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黌門客 このページをアンテナに追加

2010-05-07 このエントリーを含むブックマーク

 「あらかわそうべえ(そうべい)」のかな表記は幾通りあるのだろうか、と以前からちょっと気になっていたが、そういえば『外來語辭典』(弘文堂アテネ文庫)は「あらかわ そおべい」であった。(http://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/20100502/p2参照)

 惣郷正明の著書から引用しておく。

 昭和十六年(一九四一)、荒川惣兵衛氏が集大成した『外来語辞典』(冨山房)にはハンド・バックと濁らないのは阿部知二『友達』、広津和郎過去』、牧逸馬『虹の故郷』にその文例があり、ハンド・バッグと濁るのは坪内逍遥『変化雛』、岡田三郎『痴愚のはて』、永井荷風『ひかげの花』に出ていると指摘してある*1

 荒川氏は昭和五年、福島県磐城中学校教諭当時、約五千語の『日本語となった英語』を自費出版し、翌六年、研究社からその改訂版を出版した。

 市河三喜博士が、文例を加えて欲しかったと書評したのにこたえて、その後十年間に三万冊、三〇〇万ページの文献から外来語一万、引用文六万を集めたのが、この『外来語辞典』で、昭和十六年、岡倉賞を獲得した。

 金田一京助博士は『日本外来語辞典』(大正四年、上田万年ら共著、三省堂)を手伝った折バリカンの語原を求めて二年間、何百冊もの文献をあさったが見つからず、本郷床屋バリカンフランスバリカン・マレー商会製造の刻印があるのを見つけて氷解した。

 しかも、その苦労の成果は、辞典にわずか三行であった体験から、冨山房版『外来語辞典』の一二〇〇ページを超す大著に絶大の賛辞を惜しまなかった。(『辭書漫歩』朝日イブニングニュース社、p.311

 さらに詳しい記述が、これよりさきに出た惣郷正明辞書風物誌』(朝日新聞社)にあって(pp.155-57)、冨山房版の書影も収めている(p.156)。「あらかわ そうべゑ」の文字をかろうじて確認することが出来る。

 なお、矢崎源九郎『日本外来語』(岩波新書)によると、冨山房版を編む際に「荒川(惣兵衛―引用者)さんは六、七万語を集め、その中から一万語を選んだ」(p.29)のだそうで、これも『辞書風物誌』にある話なのだけれど(冨山房版の序文か何かを参照しているのだろうか?)、せっかく集めた残りの五〜六万語が、ちょっともったいない*2

 『ナゴヤベンじてん』も編んでいるらしい

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 ↑大好きな大好きな一曲。吉田正先生もちらと映る。

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 ↑宝田明の長女である。20年ぶりで聴いた。『ジプシー』収録曲。

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*1:ちなみにアテネ文庫版も「ハンドバッグ」を採録しており、当該項に「ハンドバックは,避けたいなまり.」とある。

*2:二〇〇字詰原稿用紙二十万枚が一夜にして灰燼に帰したらしいが、そのため永久に日の目を見ることがないのだろうか?

森 洋介森 洋介 2010/05/07 23:11  「あつめた外來語數約6-7萬,引用約100萬以上,のなかから」云々と冨山房版自序冒頭に述べられてゐます。なほ私藏するのは一九四二年二月二十日第七版の裸本なので外函標記は判りませんが、扉には「あらかは そうべゑ」とあり、「序」末の署名では「あらかわ そうべゑ」と「わ」が表音式、奧附著者名は漢字表記なるもその振假名が「あら かは そう べ ゑい」。表記が一定しないのは名に二重母音乃至長母音を含む所爲だけではないやうです。

higonosukehigonosuke 2010/05/08 01:35 森さま、ご教示たいへんありがたく存じます。「そうべ ゑい」、とはすごいですね。長音符号を用いた表記の見当らないことが不思議なくらいです。
さきほどおもい出したのですが、荒川氏の角川版外来語辞典といえば、「アメシヨン」についての「大へんな見当違ひ」を山田俊雄先生に指摘された、ということがございました(『忘れかけてゐた言葉』http://www.sanseido-publ.co.jp/publ/wasurekaketeitakotoba.html)。

森 洋介森 洋介 2010/05/08 10:30  その山田俊雄著の「荒川惣兵衛といふ人の編で勞作といはれてゐる『角川外来語辞典』」といふ表現、含む所あるやうに思はれて微笑させられます。察するに市河三喜の指摘はかの『歴史的原理に基づく新英語辭典』(後のOED)を範とせよの意でせうか、言はれた通り用例を集め出典を記したのは成程苦心の痕が窺はれるものの、實際に『角川外来語辞典』を使ふと、出典の書誌記述が曖昧だったり不精確だったりして(紙幅の都合もあるにせよ)、肝腎の原典に遡れないことがあるのが難です。同樣に考證も不備がありませう。厖大な勞力を學問的に正しく注ぎ込めなかった個人作品といふ感じです。山田俊雄文もその邊の不滿を裏に潛めてゐませんか。それでも手懸りとしては有用で、讀める辭典としての面白さはありますけど。專門家の批判があれば知りたいものです。

higonosukehigonosuke 2010/05/11 01:47 森さま、ご丁寧にどうもありがとうございます。返事が遅くなり、失礼致しました。
『歴史的原理に基づく新英語辭典』については、以前サイモン・ウィンチェスターの著作(『博士と狂人』)で読んだことがあります。「A-B」項の編纂作業に九年かかった、とあるのを読み、用例採集の困難を改めておもい知らされたものでした。
荒川氏自身は、冨山房版の序文に「よんでいってもおもしろい辞書」(『辞書風物誌』p.156)を目指したと書いているそうですから、角川版にも「讀める辭典としての面白さ」が認められると仰るのは、著者のもくろみが一往成功したということになるのでしょうか。
近年の例でいうと、Y子館の辞典類は、用例が書名のみで巻数すら示していないので、原典に遡りにくく、たいへん残念なことです。

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