奇妙なテンションで展開する暴力喜劇でもあるというこの作品はとにかく楽しいの一語に尽きます。あちこちに散りばめられた黒沢清的モチーフが呼応しあい、異界を創造する手腕は流石としか言いようがありません。しかし、勿体ない、もっとこうだったら、などとないものねだりをしてしまいたくなる作品でもありました。ちなみに、今年最も反響のあった記事がこの『クリーピー 偽りの隣人』についてのものでしたね。

<感想>



6位 BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント

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ブリッジ・オブ・スパイ』の方が、確かに上質な映画なのかもしれません。しかしながら、スピルバーグが久々に本格ファンジーへ復帰したこの作品には「隠れる」こと「模倣」することといういかにもスピルバーグ的要素に満ちておりとにかく楽しい見せ場の連続で、しかもまたそれらの要素が、これまたいかにもな、孤独な者の救済へと繋がっていることに感動しました。そんなスピルバーグ印満載のこの楽しくて優しい作品を見過ごすことは、どうしてもできないのです。

<感想>



5位 ちはやふる 上の句

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今年最も驚きがあったのがこの作品です。これはやられた。これほどまでに動きの興奮が、音の張りが、横長の画面が、編集が、役者が、そして物語が良いとは思いもしなかった。特に感動したのはやはり机君であり、そして太一ですね。この作品では千早という人間をとにかく動かせており、そのことが広瀬すずの魅力を引きだしていることは言うまでもありませんが、彼女の動きのおかげで、机君と太一のドラマがより素晴らしいものになっていると思います。文句なしに、とまではいえないけれども、素晴らしい作品でした。

<感想>



4位 ダゲレオタイプの女

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今年は黒沢清の新作が2本も公開されたこともあり非常に興奮した1年だったのですが、『クリーピー』もこの作品もすごく面白かったとはいえ、間違いなく黒沢清のベストではないでしょう。しかし『ダゲレオタイプの女』は、『クリーピー』に比べ「もっとこうだったら」と思う部分が少なかった。そして個別記事でも書いたように、「直立」と「寝そべり」の縦横や、リュミエール兄弟を出発点とし『回転』に『顔のない眼』、小津、そして溝口を通過し、監督の過去作、特に『叫』共通する要素から、さらにボニーとクライド的な犯罪と恋愛に到達するその感動は、確かなものなのでした。来年も新作の公開が控えているということで、そちらも非常に楽しみです。

<感想>



3位 溺れるナイフ

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この映画は既に選んできた作品と比べて明らかに良くないなと思うところが多い映画です。ではなぜ、この順位なのかと言えばそれはもう山戸結希作品という個性を浴びてしまった、ということがまずあります。もちろん、そういった作品は他にもありますが、加えてこの『溺れるナイフ』は、ダンス的空間を生み出す人物の動きに山戸監督的少女像、そしてカット割りによる役割の差異の表出、ロングショットの画としての魅力、役者陣、そして僕の好きな「青春の終わり」もしくは「決別」を描いた作品だからという理由があります。最後のストップモーションのその瞬間、一瞬のきらめきを放つ、ナイフのように鋭い自意識と青春の終わりが集約されたその最期の瞬間に感動し、その気持ちに嘘はつけないので、3位に選ぶことにしました。

<感想>



2位 ハッピー・アワー

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5時間という恐るべき長さが、まるでそうとは感じさせないほどの速さで過ぎてゆく驚くべき作品で、しかしそれは決して速いテンポの作品だからということではなく、いくつもの豊かな場面/ショットによって、そう感じさせられているのだという充実感に満たされる作品でした。乗り物、重心、階段、旅行。4人の女性を中心に据えた物語の、不自由な人生は常に幸福とは言い難いかもしれないけれど、そのすべてを包む街の中で、幸福な時間が紡がれてゆくのだと僕は感じました。個人的に最も好きなのは4人で旅行に行く下りで、じゃれ合い、楽しげに過ごす時間の中、微かに感じ取れる別れの気配と、無意識にそれに抵抗するかのような姿に、不意に涙が流れた。そこには確かに、映画的な時間と空間によって生み出される感動が存在していたように思います。

