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himaginaryの日記

2009-07-26

最低賃金引き上げは失業率を上昇させるか?

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民主党最低賃金を1000円に引き上げる構想が波紋を呼んでいる


論壇では、山崎元氏が、民主党の政策は大幅な失業増を招くとして批判的である。この山崎氏の批判についてはすなふきん氏も大いに同意している

一方、EU労働法政策雑記帳の濱口桂一郎氏は、一気に1000円に持っていくのは無理と断りつつも、その方向性に基本的に賛意を表し、山崎氏の見解に反対の姿勢を見せている。また、勝間和代氏は、今年初めの毎日新聞HP上の「クロストーク」で既に同様の提案をしている


こうした最低賃金経済学的論点については、「日本労働研究雑誌」での大竹文雄氏と橘木俊詔氏の対談において網羅的にまとめられている。そのほかの参考になるサーベイとしては、日本総研のレポート青学の金本俊佑氏の卒業論文高崎経済大学論集の石井久子氏の論文をネットで読むことができる。


純粋に経済理論的な立場から言うと、マンキューが2006/12/26のブログエントリで指摘した通り、最低賃金の引き上げは非熟練労働者雇用者への増税と等価であり、意味が乏しい。

反面、米国の実証研究では、最低賃金引き上げが理論に反して雇用を増やしたというカード=クルーガーの有名な報告もある*1クルーグマンは、11年前にはこの実証結果に懐疑的で、それが最低賃金引き上げ推進の根拠に使われることへの警戒感を露わにしていたが、その後は擁護派に転じ、最近では自ら最低賃金引き上げを唱えるようになった。

また、豪州でも、ジョン・クイギンビル・ミッチェル最低賃金を擁護する論陣を張り、その実質値を維持するために名目値を引き上げていくべき、と主張している(クイギンは、最低賃金を、CPIではなく賃金の平均ないし中位値にインデキシングすべきと主張している)。


クルーグマン、クイギン、ミッチェルらが最低賃金を積極的に推進する根拠は、反対派が懸念するような労働需給への悪影響が実証的には大して見られない半面、所得再配分効果が大きいことにある。


日本では、上述の対談で大竹氏も指摘している通り、データ整備や研究が外国に比べ遅れていて、実証に基づく議論が進んでいない。そこで以下では、取りあえず現在入手できるデータから簡単な分析を試みてみた。ヒントになったのは、前述のミッチェルブログエントリで示された実質最低賃金失業率の散布図で、その図からは、両者がほぼ無相関であることが読み取れる。なお、ミッチェルは時系列データを使用したと思われるが、日本には都道府県別データがあるので、それを利用して以下に同様の図を描いてみた。

f:id:himaginary:20090726022607j:image

失業率総務省推計値(平成20年平均)最低賃金平成20年10月改定前の平成19年度の値


これを見ると、ミッチェルの図と同様、最低賃金失業率は無関係と言えそうである(回帰係数はむしろマイナスになっている。ちなみに相関係数は-0.282)。

ただし、ここで注意すべきは、都道府県には生活費の水準に差があり、最低賃金もそれを勘案して決定されている点である*2。実際、以下に見られるように、各都道府県の平均賃金最低賃金は高い相関がある(相関係数=0.906)。

f:id:himaginary:20090726031514j:image

(平均賃金この表の所定内給与額を所定内実労働時間数で割って求めた)


そこで、最低賃金を平均賃金で割って生活水準の差を基準化し、それと失業率の関係を描画してみたのが下図である。

f:id:himaginary:20090726031513j:image

これを見ると、基準化した最低賃金失業率に正の関係が見られる(回帰係数8.9647のt値は1.92、p値は0.06)。回帰式によれば、最低賃金の平均賃金に対する比率が10%上昇すると、失業率は0.9ポイント弱上昇することになる。

平均賃金都道府県平均は1640円であり、民主党の唱える最低賃金1000円はその約6割に相当する。現在の最低賃金は4割程度なので、上図の関係式を単純に当てはめると、民主党案では1.8ポイント程度失業率が上昇することになる。

しかし実は、上図で最も失業率の高い2県(沖縄青森)を除くと、その正の相関関係は以下のように消えてしまう。

f:id:himaginary:20090726031512j:image

従って、前述の正の相関関係は頑健とは言えず、最低賃金引き上げが失業率を上昇させると言い切るのは、平均賃金で基準化したとしても少し難しいことが分かる。


また、総務省都道府県失業率では、平成21年1-3月期のデータが既に出ているが、その前年同期比と、昨年10月の最低賃金増額幅の関係を見たのが下図である。

f:id:himaginary:20090726032256j:image

今回の世界金融危機を反映して、和歌山県を除くすべての都道府県失業率が上昇したが、その地域差に最低賃金の年度改定のバラツキが与えた影響は皆無と言って良いことが分かる。


