ドイツの経済学者が本当に考えていること

WirtschaftsWunderというサイトが、今年の4月28日から5月27日に掛けて、ドイツの経済学会(社会政策学会)と共同でドイツ人経済学者に対してアンケート調査を実施し、会員のおよそ1/3の1002人から回答を得たという。その集計結果によると、ヴォルフガング・ショイブレ独財務相、イェンス・ヴァイトマン・ドイツ連銀総裁、ハンス=ヴェルナー・シンIFO経済研究所所長、クリストフ・シュミット独経済諮問委員会委員長といった名高い緊縮派ドイツ人のイメージとは裏腹に、大部分は米英の経済学者と同様の見解を示したとのことである。WirtschaftsWunderサイトを率いる経済学者Thomas Frickeが、結果の概要を南ドイツ新聞の記事にまとめたほか、英語版記事をINETサイトに上げているMostly Economics経由のMichael BurdaのVoxEU記事経由)。
以下はその記事で挙げられている主な数字。

  • 米国経済学者によるドイツの緊縮志向への批判には、ドイツ人経済学者の少なくとも5人に1人が賛同している。別の1/5は、海外の懸念は尤もだが、欧州には他に選択肢が無い、と回答した。ドイツの政策があらゆる点で正しいと信じているのは12.6%。
  • 5年前の前回調査*1では、経済状況に応じた歳出とある程度の債務を抱えることによって政府が基本的に経済を安定させることができる、と回答したのは18%以下だったが、今回調査では倍の36%になった。また、半分以上の経済学者が、政府による景気押し上げ策は、少なくとも2008年のリーマン危機後の世界的な景気後退のような特別なケースでは意味がある、と考えている。その手法に完全に反対する者は1割以下。危機前の2006年に実施された第一回調査では、ほぼ1/3がそうした押し上げ策は意味がないと考え、支持者は12%強に過ぎなかった。
  • 政府債務を削減するのは好況期の方が良い、と答えたのは70%近くで、2010年の60%強から明らかに増加した*2
  • 中央銀行は市場でのパニック的な投げ売りを防ぐために最後の貸し手として介入すべき、と答えたのはおよそ2/3。5人に1人はそうした手段を無条件に是認し、ほぼ半数は何らかの留保条件付きで是認した。そうした手段を完全に否定した連邦銀行支持派は27%だった。
  • ECBの国債購入について、守備範囲を超えているとして否定したのは36%。半数以上が、米国の代表的な経済学者と同様、ドラギの決定は適切だった、と回答した。
  • ドイツの貿易黒字は問題無い、と回答したのは1/5。約3割は問題があると認めたものの、この問題は赤字国側が解決すべき、と回答した。1/3は、クルーグマンスティグリッツと同様、この不均衡は問題であり、輸入につながる消費に補助金を出すなどして黒字の解消に努める責任が独連邦政府にはある、と回答した。4割近くの経済学者は、恒久的な内需振興策を求めた。
  • 2010年調査では、海外で働いたことのない経済学者は45%近くだった。今回、その数字は10%ポイント近く下がり、2/3が故国を離れる経験をした。また、半数以上が、ドイツが米国のように、経済学者が学界と政治の間を自由に行き来できるようになることを望んだ。

*1:ただし記事で挙げられている以前の2010年と2006年の調査は、独フィナンシャルタイムズが実施したものとの由。またその質問票は、1982年にドイツで実施された調査のほか、米国での同様の調査が基になっているとの由。

*2:記事ではこの結果について、70%近くがクルーグマンに同意、という小見出しを付けている。