<感想>



1位 キャロル

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なんと芳醇な香りの漂う贅沢で優雅な作品でしょうか。全編見事な画面、見事な演出、見事な物語、見事な演技に彩られたこの作品は、今年最も「映画を見ているんだ」という満足感を与えてくれました。特に見つめること、見つけること、盗み見ること、見つめ合うことという視線のドラマ。そして触れること、触れられることという感触のドラマがとにかく素晴らしい。年代感も良かったですね。また犯罪映画的ロマンスまで見せてくれるとは驚きでした。思い出すだけでも幸福を感じさせてくれる、ほとんど惚れたと言ってもいいような作品です。というわけで僕は2016年のベストに、紛れもない傑作であるこの『キャロル』を選ぶことにします。本当に素晴らしかった。

<感想>



<まとめ>

というわけで以上が僕の2016年新作映画ベストテン&次点でした。見られなかった作品で気になっているのは『光りの墓』『淵に立つ』『無垢の祈り』『ドロメ男子編女子編』『SHARING』『ソング・オブ・ザ・シー』『父を捜して』と、結局今年は公開されず来年公開の予定もなさそうな『ホース・マネー』ですね。元々首都圏ではない上に、かなりの田舎住まいなのでやはり取りこぼしは多くなってしまいます。

年々心に刺さる映画が少なってきてはいますが、今年はこれまでベストに選んできたような作品と系統の異なるリストになりました。それは勿論狙っている訳ではなく、ただ今年見た作品を思い返すとそうなったということなので、自分でも不思議です。しかしこのようにランキング付して気付いたのですが、上位4本には共通する要素があると思います。それは「現状からの逃走」です。4本ともそれぞれ当然事情は違い、1,4は銃と車と犯罪映画的な形として、2は関係性の変化として、3は青春の期待として、主人公たちは現状を変えるため逃走を図り、そしてそれは、ほぼ果たされていません。もちろんそうなるように順位付けしたのではなく、こうやって書いていて気付いたことなのですが、しかし無意識にそういう作品が好きなんだと選んでしまったということが恐ろしくて、というのもそれは今の僕の状況、つまりは、未だに自分自身に納得できず、どこかに真に目指すべき道があるなんて恥ずかしい勘違いを起こすも、しかし同時に目指すべき道を見つけることも歩き出すこともできぬまま可能性が閉じている。そんな自分の姿がこれらの作品を通して、うっかり見えてしまったようで恐ろしかったのです。

さて、今年も見る作品は厳選したため、これは酷いと思うような作品はありませんでした。なので特別ワースト、というものはありません。ただ、期待していたけれど思っていたほどではなかったという作品はありましたね。というわけで以下、今年見た新作の全ランキングと簡単なコメントを載せておきます。ワースト3となる64位までは好意的な気持の方が上です。



