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SUNABA Gallery & 樋口ヒロユキ のブログ

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2018-07-01

林圭介《婚礼》と杉本一文氏『病院坂首縊りの家』装画の類似について

19:24

 平素お世話になっております。このたびは当店の展示に出品された林圭介《婚礼》と、杉本一文氏による横溝正史著『病院坂首縊りの家』装画との類似の件につきまして、まずはご関係者各位にお詫び申し上げます。幼少時に愛読しておりました杉本一文氏装画による横溝正史作品との類似を事前に見抜けなかった点、当店にとりまして一生の不覚でございました。また、林作品を楽しみにしておられたお客様にも、多大なご迷惑をおかけいたしました。心よりお詫び申し上げます。


 本日、すでに林作品はいったん撤去し、林本人からの聞き取り調査も終えました。実を申せば、林は事前に杉本氏の作品を拝見したことがありませんでした(それはそれで不勉強の責を負うべき部分かと思いますが)。林は実際には全く別の婚礼写真、新聞紙上に掲載された数センチ角のものを典拠としてこの作品を制作していました。林には杉本氏の作品も見せたのですが、新郎が立ち新婦が座るポーズ、白無垢、角隠しの形状や椅子の形、さらには顔を潰してしまうアイデアまで一致しており、その類似ぶりに逆に驚いておりました。全点を一時撤去する措置についても、この場で作家当人の了承を得ました。


 調査の際、林が典拠とした写真も現認しましたが、服のシワや角度などから見て、この写真がもとになっていることに間違いないと確認いたしました。が、しかし、撮影者の匿名性の高い報道写真であるにせよ、その典拠となった写真にも撮影者がいらっしゃるという点を顧慮するなら、そう無条件で肯定はできない旨を伝えると、当人も納得しておりました。


 写真の登場以来、絵画と写真は切っても切り離せない関係にあり、林の創作方法、つまりは「既存の写真の一部を違う文脈に置き換えて肉筆でコラージュする」というアプロプリエーション的手法にも、一定の真摯さがあることはご理解いただければと存じます(なにしろ手描きですので単純なコピペはもとよりしておりません)。しかしながらアプロプリエーションはもともと80年代に隆盛を極めたもの。つまりコピーがまだ難しかった時代に、意図的コピーで芸術のアイデンティティーをぐらつかせるというコンセプトに基づいていたものでした。


 ネットでの安易なコピーが日常生活に蔓延する現在は、逆に誰もがコピーが可能であるために、安易なコピーは断罪される傾向が強まっています。また、知財保護についても厳しい倫理観が問われる昨今、80年代のアプロプリエーションの論理を、そのまま延長するのはもはや厳しいのではないか、というのが、当店での認識です。


アプロプリエーション

https://bit.ly/1LbzQyJ


 問題となりました作品については、杉本一文氏の装画や典拠となった報道写真と重なる部分が少なくなるよう、今後加筆、修正していくとの方向で、林との方針の一致を見ました。もとより婚礼写真というものは様式化された衣装、様式化された構図でありますので、自ずから類似せざるを得ないという制約はありますものの、林の真摯な姿勢に免じて、御理解の上ご鑑賞いただければと存じます。再展示の日程はまだ未定ですが、おそらくは来年正月のグループ展になろうかと思います。このたびはご迷惑、ご心配おかけいたしました。重ね重ねお詫び申し上げます。申し訳ございませんでした。

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