以上の大雑把な分析からは、最低賃金引き上げによる失業率の上昇は、諸外国の実証結果と同様、それほど大きなものにはならないと推測することができる。もちろん、失業率上昇には様々な要因が絡んでいるので、それらをきちんとコントロールした精密な分析をしないと確かなことは言えない。とはいえ、それらの他の要因を圧するほどの大きな影響を最低賃金失業率に与えないであろうことが、これらの初歩的な分析から伺える。


ただ、労働政策研究・研修機構この分析にある通り、パートタイマー賃金最低賃金に張り付いている県もあるほか、前述のロイター記事や大竹・橘木対談で指摘されている通り、サービス業や中小メーカでも最低賃金ベースの企業は少なからずあると思われる。この問題をさらに深く掘り下げるに当たっては、そうしたミクロ面への目配りが欠かせないことは言うまでもない。

*1cf. 前述の各サーベイ論文、ならびにここ

*2:各都道府県最低賃金の決定方法は、上述の日本総研のレポートの図表1-2に示されている。また、この厚労省の特設サイトの項番6に記述があるほか、茨城労働局には図解のページがある。

night_in_tunisianight_in_tunisia 2009/07/26 20:34 日本での最低賃金の具体的な水準がどれくらいか正確には把握してませんが、Bindしてるんでしょうか。実際にどれくらいの雇用者が最低賃金で雇用されているのでしょう?

ななしななし 2009/07/26 22:02 仮に失業率が上がらなかったとしても、インフレになりますよね。
年金とかは大丈夫なんですか?
いずれにせよ全国まとめて1000円ってのは乱暴な気がします。

SaunaSauna 2009/07/26 23:10 最低賃金600なんぼの県にいるので、
1000円で雇ってもいいと思うアルバイトは見つけるのが難しい。

himaginaryhimaginary 2009/07/26 23:20 night_in_tunisia様:

お久しぶりです。最近ブログを更新されていないようだったのでどうされたのかと少し心配しておりましたが、お元気そうで安心しました。

ご質問の数字は、本文の最後でリンクした労働政策研究・研修機構(若林亜紀さんの告発で有名になった組織ですね)の研究が参考になると思います。最低賃金ラインそのものの人数は載っていないのですが、最低賃金未満の人数が43万人(全体の1.6%)と報告されています。地域別最低賃金未満に限ると29万人(一般15万人、パート14万人)とのことです。また、地域別最低賃金×105%未満は69万人(一般26万人、パート43万人)という数字も挙げられています。

ななし様、Sauna様:

>いずれにせよ全国まとめて1000円ってのは乱暴な気がします。
>最低賃金600なんぼの県にいるので、1000円で雇ってもいいと思うアルバイトは見つけるのが難しい。

いずれもご指摘の通りかと思います。問題はどの程度時間を掛けてやるつもるなのか(当然地域ごとに目標期限は変えるべきかと思います)、ということですね。ある程度の年数を掛けてやるのであれば、インフレもそれほど問題にならず、むしろデフレ緩和に役立つかもしれません。結果的に、賃金を上げて総需要を回復させる、というロナルド・ドーア氏が以前から主張していた方策の実現ということになれば万々歳ですが、まあそれは楽観的に過ぎますね。

sakurantasakuranta 2009/07/27 12:22 himaginaryさま
データの出所を明らかにしてくださったので少し検証させていただきました。
トラックバック「自分に都合の悪いデータを無かったことにすれば自分の思い通りの結論が出るという論法」の方が
指摘されているように、データの除去は基本的にするべきではないと思います。
一般にoutlierとして除去するには分散の2倍(95%)ないし3倍(99%)超えるものでしょうが、
outlierを除去しなくてもp値が有意基準を外れているので、この相関関係は棄却されています。
失業率は率ですので誤差が正規分布しませんから単純回帰にも問題があるかと思います。
誤差に二項分布を仮定して(母集団が県ごとに違うとの指摘がブクマにもありましたので)
一般化線形混合モデルで県にランダム効果を与えて回帰した結果は以下の通りでした。
coef se(coef) z Pr(>|z|)
(Intercept) -4.274 11.92 -0.35846 0.720
minimum.mean 2.582 28.82 0.08961 0.929
p値は0.929ですので、最低賃金/平均賃金は失業率の説明変数として、全く機能していません。

またもっと単純に、スピアマン順位相関検定(正規分布していないため)をかけても
Spearman's rank correlation rho

data: x and y
S = 16805.03, p-value = 0.8498
alternative hypothesis: true rho is not equal to 0
sample estimates:
rho
0.02838611
で、データの除去を行わなくても無相関と言っても全く問題ないと思われます。

