Nick Roweが価格粘着性についてかなり長いブログエントリを書いている。以下では、小生なりの解釈を基にその概要を紹介する。
完全競争と労働賃金の粘着性
財市場における完全競争という条件下では、価格は企業にとって所与のものである。その際、企業は限界費用(Marginal Cost)がその価格に等しくなるように生産量を設定する。
上図で、MCは限界費用曲線を表すものとすると、価格がPであるならば、生産量はY*となる。
ここで、突然価格がPからP'に切り下げられたとする。その場合、企業は速やかに生産調整を行い、生産量はYまで減少する([1])。しかし、労働賃金をはじめとする生産コストも物価の低下を反映して速やかにMCからMC'に切り下げられるならば、すぐに生産量はY*まで回復する([2])。だが、賃金の下方硬直性のために生産コストが十分に切り下げられないならば、[2]のプロセスは起きず(あるいは起きたとしても中途半端なものに留まり)、生産は完全雇用水準に比べて縮小したままとなる。つまりこの場合、労働賃金の粘着性が生産の回復を妨げる主因となる。
その時、労働市場では、その粘着的な労働賃金における労働需給の少ない方で労働力が決定されることになる(下図)。これは、労働賃金を外生変数としたマーシャル的(=新古典派)モデルと言える。
独占的競争と物価の粘着性
しかしながら、バローの1977年の論文や、労働のサーチ理論ないしマッチング理論では、上述のような賃金を外生化したマーシャル的な労働市場モデルとは整合的でない結果が得られている。そこでニューケインジアン経済学では、労働賃金の粘着性は仮定せず、物価の粘着性のみ仮定している。
さらにニューケインジアン経済学では、財市場について完全競争ではなく独占的競争を仮定している。それにより、以下のメリットが得られる。
- 経済が需要制約型になっているという一般的に見られる事象がうまく説明できる。
- 労働賃金をはじめとする生産コストが基本的に生産量とは無関係になる。
上記の点は、独占的競争を表した下図を用いて理解することができる。
この図における生産の上限は、限界費用曲線(MC)が需要曲線(D)とが交わるY*であり、その時の価格はP*である。しかし、独占的競争の仮定の下では、そこまで生産が推し進められることはなく、限界収入曲線(MR)と限界費用曲線(MC)の交点で定まるYが生産量となる。その時の価格はPである(P>P*)。
今、その価格Pに粘着性があるとすると、需要曲線がD'やD''のように多少変動したとしても、価格は変わらずに生産量がY'やY''のように変動する。即ち、生産量は需要によって定まることになる。また、その際、生産量がMCとDの交点まで増加しない限り、価格と生産量の関係に生産コストが関わることはない。