リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

2014年12月1日

菅原文太が亡くなった。年齢を考えれば、確かにおかしなことではない。だがそれでもショックだった。あの菅原文太が、亡くなったのだ。
何世代も年齢が離れている僕は、その姿をスクリーンで見たことがない。リアルタイムではせいぜい、『千と千尋の神隠し』『おおかみこどもの雨と雪』といった作品で声を聞いたくらいである。そんなまるで噛みあわない時代に生まれた僕が初めて菅原文太という俳優を意識したのは、やはり『仁義なき戦い』であった。
仁義なき戦い』を見たのは、確か高校3年生の秋から冬に差し掛かろうかという頃だった。当時も映画は好きだったが日本映画にはさほど興味なく、せいぜい黒澤明と、その他数本お気に入りの作品があったくらいだ。なぜ受験勉強で忙しさを増す日々の中『仁義なき戦い』を見ようと思ったか、詳しくは覚えていない。だが見終わった後の衝撃は覚えている。それは別次元の興奮だった。何かほかの作品と違うエネルギーに満ちていた。こんな作品は他にない。凄い。なんだこれは。パワフルだ。悲壮だ。泥臭い。かっこいい。面白い。見終えたばかりのDVDを手に僕はすぐさま2作目を借りに行って、そして再び凄まじい衝撃を受けた。その時から僕の中で深作欣二は最高の映画監督であり、そして菅原文太は、世界一カッコいい男だった。
その後東映を中心に日本映画も見るようになった僕を待っていたのは、(彼もまた今年亡くなってしまったが)鈴木則文監督の『トラック野郎』だった。『トラック野郎』は下品でバカバカかしくて、明るく楽しく笑える最強の娯楽作品であり、つらいことがあっても『トラック野郎』を見ておけば大体何とかなるような、そんな気すらする作品だ。そして菅原文太演じる星桃次郎は、広能とは全く違った意味で、男の中の男であり、憧れだった。こんな男を目指したい。今でもそう思っている。
菅原文太の何が魅力的だったのか。それはあの声かもしれないし、顔つきややくざ映画に出ているときの背中の感じ、目つきかもしれない。タバコを吸うときの顔や指にさえも、かっこよさが漂っていた。豪快に吼え暴れる姿もいいが、黙って何か訝しげに見つけているときの表情も印象に残っている。僕の拙い言葉ではいくら書いても伝わらないだろうからこれ以上は書かないけれど、おそらく今後追悼番組では、演じられた役よりも人柄を巡る様々なエピソードが語られることになるだろう。しかし大切なのはエピソードではなく、ちゃんと作品を見ることだ。僕もそんなに作品を見てはいないから偉そうな口をきくことは憚られる気持ちがあるとはいえ、菅原文太が過去の人にならないとしたら、それは作品が見られることによってなのだという事は、強調しておきたい。
今日、『仁義なき戦い』を見返した。やはり文句なしに素晴らしい作品であった。ありがとう菅原文太。ご冥福をお祈りします。

仁義なき戦い Blu-ray BOX (初回生産限定)

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