グリーンスパン「テイラールールなんか欠陥モデルだ」

昨日のエントリでテイラーに対するグリーンスパンの反論を紹介したが、良く考えてみると、テイラールールに対して結構凄いことを言っているので、改めてその段落を全文引用してみる。

Moreover, while I believe the "Taylor Rule" is a useful first approximation to the path of monetary policy, its parameters and predictions derive from model structures that have been consistently unable to anticipate the onset of recessions or financial crises. Counterfactuals from such flawed structures cannot form the sole basis for successful policy analysis or advice, with or without the benefit of hindsight.

Alan Greenspan Says the Federal Reserve Didn't Cause the Housing Bubble - WSJ

(拙訳)もっと言うとだね、「テイラールール」なんていうのは金融政策の経路の一次近似としては良いかも知らんが、そのパラメータやら予測やらを導きだしているモデルっつーのは、景気後退とか金融危機とかのとばぐちを碌すっぽ予測できなかった代物じゃないかね。そんな欠陥品だけに基づいて、ああしておけば良かったのこうしておけば良かったのなんて言われても、政策についての有益な分析にも助言にもなるわけがないじゃないか。後知恵にしたって話にならんね。
(注:訳の口調は小生の勝手なイメージに基づくものです)

ちなみに、このグリーンスパン論説に関連して、RGEmonitorでサンパウロの大学Fundação Getúlio Vargas経済学部教授João Marcus Marinho Nunes氏(投資ファンドのパートナーでもあるらしい)がちょっと面白いことを書いていたので、内容を簡単に紹介しておく。
Nunes氏によると、グリーンスパンコナンドラム(conundrum)と呼ぶ長期金利短期金利の連動性の喪失は、実は過去にも存在していたという。それは1956-1964年である。氏は、単純に長期金利短期金利で割った比率を連動性の指標として用いて、1965-1990年はその比率がほぼ1前後で推移していたのに対し、1956-1964年の期間と、1991-2007年の期間は、その比率がしばしば1より上方に乖離したことを示している(氏の示した図を見ると、特に1958、1961、1991-1994、2001-2005の4期間が上放れている)。
この乖離が生じた期間に共通しているのは、インフレ懸念の後退、である。つまり金融当局が信頼を勝ち得た結果、人々がインフレについて心配しなくなり、実際にインフレ率が下がった時期ということになる。皮肉にも、Nunes氏によると、グリーンスパンがあまりにも信認を勝ち得た結果、その政策の効きが悪くなった、ということになる。これは、グリーンスパン在任の終わり頃によく言われていた話であり、かつ、(Nunes氏自身が言及しているように)グリーンスパン自身が「波乱の時代」などで否定している見方である。ここでのNunes氏の分析はかなり粗っぽいが、ひょっとして追究すべき一つの方向を示しているのかもしれない。