閾値型フィリップス曲線

なるものがNY連銀のレポートで提唱されている(Economist's View経由のWSJブログ経由)。


趣旨は単純で、通常の連続型のフィリップス曲線の代わりに、以下のように閾値を境に傾きが変わるフィリップス曲線を推計しよう、というもの。


式で言えば、通常用いられるような以下の(1)式の代わりに


失業率の値によってその係数βを切り替える(2)式を推計する、ということになる。

ここでπはインフレ率(1〜3期のラグが説明変数に入っている)、πeは長期の期待インフレ率、uは失業率ギャップ(実際の失業率とNAIRUとの差)、zは供給ショック項、εは誤差項である(πe、u、zは1期ラグで式に入っている)。なお、(2)式では、閾値の外では傾きβは同じとを仮定している(=閾値上限を上回った場合と閾値下限を下回った場合で切り分けてはいない)。


この閾値フィリップス曲線の推計では、(当然ながら)まず閾値を決めてやる必要があるが、レポートでは閾値γが上下で対称であることを仮定し、絶対値で(0.3、1.8)の範囲を0.01刻みで探索して、1.56という値を弾き出したという。これはストック・ワトソンの2009年論文*1フィリップス曲線が単変数の予測を改善する閾値として示された1.5%に近い数字である、とレポートでは指摘している。
その後、通常の回帰で(2)式の各パラメータを求めた結果、以下の値が得られたとの由。

(1)式の通常のフィリップス曲線の推計結果も同時に示してあるが、比較してみると、(2)式の閾値内部のβの大きさと統計的有意性が大きく下がっていることが分かる。


この閾値フィリップス曲線の式を用いて、2008年第1四半期以降のインフレ率の予測シミュレーションを1四半期ずつ行ったのが以下の図である(なお、レポートではインフレ率としてコアの個人消費デフレータを用いている)。ここでは右辺に入る2008年以降のインフレ率は実際の値は使わず、モデルの予測値を使ったとの由。そのため、細かな上下の動きは追い切れていないが、全体的な低下傾向は掴んでいる――長期インフレ期待は2%で一定としていたにも関わらず――とレポートでは評している。