ブラード「マイナス金利ってありかも」

昨日紹介したデロングのブログ記事で、何考えているか分からんとこきおろされたFOMCの第4グループに分類されたジェームズ・ブラード・セントルイス連銀総裁が、WSJブログインタビューで意外にもマイナス金利に肯定的な見方を示している。

“I’m becoming more sympathetic” to the idea a new avenue of monetary policy stimulus could involve the Fed moving into “negative territory,” Mr. Bullard said. From the current level, “you could go to minus 25 or minus 50 (basis points). That gives it more punch” than simply cutting the level to zero, he said.

If negative rates were put in place, “it would definitely change the calculus for the banks,” Mr. Bullard said. The official noted “support has waxed and waned” inside the Fed for this action, but “now that other countries have tried negative rates, I think we could do that as well.”
The central banker acknowledged in the interview that negative rates would be a burden on the money fund industry. But he said that sector is in need of reform in any case, and “I wouldn’t hold monetary policy hostage to whether they are going to adopt reforms.”

(拙訳)
金融刺激策の新しい手法において「マイナスの領域」にFRBが踏む込むという考えに「共鳴しつつある」とブラード氏は述べた。現行の[訳注:25bpの付利という]水準から、「マイナス25ないし50(bp)にまで行けるのではないか。それは」単にゼロにまで切り下げるよりも「インパクトが大きい」と彼は述べた。
もしマイナス金利が実施されたら「それは銀行の損得勘定を間違いなく変えるだろう」とブラード氏は言う。彼は、そうした政策に対するFRB内部の「支持は勢いを失った」ものの、「他の国がマイナス金利を試行しつつある現在、我々もやれるのではないかと私は思う」とコメントした。
ブラード氏はマイナス金利が投信業界にとって負担になることを認めたが、この部門はいずれにせよ改革の必要があり、「金融政策を、彼らが改革に取り組むか否かについての人質とするつもりは無い」と述べた。

このブラードの発言を、スコット・サムナーは「皆が正気づき始めた(An outbreak of mass sanity)」と題したブログエントリで取り上げている。そのエントリの中でサムナーは、3年前のNY連銀論文にリンクし、その論文で自著論文が言及されていることを誇らしげに報告している。
ただし、そのNY連銀論文の著者の一人(Todd Keister)は、最近のNY連銀ブログ記事で、準備預金への付利の引き下げは大した効果は無い、と論じている*1


ちなみにブラードもインタビュー記事の後半で以下のように発言しており、

Mr. Bullard said he’s willing to be patient and collect more data before acting. But he also said given the current consensus on the committee, “I’d be open to some action”–as long as it was a “relatively smaller move.” He explained the trajectory of recent data doesn’t “justify the large policy moves” associated with bond-buying programs that expanded the central bank’s balance sheet.
(拙訳)
ブラード氏は、行動を起こす前に辛抱強くもっとデータを集めることに同意する、と述べた。同時に、現在のFOMCのコンセンサスに鑑みて、「比較的小さな動き」である限り「何らかの行動に同意する用意がある」とも述べた。彼は、最近のデータの動きは、中央銀行のバランスシートを拡大させる債券購入プログラムのような「大規模な政策を正当化しない」と説明した。

自らの推奨するマイナス金利政策は「比較的小さな動き」と見做しているようにも見受けられる。


その一方でブラードは、量的緩和については次のようにも述べている。

If the Fed were to adopt at some point a new asset-buying program, he said he’d prefer that it be open-ended and adjusted on a meeting-by-meeting basis, as opposed to adopting a preset size and end date for the purchases. A flexible bond-buying effort would be “the natural way” to go, and “maybe this way will be the charm if we decided to go that way,” Mr. Bullard said.
(拙訳)
もしFRBがある時点で新たな資産購入計画に乗り出すならば、予め購入の規模と終了期を設定する方式ではなく、期限を定めずに会合ごとに調節する方式を好む、と彼は言う。柔軟な債券購入計画は「自然なやり方」であり、「やるからにはそうしたやり方の方が魅力的ではないか」とブラード氏は述べた。

この発言は、ここで紹介した「フリードマンならば、QE2、QE3、…といった逐次的なやり方――こうしたやり方は前のラウンドが失敗に終わったような印象を与えてしまう――よりは、もっとシステマティックな方法を好んだだろう」というベックワースの指摘を想起させる。


今回のWSJインタビュー記事を読む限り、ブラードはデロングのいわゆる第4グループから第2グループに移行しつつあるという印象を受ける。タカからハトにまでには行かないが、コウモリになりつつあるイメージだ。同じく第4グループに分類されたリチャード・フィッシャーが、最近、自行(ダラス連銀)のウィリアム・ホワイトの論文*2を援用してタカ派色を一層強めている(cf. WSJ記事*3)のと比べると、猶更その感が強まる*4

*1:同記事はWSJブログの8/27記事で取り上げられたほか、Economist's View経由で本石町日記氏も呟いている:https://twitter.com/hongokucho/status/240279337784451072:twitter

*2:タイトルは「Ultra Easy Monetary Policy and the Law of Unintended Consequences」。この論文については、サムナーが、低金利とマネタリーベースの膨張は金融緩和を意味しない、というお馴染みの論理を持ち出して反論している。一方、FT Alphavilleでは、イザベラ・カミンスカが、かねてからFT Alphavilleが(マイナス金利を含む)金融緩和政策に投げ掛けている疑問を補強するもの、として取り上げている。

*3:本石町日記氏は双頭のタカと評している

*4:ひょっとすると、WSJインタビュー記事もサムナーも指摘するように、ブラードはFOMCでの投票権を現在有していないので、これ幸いとばかり結構自由な発言を楽しんでいるという側面もあるのかもしれない。もしくは、そもそもこの人はあまり政治的な配慮とかをせずに自分が気に入った学術研究の結果をストレートに発言に結び付けてしまう人なのかもしれない(これまで彼の言動を見ていると、どうもそういう傾向があるような気がしてならない)。