言っていることはハイエク、やっていることはケインズ

ドイツのアンゲラ・メルケル首相を、Mark Schieritzというツァイト紙の記者がそう評しているMostly Economics経由)。


Schieritzが挙げるドイツのケインジアン的な財政拡大策とは以下の通り。

  • 2008年と2009年に総計800億ユーロという先進国最大規模の2つの財政刺激策を実施。その刺激策には、インフラ投資の拡大や自動車の買い替え推進策などが含まれていた。
  • 直近では、年率にして85億ユーロ相当の減税を実施。
  • 福祉国家なので、不況期に財政支出の自然増と税収の落ち込みが発生するいわゆる「自動安定化策」がドイツでは米国よりも強く効く。

一方、連立政権が打ち出した800億ユーロの緊縮策であるが、ドイツは財政支出削減が票になるおそらく世界で唯一の国であるため、水増しされている、とSchieritzは指摘する。この数字は4年間の数字を合計したものだが、二重勘定を弾くと、2011年から2014年の実際の緊縮額は264億ユーロに過ぎず、とても厳しい緊縮策とは言えない、とのこと。しかもその大部分は来年から実施されるので、今年が財政拡大的であることには変わりない、とSchieritzは言う。


Schieritzはまた、米国と比較するとドイツの財政支出の増加が際立つ、と言う。2007年第2四半期から2010年第2四半期に掛けてのドイツの実質政府消費(連邦政府、州政府、地方自治体合計)の伸びは8.6%だが、米国は5.8%に過ぎない。また、同期間の公共投資の伸びはドイツが20.6%、米国が5.7%である。ドイツでは政府のあらゆるレベルで支出が増えたのに対し、米国では中央政府の支出増が州レベルの緊縮で相殺された、とSchieritzは指摘する。


確かにドイツの財政赤字は米国に比べ小さいが、それは以下の2つの理由によるという。

  1. 初期条件の違い。2007年に米国は既にGDP比2.8%の財政赤字を計上していたが、ドイツは0.2%の黒字だった。
  2. ドイツでは経済の回復により税収が伸びた。最新の見積もりによると、2010年の税収は5月時点の見積もりに比べて154億ユーロ上方修正された。また、2010年から2012年に掛けては、主として景気回復により、620億ユーロの追加税収が見込まれるとの由。

以上の結果、来年の財政赤字GDP比3%以内に収まると見られている。


ただし、名目財政赤字は急速に改善している一方で、OECDによると、景気循環で調整した赤字は2010年に2.1%増加するという。つまり、ドイツで財政赤字の急拡大を防いだのは財政支出策を行わなかったためではなく、十分に行ったためである、とSchieritzは言う。つまり、財政積極策の無効性を示したどころか、その有効性を示した、というわけだ。


こうしてみると、なぜドイツ政府が財政支出策の成功を誇示しないのか不思議に思えてくる。Schieritzは、その疑問に対する答えを、財政積極策を倫理的な間違いと見做し、歴史的経緯から政府債務を政治的不安定と同一視するドイツの国民性に求める。とは言え、そうしたことも、誰も見ていない隙に政府が財政拡大策を取ることの妨げにはならなかった、というわけだ。


もちろん、財政政策だけが景気回復の要因になったわけではない。民間投資と消費も増加し、純輸出は第2四半期の9.1%成長の半分を支えた。しかし、政府の刺激策が民間の活動をクラウドアウトすることなく、むしろ崩壊を防ぐことにより支えたのだ、とSchieritzは最後に強調している。



ちなみに、ドイツ経済と言えば、先月末のエントリレベッカワイルダー独自のドイツ鉱工業生産指数予測指標を紹介したが、ワイルダー11/8エントリでその図をアップデートしている。

具体的には9月の鉱工業生産指数の発表を受けて実際のデータを更新したものだが、ワイルダーの予測指標通りの伸び率低下を示している(前年同期比が8月の10.7%から7.9%に低下)。もし今後もワイルダーの予測に沿った景気減速が続くならば、上記のSchieritzの財政政策勝利宣言は時期尚早だった、ということになりかねないが、果たしてどうなることやら…。