長々と失礼しました。

kokorohamoekokorohamoe 2009/07/27 12:59 異なる経済圏の同一時刻のデータを出してきても無意味なんじゃないでしょうか?同一経済圏の別時刻のデータの相関が必用だと思います。
地域を変えても良いなら、極論を言えば、インドと日本を比べて、日本の方が平均賃金が高いが、失業率も低いので平均賃金を政策で上げるべきという結論になってしまうかと思います。
経済が好調な地域が、それを理由に賃金が上がり、失業率も下がるという、および、その逆という経済圏の自然淘汰による賃金の上下の話と、政策で意図的に、かつ不況対策として不況下に、かつ急激に、それを引き起こした場合に安全か?という議論は似て非なる物かと思います。
銀行の貸し渋りによる中小企業のショートが取りざたされている昨今、議題は、平均賃金を上げることで大企業は耐えられるだろうが、ショートしがちな中小企業は耐えられるか?というのが争点で、この資料からは耐えられるというのは読み取れませんでした。
失業率だけで言えば、中小が潰れて大企業に吸収されれば、失業利率は変わらないという見方もできますが、そういう事ではないでしょう?という。

himaginaryhimaginary 2009/07/27 19:24 sakuranta様:

データ除去の件ですが、1つ2つのサンプルで結果が大きく左右されるという状況を示したかったのであって、結果を思い通りにしたかったわけではありません。p値も6%なので、微妙なところです。別にマクロスキーを熱心に信奉しているわけでもないのですが、機械的な統計処理オンリーではなく、グラフを少し眺めてデータを少し「揺すって」みるのもデータの理解には有効な方法だと考えています。ましてや論文ではなく、ブログ上での話ですので。

回帰分析についても、それで話を済ませたつもりではなく、取りあえず回帰分析ではこうなりました、くらいのつもりです(…そもそもEXCELしか手元にない上、統計分析にそれほど詳しいわけでもないのでので)。これがより精緻な分析のとば口になってくれれば、と思っておりました。その点、高度な統計分析でフォローしてくださったことに感謝します。

また、脚注でリンクしましたとおり、sakurantaさんのはてなブログでのカード=クルーガー解説は大変参考になりました。今後のエントリも(もし続けるおつもりがあれば)期待しております。


kokorohamoe様:

本文、ならびに上記のコメントに書きましたとおり、この分析ですべての疑問に答えようとは思っていません。あくまでも何らかの出発点になってくれれば、と思って書きました。それに、平均賃金について書いておられますが、今回は最低賃金を主題としておりますので、その点で元々話が噛み合っていないように思われます。
また、時系列分析だけが意味があり、クロスセクション分析は意味が無い、という議論につきましては、そちらの方が極論かと思われ、同意しかねます。エルゴード性を持ち出すまでもなく、クロスセクション分析も時系列分析も同じく有用というのが一般的な見方かと思います。

通りすがり通りすがり 2009/07/27 22:12 大竹文雄先生がブログの最新エントリーで最低賃金についての日本の実証研究を紹介してますよ。 それによると最低賃金で働いてる世帯主は少なく、貧困解決には有効な策ではなく、やはり若年層の失業率を高めると。

himaginaryhimaginary 2009/07/27 23:29 ご紹介ありがとうございます。こういう論文こそ日本語で皆が読めるようにしてほしいですね…。

tkhs5tkhs5 2009/07/28 01:49 はじめまして
最低賃金についての日本の実証研究とは
Kawaguchi&Moriの論文のことですね
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/09e032.pdf
This paper considers whether minimum wage is a well-targeted anti-poverty policy by
examining the backgrounds of minimum-wage workers, and whether raising the
minimum wage reduces employment for unskilled workers. An examination of micro
data from a large-scale government household survey, the Employment Structure Survey
(Shugyo Kozo Kihon Chosa), reveals that about half of minimum-wage workers belong to
households with annual incomes of more than 5 million yen as a non-head of household.
A regression analysis indicates that an increase in the minimum wage moderately reduces
the employment of male teenagers and middle-aged, married females, while it encourages
the employment of high school age youth.

