リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『沖縄やくざ戦争』(1976)を見た。

青い海に白い雲、ハイビスカスにヤシの木、ゆったりとした空気感に陽気な人々、三線の音色・・・沖縄はいつだってこのようなイメージで語られるが、そんな陳腐でつまらないイメージを一掃する映画を見た。東映実録路線の一本、中島貞夫監督の沖縄やくざ戦争』(1976/東映)だ。

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本土返還翌年の沖縄、ネオンの光る歓楽街コザ市、新しくオープンした居酒屋に一人の男がやってきた。タンクトップにアーミーパンツ。そしてサングラスをキメたその男は、店に入るなりビール瓶を拳で破壊、手刀でテーブルを真っ二つ、店長をボッコボコに殴るのであった。

やりたい放題大暴れのこの男、名前は国頭(千葉真一)。彼は「大和のやつらにゃ我慢がならねえ」と、本土から進出してきた居酒屋を破壊したのだった。しかも空手で。冒頭から千葉ちゃん全開だ。

国頭の右腕である石川(地井武男)は、そんな暴れっぷりをにやにやしながら見ているだけであるため、兄弟分の中里(松方弘樹)が止めに入る。石川を責める中里だが、「止めて止まるオヤジですかねぇ」と返される。もちろんそんな生意気な石川もまた殴られるのであるが。


と、こんな景気のいい場面から始る本作は、この後もどんどんテンションを上げ(主に千葉ちゃんが)暴走していく(主に千葉ちゃんが)。


中里はかつて、国頭のためコザ市にある他のやくざを襲撃し蜂の巣にしており、一人でその責任を背負いムショに入っていた。その代償として市の半分をもらう約束をしていたが未だそれは果たされず、舎弟ともども困窮していたのだった。しかも舎弟の一人は石川に惨殺されてしまうのだが、戦っても勝てないので兄貴である国頭を信じただ待つのみなのだ。

ある日、中里の舎弟である具志川(室田日出男)が黙って国頭のなわばりを超えて商売。怒った国頭はペンチでチンポを切り取っちゃうという凶行に出る。やりすぎです。

その後、国頭は高そうなバーで沖縄連合琉盛会という会合を行う。これは本土に対抗するため那覇の大城派とコザの国頭の2トップを理事長とする連合だが、どうも仲は良くないよう。その日も大城組の理事長(織本順吉)と若頭の翁長(成田三樹夫)が「ホテルでも建てたらどうか」と言うと「大和の奴ら泊めるもんつくれってか」と言うんですね。さらに本土の組の者がステージで歌い始めると「なんじゃあいつは?」と服を脱ぎ上半身裸になる。

それで突然ステージに上がり何をするのかと思ったら、三線の音に合わせなんと空手の演武を始めるのでした。真正面から挑発された本土のやくざたちは、彼を恐れたのか危ない人だと思ったか、とりあえず退散。

しかしその場を退散したくらいで国頭からは逃げられない。襲撃をかけ、ボコボコに殴り、最後に車で轢く。そしてバックでもう1度轢く。さらにもう1度、そしてさらにバック、そしてさらに・・・とまたもやりすぎな暴力を展開させるのであった。

さて、この国頭が殺しちゃった相手が実は関西大組織の大物だったというから連合は大焦り。しかし当の本人はどこ吹く風で、「ひょっとしたら戦争になるかもしれん・・・」と言われると「戦争だぁーいすき」と笑う。それに加え「大和の奴らにこの土は踏ません!大和の奴らはたっくる(殺し)してやるぁ!!文句あるかぁ!」と吠える。連合はほんとに困った人だと頭を抱えるのであった。

仕方なしに翁長と中里が大阪へ行き、幹部の海津(梅宮辰夫)に詫びを入れることに。そこで翁長は国頭の首か、戦争か、決断を迫られるのである。

コザへ戻ってきた中里に対し国頭は「大和の奴らに頭下げるとは恥知らずな!!」と激怒。「きょーでい、貴様までもが大和の犬になるとは」という国頭に対し中里は「生きるためさ、生きるためなら、犬でも豚にでもなるさ」と反発した。

これにより兄弟ではなくなってしまった2人。チンポを切られた具志川は国頭暗殺決行を決意し、中里は翁長と談合。国頭殺しは自分一人の意志ではなく連合の意志であると表明することを同意させる。

一方国頭はというと「一緒に飲みたくなったよ〜」と、なんと中里の経営する飲み屋へ。「昼間はカッとなったけどさあ、きょーでぃのことはちゃんとするからあ」と言うのだ。しかし、時すでに遅し。中里の舎弟により射殺されてるのだが、これがまたすごい。5発も銃弾を食らった上に、最後は江頭2:50分ばりの倒立をキメて死んでいく。


ようやく死んだ国頭。これでコザも手に入り、平和になるだろう・・・。しかし中里と扇長の間で交わされた約束は果たされることなかった。中里は石川と大城組へ怒りをぶつけ戦争ととなっていく・・・。



本作はこの後、カーチェイスに殺し殺されの応酬、敵の子分をジープにくくりつけ引きずり回したりと最後までまさに戦争と呼ぶにふさわしい、テンションの高い血みどろ展開を繰り広げていく。青い海に白い雲なんて全然出てこない。泥臭くて汗臭い、ぎらぎらした男たちの暴力の歴史だ。でもどこかユーモラスだったりラストはどこか沖縄らしい爽やかさが待っていたりしておかしい。


役者は言うまでもなく最高で、だんだん千葉ちゃん化していく松方弘樹や、チンポを切られてからは「たっころせ・・・たっころせ・・・」と怨念のごとくつぶやく室田日出男、いやらしくムカツク感じが最高な地井武男、無鉄砲さが光る渡瀬恒彦や逃げ腰で情けない親分を演じる織本順吉、セコい手を使いまくる成田三樹夫など、皆濃ゆくて素晴らしいのですが、この映画はやはり何と言っても国頭を演じた千葉真一インパクトがとてつもないのだ。
それこそ『仁義なき戦い 広島死闘篇』を思わせる狂犬っぷりなんだけど、そこに空手が加わっている分大変なことになっている。後半の血みどろ劇も確かにテンションは高いのだけれど、千葉ちゃんが出ているシーンはそれらを凌駕するインパクトなのだ。


実録路線が多く作られた中で出てきた怪作であり、とにかく無類に面白い映画。未見の人は是非その目で確かめてほしい。

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