消費税引き上げ論者の簡易モデル

をデロングが以下の3つの方程式で示している*1

  1. インフレ期待:    E(π) = π + δ(rD - σ)
  2. フィリップス曲線:  π = E(π) + β(u* - u)
  3. 金融政策:      r = r* + γ(u - u*) + θ(π - π*)

ここでE(π)は期待インフレ率、πは現在のインフレ率、rは金利、Dは政府債務、σは基礎的財政収支の黒字、u*は自然失業率、uは実際の失業率、r*は自然利子率、π*は目標インフレ率、δ、β、γ、θはパラメータである。


第一式と第二式から、
  u = u* + (δ/β)(rD - σ)        ・・・(1)
となる。これと第三式から
  r = r* + (γδ/β)(rD - σ) + θ(π - π*)
が導かれる。従って*2
  r = [1/{1 - D(γδ/β)}][r* - (γδ/β)σ + θ(π - π*)]
金利の決定式となる。
Dが増加してD(γδ/β)が1に近づくと、インフレ率の僅かな上昇に対し金利を大幅に引き上げなくてはならなくなる。そして金利を大幅に引き上げれば、(1)式から失業率も大きく上昇する。一方、財政収支の改善は、それとは逆の効果を持つ。これが消費税引き上げ論者(デロングの言葉を借りればtaxmongers)の論理である。


ここで中央銀行がDをマネタイズするとどうなるか? アルゼンチンのように借り入れが自国通貨建てでは無い国については、マネタイズの噂が立っただけでE(π)への上方ショックが発生し、それがπを引き上げ、上述の失業率の大幅上昇につながる。


一方、日本のように借り入れが自国通貨建ての国については、Dを部分的にMに置き換えれば、その分の利払いの必要が無くなる。そして残りのDのデュレーションがゼロより大きければ大きいだけ、物価上昇によってDの実質価値が減り、デットオーバーハングの問題は緩和される。また、そもそも期待インフレ率の上昇は今の日本で望まれているものである。即ち、日本はアルゼンチンとは違うのだから、大きな声では言えないが、インフレを債務管理のツールとして使う余地があるのだ、というのがデロングの指摘である。

*1:このデロングのエントリはクルーグマンの消費税引き上げ反対論エントリを受けて書かれている。

*2:以降の式および論理展開はデロングのものをやや変更している。