金融の軍拡競争

についてイングランド銀行のアンドリュー・ホールデン(Andrew Haldane)金融安定化担当理事*1講演したMostly Economics経由)。


ホールデンによれば、金融においてそのような軍拡競争が発生する要因は3つあるという。

  1. 情報の非対称性
    • どれだけリスクが取られているかを評価するのは情報の非対称性により難しいため、投資家らはランキングといった間接的な尺度に頼ることになる。
  2. 満期変換
    • 確実な短期借り入れの不確実な長期貸しという銀行のバランスシートの構造上、投資家は、いざという時に真っ先に取り付け騒ぎの列の先頭に立とうとする。それにより彼らは流動性の軍拡競争を惹起している。
  3. 勝者総取り
    • 金融サービスの中には業界トップの独占市場に陥りやすいものがある。


こうした金融の軍拡競争は別に目新しい話ではないが、その今日的な例としてホールデンは以下の3つを挙げている。

  1. レバレッジによる株式リターンの引き上げ競争と、エクイティオプションを通じてそれに付随して発生した報酬引き上げ競争
  2. 高頻度取引によるスピード競争
  3. 金融危機後の安全性への競争
    • 銀行取り付けの際の流動性への競争が安全性への競争に置き換わった形になっている


ホールデンによれば、この問題から得られる教訓は3つあるという。

  1. このような金融の軍拡競争は、本当の軍拡競争と同様、コモンズの悲劇のような最適でない均衡をもたらす。それを回避するためには、当局の介入は正当化される。
  2. 軍縮」を行う際には、業界トップだけを対象にするのではなく、業界全体を対象にするべき。さもなければ業界下位での競争圧力はむしろ高まってしまう。
  3. 規制ツールの判別。株式リターンの引き上げ競争に対してはレバレッジ規制や新たな評価尺度の導入、報酬引き上げ競争に対してはパフォーマンスと報酬のラグの長期化(10年以上など)、高頻度取引に対してはマーケットメイキングの導入やサーキットブレーカーの強化、安全性への競争に対しては透明性の向上、など。

*1:cf. 日本語サイトではここここでこの人の以前の講演を紹介している。