似た研究として以下もありますね
http://gcoe.ier.hit-u.ac.jp/english/research/discussion/2008/pdf/gd09-074.pdf
The median wage in Japan has fallen nominally since 1999 due to a severe recession, while the
statutory minimum wage has steadily increased over the same period. We used large micro-
data sets from two government surveys to investigate how the minimum wage has affected wage
distribution under the unusual circumstances of de‡ation. The compression of the lower tail
of female wage distribution was almost completely explained by the increased real value of
the minimum wage. The steady increases in the e¤ective minimum wage reduced employment
among low-skilled, young and middle-aged female workers, but the mechanical e¤ect associated
with disemployment on wage compression was minimal.

tkhs5tkhs5 2009/07/28 01:58 切れてしまいましたので続き
つまり、最低賃金の上昇は、結局は、雇用の分布を歪める(被扶養者の女性ワーカーで有利、男性若年失業増で不利)ので、
それで生活保障を行うというのは政策としては、あまり効果的ではなく、それよりも世帯レベルでのsafety-net(生活保護、還付税)で対応するのが本筋であると言えるでしょう

NEET1FyfucNEET1Fyfuc 2009/07/28 13:43 >エルゴード性を持ち出すまでもなく、クロスセクション分析も時系列分析も同じく有用というのが一般的な見方かと思います。

統計学に踊らされすぎじゃないでしょうか。
てかそれ、エルゴード性を持ち出さないと言えない話でしょ。
この件そもそも「最低賃金が高い」ことが問題ではなく、民主党がマニフェスト(=実施期限を決めて)「最低賃金を上げる」ことが問題なわけです。
時系列分析が必用であり、クロスセクション分析が無意味なのは、後者の問題の場合だからです。

あなたが前者について論じたいのはよくわかりますが、きっちりと「切り分け」するべきでしょう。
でないと、「民主党政権でバイト代が1000円になるぜ、ひゃっほーい」な人を応援したいだけですか?と訝られてしまいますよ。

sakurantasakuranta 2009/07/28 18:41 http://d.hatena.ne.jp/sakuranta/20090728/1248773936
適当に時系列解析的なものをやりましたが、
最低賃金の「上昇」も失業率を左右するほどは大きくないと思います。
少なくとも30円程度上がったくらいでは。
1000円になると違うのは当然かと思いますが。

himaginaryhimaginary 2009/07/28 20:42 tkhs5様:

もう一つの論文のご紹介ありがとうございます。しかしこれも英語ですね。
それらの論文の冒頭での先行研究の紹介を読むと、これまでも都道府県レベルのクロスセクション分析が行なわれてきたことが分かりますが、いずれもネットでは入手できないのが残念です。「日本の貧困研究」を買うべきかな…。
EITCや負の所得税が本筋なのはその通りかと思いますが、インプリメンテーションが大変だから取りあえずより容易な最低賃金引き上げが議論されているのでしょうね。


sakuranta様:

更なる分析ありがとうございます。まあ、一気に千円にするのが無茶なのは衆目の一致するところみたいですので、やるとすれば数十円ずつ上げていく感じになりますかね。

ころころ 2009/08/09 17:43 私は1000円にして大いにいいと思いますけどね。
時給が700円ってなんですか?っていいたいです。
1日10時間で日給7000円 週休2日の22日働いても月給は157000円
所得税や住民税や社会保険を引くと手取り13万円いくかどうかって所でしょう。
これが1日8時間で残業なしならもっと酷いことになる。

こんな給与で生活している方がおかしい。 正社員ならこれにプラスして賞与なども
一気に上げると混乱を招くので一年に100円ずつぐらいゆっくり上げて欲しいです。
4年後には900円ぐらいになってるといいな〜〜がんばれ民主党!!

にちゃんにちゃん 2009/09/17 22:51 パート・アルバイトの失業状態は、失業率には、ほとんど加算されないですよね?(ハローワークで探す人が少ないから)
で、最低賃金上昇が失業率にたいして無関係という研究結果を単純に導きだしちゃっていいのでしょうか?
最低賃金が上がって、職を失う可能性が高いのはパート・アルバイトの人たちなんですが。

himaginaryhimaginary 2009/09/17 23:58 >ハローワークで探す人が少ないから
有効求人倍率の定義と混同していませんか?

にちゃんにちゃん 2009/09/18 08:39 失業率の算出方法ですが、
失業率=(完全失業者)/(15歳以上人口-非労働力人口)
になりますよね?

パート・アルバイトで職を失ったものの多くは、
非労働力人口に分類されてしまうため、失業率に反映されないと
思ったのですが違いましたか?
私の勘違いでしたらすいません。

零細企業主零細企業主 2009/09/25 17:04 今の不況下でいきなり時給を1.5倍にされたら、一人解雇しなくてはならないかもしれません。
雇用補助金が出る母子家庭の人とか60歳以上の人を探してハローワークで申し込んでもらい、
ホジョが出なくなったら使い捨てっていうことをせざるをえなくなります。
入ってすぐにだれでも出来る作業で時給1000円では、大手との価格競争についていけず、資金繰り悪化で倒産・・・。
本当に民主党には思いとどまって欲しいです。