2016年新作映画ランキング>

1 キャロル

2 ハッピー・アワー

3 溺れるナイフ

4 ダゲレオタイプの女

5 ちはやふる 上の句

6 BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント

7 クリーピー 偽りの隣人

8 アイ・アム・ア・ヒーロー

9 サウルの息子

10 ディストラクション・ベイビーズ

11 傷物語 鉄血篇

12 ブリッジ・オブ・スパイ

13 聲の形

14 この世界の片隅に

15 死霊館 エンフィールド事件

16 ハドソン川の奇跡

17 海よりもまだ深く

18 イット・フォローズ

19 クリムゾン・ピーク

20 スティーブ・ジョブズ

ブリッジ・オブ・スパイ』は、スピルバーグとしては『ミュンヘン』以来の面白さで、『BFG』よりも出来はいいと思いますが、好きの度合いでは劣るかなと。『宇宙戦争』にも垣間見れたアンゲロプロス作品との接近も気になるところでした。『聲の形』は前作に引き続き山田尚子監督らしい落ちる・投げるというモチーフが多用された作品で、他にも傘など些細な描写が本当に優れていて、内容としても見終わった後に色々と反芻したくなることが多い作品でしたが、走るべきところを走らせられなかったのが残念。『この世界の片隅に』は飛びぬけたクオリティによって「場」をつくりだし、そしてその「場」が奪われてゆくところ描いておりつまり「営み」と「歴史」が豊かなまじりあいを見せており、ある一定の時期のお話に留まらない素晴らしい作品になっていると思います。10位以内ではない理由は、もう好きの度合いの問題です。『死霊館 エンフィールド事件』の、おもちゃの車のシーンは素晴らしかったし、家と家の間の道路を突っ走るシーンも最高だったけれど、前作の方がさらに好き。『ハドソン川の奇跡』でイーストウッドが見せた技は凄すぎて怖いし、しかも相変わらず変わってるなぁとも思わせてくれました。『海よりもまだ深く』は是枝監督にしては説明的じゃないかとも思うんですけれども、阿部寛という巨体の使い方が非常にうまいですし、監督の過去作にも出てきたモチーフ・アイテムをふんだんに利用した作品でしたね。『イット・フォローズ』のカメラを360度パンしつつ、“それ”が迫ってくるところは大好きです。『クリムゾン・ピーク』はなにより屋敷の描写が素晴らしい。屋敷が主役ですからそれが良ければとにかくいいんですけど、最後がもったいないんですよね。あとミア・ワシコウスカ最高。『スティーブ・ジョブズ』を見たときは正直無駄な演出が多くてあまり好きではなかったんですけど脚本にはやられてしまい、アーロン・ソーキンはまた同じことやってるよ、と思いながら泣いてました。


21 ヤクザと憲法

22 ロブスター

23 ヘイトフル・エイト

24 スポットライト 世紀のスクープ

25 何者

26 ヒメアノ〜ル

27 ローリング

28 シン・ゴジラ

29 葛城事件

30 ボーダー・ライン

 

ヤクザと憲法』はやくざの面々が怖かったり可愛かったり笑えたりするシーンもさることながら、事務所を捉えたなんてことないショットもまたよかった。そしてひきこもりだった彼の顛末も含めて、ちょっと味わい深いドキュメンタリーでしたね。『ロブスター』は監督の前作に引き続き肉体のもどかしさが際立つ変な映画で、どうやって映画に肉体性を刻むかということを試しているのかな、とも思いましたが、基本凄くシュールなコントみたいな話ですよね。『ヘイトフル・エイト』は流石に長すぎ。サミュエル・L・ジャクソン芸もジェニファー・ジェイソン・リーもいいし、歴史を叩き込むとか美術とか音楽とか面白い要素はたくさんありますが、タランティーノ作品としては下です。『スポットライト』はストイックなプロとしての行動によって出来ており、きっちりした撮影と、そして編集がテンポの良さを作り出しているので退屈しなかったのだと思いますが、例えば『大統領の陰謀』みたいな撮影と編集の切れ味の方が好みなんですよね。『何者』は決して出来がいい作品ではありません。しかし終盤の感動は確かなもので、その後色々と考えたくなる要素が詰まっていたので、このくらいの順位です。『ヒメアノ〜ル』も後半の感動が大きく、また前半は前半で面白いのですけれど、説明しなくていいことを色々付け足してしまったのが惜しまれます。『ローリング』は落とし方も含めた物語とその余韻、撮影、そして柳英里紗は素晴らしくて、エロさはもちろん、その存在すべてが忘れがたい魅力を放っていると思います。延長コードとか納豆の件も良いですよね。『シン・ゴジラ』のゴジラ登場シーンは全部好きですが、人物描写、動きなどの映画的気持ち良さに乏しく、カットでテンポを速めているだけという風にも思えます。『葛城事件』でいいのは、父親が職場からいつも見ている風景の、あの狭さですね。そこにあの父親に対してのいくつかの気づきがあると思いますが、後半の田中麗奈の使い方で損をしている。『ボーダー・ライン』では多用される空撮によって、湿り気といえば死体から流れる血ぐらいなものという土地を見せられ、また家や人に車に麻薬と死体などの「密集」が次に印象付けられますが、そんな土地へ暗黒のおとぎ話風に落ちてゆく、という部分が好きじゃなかったですね。もっと犯罪アクションでいてほしかった。



