四月注目の新刊(文庫)

【その他】

以前、ちょっとだけふれましたが、私は『タイムスリップグリコ』シリーズが大好きで(ブルボンの『懐メロクッキー』や『J'sポップスの巨人たち』、タカラの『昭和おもひで歌謡』―これは入浴剤入り―なども好きでした)、あたらしいものが出るたびに買っています。
今日は、関西でついに『思い出のマガジン』が発売されました。四つ買ったら、『POPEYE』『CAR GRAPHIC』『花とゆめ』『Olive』が出ました。『平凡』と『少年画報』を狙っていましたが、それはまた次の機会に(でもお金が…)。今回のシークレットは『鉄人28号』との由。専用の「思い出の本立て」もできれば買いたいのですが…。

恐るべき大人たち

マタンゴ』(1963,東宝

マタンゴ [DVD]
監督:本多猪四郎、製作:田中友幸特技監督円谷英二、脚本:木村武、原案:星新一福島正実ウィリアム・ホープ・ホジスン「闇の声」、撮影:小泉一、音楽:別宮貞雄、主な配役:久保明(村井研二)、水野久美(関口麻美)、小泉博(作田直之)佐原健二(小山仙造)、太刀川寛(吉田悦郎)、土屋嘉男(笠井雅文)、八代美紀(相馬明子)、中島春雄マタンゴ)、天本英世マタンゴ変身途上)。
「鎖された環境」+「未知の生物(あるいは幽霊、ゾンビ)」といった設定の名作としては、ジョージ・A・ロメロナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968)、スタンリー・キューブリック『シャイニング』(1980)、ジョン・カーペンター遊星からの物体X*1(1982)、ロブ・ライナーミザリー*2(1990)などを想起しますが、この『マタンゴ』は、その和製版といってよいでしょう。
「鎖された環境」がホラー(あるいはSF)と調和しやすいのは、登場人物の愛憎やエゴがもろに出て、どろどろした人間関係が、ホラーにつきものの極限状態を効果的に現出させるからなのでしょう。のちに述べますが、この映画も個々の人物をうまくえがきわけています。
舞台は、無人島。ヨット旅行に出かけた男女七人が、無人島に漂着し、そこでキノコの化物=マタンゴに出会うというお話。キノコを食った人間は、その味に魅せられ、自らもマタンゴになってしまいます。ただひとり東京に生還した村井が、医者に向かっておそろしい体験をかたり始める―というシーンで始まりますが、それから急に大海原にうかぶ一艘のヨットが画面に映し出されたかとおもうと、場違いなほどの明るいメインタイトルが流れます。しかしまた状況が一転、ヨットは漂流しはじめ、おそろしい世界が繰り広げられていきます。その過程でえがかれる、人間の醜いあらそいがまた怖い。たとえば関口麻美は、まるで「アナタハンの女王」です。そして、エゴむき出しで行動する作田や笠井。身勝手な言動をつつしむことなく、ついに禁断のキノコを食ってしまう吉田……。人物造形に、いっさい手抜きがみられません。ラストの、あっと驚く意想外の展開も見ものです。
たしかに怖い作品です。マタンゴの声「フォッフォッフォッフォッフォッ」が、バルタン星人を髣髴とさせる*3のと、なぜか「死神博士」の故・天本英世マタンゴに扮している(映画を観ている段階ではまったく気づきませんでした)、というのがなんだかちょっとおもしろいですが、怖い映画です。怖いというか気味がわるい。小学校低学年のころに観ていたら、おそろしくてトイレに行けなかったでしょう。しかしこれは、どろどろした愛憎劇にも仕上がっているので、小学生が観るような作品だとは到底おもえないのですが。
ところで、黒沢清さんもこの映画の怖さについて語っています。それを最後に引いておきましょう。

黒沢清の恐怖の映画史
それから(『恐怖のミイラ』を観てから―引用者)しばらくして、これこそ本当に怖い映画と出会ったのが、さっき話した『マタンゴ』。そんなものとは思いもせず、見に行ったら、中盤から、「あ、だまされた、これ怖い映画じゃないかよ」って(笑)。で、もう、映画館の中で戦々恐々としてましたね。「あ、これ怖い映画だ」とピンときた最初は、遭難して、船をあけたら中がカビだらけだった、あの室内の美術。あそこで、「やばい」と。幼心に、照明も含めて、「この美術って、『恐怖のミイラ』の美術じゃないか」というのがピピピンときました。白黒とカラーで全然違うんだけれども。少なくとも怪獣映画の美術じゃない。そこは朽ち果てていて、すでに死の臭いが漂ってるじゃないか。以降、もう何が起こっても怖いですよね。
キノコ怪人が廊下をゆっくり近づいてくるところなんかもう、参ったね。大人になって見直すと、まあ、典型的な怖がらせのパターンで、まず廊下の向こうから影が来るんですよ。キノコ怪人の。で、ドアがあって、内側に主人公たちがいるんだけど、絶対開けちゃいけない。じりじりと室内で待ってて、怪人がコツ、コツ、コツと近づいてきて、ノブをガチャガチャっとやって、いったん静まって、もう帰ったのかなってドアを開けたらバーンと立っているという。まあ、本当にセオリー通りの流れなんですけど、あれを映画館で見たときは……。あれ以降、廊下の向こうから何かが来るっていうのは、それだけで怖くなりました。
黒沢清+篠崎誠『黒沢清の恐怖の映画史』青土社,2003.p.18-19)

*1:ハワード・ホークス監督作品『遊星よりの物体X』(1951)のリメイクで、このオリジナルは未見なのですが、オリジナルよりもカーペンター版のほうが、ジョン・W・キングJrの原作に忠実なのだそうです。

*2:これは「未知の生物」ではなくて「人間」ですが…怖い。

*3:あとで知りましたが、この声はバルタン星人に流用されたものなのだそうです。むしろバルタン星人のほうが有名になってしまいましたね。