FRBのバランスシートはやはり心配?・その2

20日にEconbrowserのジェームズ・ハミルトンがFRBのバランスシートについて心配していることを取り上げたが、Econbrowserの21日のエントリで、ハミルトンがその問題をより深く掘り下げている。

簡単にその内容をまとめると、以下の通り。

  • FRBのバランスシートは、2007年末の9200億ドル弱から、1年後の現在は2.3兆ドルまで膨らんだ。ただし、今年9月まではサイズの変化はあまりなく、それ以後に急激に膨張した。
  • FRBの資産サイドでは、2007年末に85%を国債が占めていた。今は21%。代わって増えたのは、非正統的金融政策により買い取った各種ローン資産。今年9月までは、上述のように全体のサイズを膨らませず資産構成の変更で対応していたが、9月以降は資産全体のサイズを膨らませて対応した。
  • FRBの負債サイドでは、2007年末に89%を現金が占めていた。今は37%。全体の増加分の1.3兆ドル超のうち、5000億ドルを財務省の準備預金、8000億ドルを銀行の準備預金の増加で賄った。
  • 銀行が準備預金の増加を黙って見ていたのは、金利が付くようになったため。結局、そうして増やした8000億ドル分について、FRBが銀行になり代わって民間への貸し出しを実施したことになる。
  • かつてはFRB国債を8000億ドル保有しており、それへの利払いを(日本で言う国庫納付金として)政府に返納していた。しかし、資産構成の変更に伴い、今は5000億ドルまで保有を減らし、しかもそのうち1865億ドルをオフバランスでディーラーに貸し出している(2007年末は45億ドルに過ぎなかった)。また、上述のように財務省の準備預金は5000億ドル増えたが、それは短期国債の発行で賄ったと推測される*1。つまり、今回のFRBのバランスシートの変化に伴い、政府の国民への新規の借り入れが約1兆ドル生じたことになる。
  • FRBが買い取った各種ローン資産に問題が生じなければ、上記の1兆ドル分の政府借り入れの利払いは、国庫納付金で賄われるだろう。しかし、それらのローン資産からの収益が滞り、国庫納付金が減少すれば、それは政府の利払い負担増加として跳ね返ってくる。
  • FRBはバランスシートの増分を準備預金で賄ったが、それが現金に転化し始めたらインフレ懸念が生じる。その場合、FRBには選択肢が二つある。
    • ローン資産を減らし、膨れ上がったバランスシートを縮小する。その場合、それらのローン資産からの収益は減るので、やはり国庫納付金が減少し、政府の利払い負担が増加する。
    • インフレを容認する。
  • 結局、バーナンキは2兆ドルの賭けをしていることになる。賭けに勝てば、納税者に影響は無い。賭けに負ければ、その分の利払い負担が生じる。
  • ハミルトン自身の考えは以前と同じ。つまり、
    1. FRB金利スプレッドに影響を与えることはできない。1兆ドル費やして駄目だったのだから、引き際だろう。
    2. FRBは3%のインフレを目指すべき。準備預金への付利、1兆ドルの貨幣創出はその目的に逆行する。
  • よって、以下を提案。
    • 準備預金への付利の撤廃。
    • 現在資産に乗っている各種ローン資産を、物価連動国債や主要貿易相手国の短期国債で置き換える。

*1:このあたりについては、ハミルトンの以前のエントリに書かれている。そこで彼は、9月にFRBの負債項目に新たに設けられた"Treasury supplementary financing account"の中身について、以下のように推測している。
"I gather that the Treasury auctioned off some extra T-bills to the public, in addition to their usual weekly auction, and simply kept the receipts as deposits in an account with the Fed."