31 永い言い訳

32 君の名は。

33 エクス・マキナ

34 オーバーフェンス

35 オデッセイ

36 コップ・カー

37 最後の追跡

38 レッド・タートル

39 貞子vs伽椰子

40 ドント・ブリーズ

このあたりは世評は高いけれども個人的にはそれほど刺さらなかったという作品が並んでいます。どれも面白い作品ではありました。『永い言い訳』の本木雅弘や乗り物に乗るショットの気持ち良さ、美しさは素晴らしい。『君の名は。』はどうしても納得がいかないことがあるので、アニメーションとしていくら素晴らしくてもこの順位です。でもトータルでは好きですよ。掌の文字とか。『エクス・マキナ』はガラス窓の使い方がすごくうまくて、ウィトゲンシュタインやらといった話より、そういう画面やショットの切り返しによって最初から仕掛けがちゃんと施されているのがうまいと思います。『オーバーフェンス』は心情ではなく描写によって人物を生かしているのが素晴らしいし、移動の扱いも良いんですけど、何より蒼井優主演のスクリューボールコメディを見たいと思いましたね。『オデッセイ』の陽気に行動を貫く姿勢は見ていて気持ちがいい。『コップ・カー』は少年たちの成長譚としてすごく良く出来ていると思うんですよね。銃の取り扱いの危なっかしさにひやひやします。『最後の追跡』も突発的に始まる銃撃戦や、乾いた感じ、そしてウッドデッキによって西部劇の空間が良く出てくるのも良いんですが、中盤で少しゆっくりしすぎにも思います。『レッド・タートル』は難しい話はやめてとかく蟹です。蟹萌え。『貞子vs伽椰子』はよくこんな企画を成立させたなということで、白石晃士の腕は素晴らしいと思いますし面白かったんですけど、好き度でいうとそこまでかなと。『ドント・ブリーズ』突如現れる老人の、その突如の感じ、距離感が面白かったですね。あともう少し、部屋の立体感を生かした攻防があるともっと良かったと思います。


41 アンジェリカの微笑み

42 FAKE

43 ズートピア

44 日本で一番悪い奴ら

45 山河ノスタルジア

46 インサイダーズ 内部者たち

47 傷物語 熱血篇

48 ジャックリーチャー NEVER GO BACK

49 キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー

50 レヴェナント 蘇りし者

アンジェリカの微笑み』は素晴らしい作品な上に、史上最高の「メガネ・・・メガネ・・・」まで見れて爆笑しますが、好きかというと好きではないんですよね。『FAKE』は佐村河内守の魅力ですね。魅力と言っても、天然っぽさとか、グレーゾーンに居る人の面白さ、ということですけれども。『ズートピア』はバディ警官ものとして、特に交通網を利用した画面が面白いんですけれどもテーマが足を引っていて、やるんだったらもっと暗部まで踏み込まないと結局綺麗ごとの説教で終わってしまっていないかな、と思いました。『日本で一番悪い奴ら』は題材的にすごく好みではあるんですけど、照明のダメさ、とくに麻薬を失った後ヤクザに問い詰められるシーンは冗談かと思いました。あと色気不足。『山河ノスタルジア』の、男2人女1人の最初のパートではジャ・ジャンクーの好きなところが出ていました。『インサイダーズ』のちんこゴルフは笑えますけれども、クールに決めている割にダサいドヤ顔を決めたり友情のドラマが語りすぎだったりで勿体ない。『傷物語 熱血篇』も画面上のモチーフから色々考えるのは楽しいですし、羽川翼というキャラクターが最高なんですけど、ちょっと見ているのがキツイ場面もありました。『ジャック・リーチャー』で、トム・クルーズは女優のアクションを映えさせるのがうまいなぁとは思いましたし、走るというアクションで貫いた面白い作品ではありますが、前作のタイトで色気のある完成度には勝りません。『シビル・ウォー』は落ちる、下降するというアクションが前作同様多々あり、またアクションの構築力もうまいとは思いますけれども、この位置です。『レヴェナント』はタルコフスキーじゃん、とか、イメージに頼りすぎじゃん、と思いながらも、主にエマニュエル・ルベツキのカメラによって楽しむことはできました。



