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himaginaryの日記

2012-02-26

GDPとマネーストックとマネタリーベースの関係

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最近、経済成長は低迷しているのに預金需要の増大でマネーストックが増加しているというニュースを時折り目にする(例:ここここ)。そこで、マネーストックを被説明変数に、名目GDPマネタリーベースを説明変数に重回帰を行った場合、推計期間によって結果がどのように変わるか調べてみた*1

以下は、終了期を2011年に固定し、開始期を1981年から2003年まで1年ずつずらしていった場合の回帰係数の推移。

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これを見ると、バブル崩壊前を推計期間に含めた場合はマネタリーベースも名目GDPも概ね同程度の係数値(0.6〜0.8)を示していたのに対し、バブル崩壊後に限るといずれの係数値も急減し、名目GDPについてはマイナスにまでなってしまうことが分かる。

以下は上記の係数のt値の推移。

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名目GDPの係数はバブル崩壊後に限ると有意でなくなっている。一方、マネタリーベースは一貫して有意である。



ここでもう一つ気になるのが、マネーからGDPへの経路はどうなっているのか、という点である。上記の回帰結果が示唆する通り、同時期のマネーとGDPには有意な関係は無い。しかし、マネーにラグを持たせた場合は、どうだろうか?

下図は名目GDPを被説明変数、8期前(=2年前)のマネーストックを説明変数とした単回帰の結果である(上と同じく、終了期を2011年に固定し、開始期を1981年から2003年まで1年ずつずらしている)。

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バブル崩壊後に推計期間を限るとt値は下がり、有意と非有意の境目である2近辺で推移している。一方、回帰係数自体は推計期期間を短くすると一旦は低下するものの、その後は上昇に転じ、直近ではむしろバブル崩壊前を含めた場合より増加している。


また、上図の単回帰のマネーストックマネタリーベースに置き換えると、以下のようになる。

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こちらのt値は一貫して3〜4で安定している。係数はバブル崩壊後に限った時にやはり一旦下がるものの、さらに推計期間を短くしていくと僅かながら上昇傾向に転じる。


以上の結果からは、次のことが言えそうである。

  • バブル崩壊前に存在した名目GDPマネーストックの関係は失われている。即ち、最近では、いわゆる取引需要がM2の伸びに与える影響はあまり見られない。
  • マネーストックは2年程度のラグをもってGDPに影響する。M2の1%の伸びは名目GDPの1.3%程度の伸びにつながる。

なお、上の4つのグラフを、名目GDPを実質GDPに置き換えて描画すると以下のようになる。

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定性的な結果は、名目GDPの場合と変わらない。ただ、マネーストックの2年ラグの係数は直近では2近くにまで達している。


ここで注意すべきは、上記のうちマネタリーベースGDPの関係については、リーマンショックの影響も少なからず寄与している、という点である。以下は関係する4系列の時系列推移を描画した図であるが、リーマンショックGDPが急落する2年前に、量的緩和手仕舞いに伴いマネタリーベースが急減していることが分かる。

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ただ、一口にリーマンショックと言うものの、実際にリーマンが破綻したのは2008年第3四半期の終わりごろである。一方、名目GDPの前年同期比は2007年第4四半期にゼロ近傍まで低下している。そう考えると、いわゆるリーマンショックによるGDPの低下には、実はその前の金融引き締めも寄与していた、という解釈もできるのかもしれない。

*1:いずれの変数も四半期ベースの前年同期比。マネーストックM2平均残高を用いた。マネーストックマネタリーベース日銀の時系列データ検索サイトから、GDP内閣府サイト(ただし1994年以前は旧基準を使用)から取得した(M2の前年同期比は日銀で2004年3月以前についてマネーサプライに接続したものが用意されているので、それを用いた)。

ぴっちゃんぴっちゃん 2012/02/27 23:50 FedのほうのMBの変遷を見てみると、BOJと同時期に大幅にマネタリーベースを減少させてるんですね。
とくに2007年の2月。すこし遡ると2006年の10月から。
これによってその後世界的にキャッシュフローが滞っていく累積効果が起きてきてリーマンショックにつながったのではないかと思います。
つまり、Fedの非弾性的な金融政策がリーマンショックを引き起こしたのでは?という意味です。
となると、今のバーナンキの「インフレ率上昇が観測されたら引き締めればいい」といった非弾性的なやり口ではまたこの上のことと同じポカをやらかす可能性があるのではないかと思います。

みっちみっち 2016/08/07 08:07 拝読しました。大変興味深いです。

”終了期を2011年に固定し、”
のところを2014あるいは2015まで延長するとどうなるのでしょうか?

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