51 ロスト・バケーション

52 13時間 ベンガジの秘密の兵士

53 マネーショート 華麗なる大逆転

54 ボクソール・ライドショー

55 フランコフォニア ルーブルの記憶

56 ファインディング・ドリー

57 アーロと少年

58 10クローバーフィールド・レーン

59 バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生

60 デッドプール

『ロスト・バケーション』は水面上・水面下に境界線が引かれ、その境界線がどんどん変化してゆくのは面白いと思いました。『13時間』はいつものマイケル・ベイと同じレンズの光で、肝となる不明瞭な戦場描写は微妙だし布の使い方も勿体なく、話が動き出すまでがかったるいうえに銃撃戦もうまくないんですけど、迫撃やミサイルとなると面白く撮れているように思いました。『マネーショート』は全編正しい怒りと道徳心に満ちていて、政治倫理的正しさが強く押し出されすぎなので、意義はあるんだろうけど堅苦しい。『ボクソール・ライドショー』は4DX専用の映画として楽しい出来でした。『フランコフォニア』の幽霊的に過去を出しつつ歴史を交錯させる手法は面白いんですけれど、ちょっと眠かった。『ファインディング・ドリー』で扱われたテーマは面白いし、お手の物である視点を逆転させた脱出劇や狂気のアクションが炸裂するラストも爆笑なんですけれど、続く『アーロと少年』と併せて、いまいち最近のピクサー作品はイマイチ乗り切れない。ただし『アートと少年』は最狂のドラッグ描写がありましたね。『10クローバーフィールド・レーン』はメアリー・エリザベス・ウィンステッドのタンクトップ姿が良かったです。『バットマンvsスーパーマン』もワンダーウーマンは最高でした。『デッドプール』、真面目すぎるんですよね。ヒーロー映画としては新しくても映画全体で見れば何も新しくはないので、真面目だなという印象だけ残りました。

 


61 ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー

62 残穢-住んではいけない部屋-

63 白鯨との闘い

64 スーサイド・スクワッド

65 アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅

ローグ・ワン』はダース・ベイダー登場シーンとか、でかい物体の描写はシリーズ随一。『残穢』で、怪談収集家達が怖がってるのか面白がってるのかの中間で探っていく内に、うっかり穢れを広めてしまうという話は面白い。ホラーというより謎解き的で、地図の使い方もいいとは思いますが画面自体は怖くはない。『白鯨との闘い』は回想形式が全くうまくいってなくて、ドラマの高揚も、海洋冒険ものとしても微妙。スペクタクルシーンも恐怖がなかった。語り部の奥さんのシーンとか冗談かと思いました。ハーレイクインがいなかったら絶望的だったのが『スーサイド・スクワッド』で、デヴィット・エアーらしさはありますけれど、ぎりぎりで救われたって感じです。『アリス・イン・ワンダーランド』に「時間」はなかった。



66 ミュージアム

ミュージアム』はいまさら『セブン』かよ、ということを抜きにしても、とにかくサスペンスやホラー描写がド下手なので見ていて苦痛でした。悪趣味殺人が展開されるので最低とはいいませんけれども、しかし全く面白くはなかったです。



67 ターザン REBORN

本当にごめんなさい。見たんですけど何ひとつ覚えていません。サミュエル・L・ジャクソンの役がなんか面白かったとか、そのくらいでしょうか。まさに大味大作という枠でした。



68 ちはやふる 下の句

そして今年度最下位に選ぶのは『ちはやふる 下の句』です。この作品の出来自体は、最下位というほど酷くはないでしょう。しかし上の句からの期待を大きく下回ったのも事実で、仲間だの、絆だの、繋がりだのといった鼻持ちならないテーマが大仰に叫ばれるのは耐えがたいものがありました。後半はそれでも持ち直しますが、しかしやはり、言葉で語る比率や感動的な音使いなど、上の句でも危うかった部分が拡大されていました。あと千早が停滞する下の句の前半は本当に退屈でした。役者の魅力や、画面に見所がないわけではないのですが、やはり嫌いという点でこの作品はでかいものがありましたので、ワーストとさせていただきます。



はい、というわけで以上で2016年新作映画ランキングは終了です。ちなみに旧作に関しては、いつも通り、年明けに「下半期に見た旧作映画ベスト」という形でブログに書こうと思っておりますので、そちらもぜひ見てやってください。それではみなさん、良いお年を。