サマーズ「FRBは長期停滞の可能性を強めた」

とサマーズが22日付けWaPo論説に書いている自HP転載記事;H/T Economist's View)。以下はその冒頭部。

It has been two years since I resurrected Alvin Hansen’s secular stagnation idea and suggested its relevance to current conditions in the industrial world. Unfortunately experience since that time has tended to confirm the secular stagnation hypothesis. Secular stagnation is a possibility. It is not an inevitability and it can be avoided with strong policy. Unfortunately, the Fed and other policy setters remain committed to traditional paradigms and so are acting in ways that make secular stagnation more likely.
(拙訳)
アルヴィン・ハンセンの長期停滞の考えを私が復活させ、先進国世界の現状と関連付けてから2年になる。残念ながら、それ以降に起きた事は、長期停滞仮説を確認する傾向にある。長期停滞は一つの可能性であって不可抗力ではなく、強力な政策によって回避することができる。遺憾ながら、FRBや他の政策当局は従来のパラダイムに囚われたままとなっているため、長期停滞の発生可能性を高めるような行動を取っている。


サマーズは、先週のFRBの利上げが間違いだった理由として以下の4点を挙げている。

  1. コアインフレが2%に到達する可能性を、利用可能なデータの殆どが示唆しているよりも高く見積もっている
    • インフレスワップは、FRBのお好みの指標であるPCEデフレーターが今後3年間で平均1%、5年間で1.2%、10年間で1.5%にしかならないことを示唆している。
    • インフレ予想のサーベイ指標は、上昇ではなく低下しつつある。
    • 品質変化を加味すれば、インフレ指標はさらに低くなるだろう。

  2. FRBは誤って2%のインフレを目標ではなく上限と見做しているようである
    • 物価水準目標論で論じられているように、インフレが目標を下回った期間が続いた後は、目標を上回る期間が続くべき、という議論は正当。
    • FRBインフレ目標を上回るリスクと下回るリスクが同じになるようにすべき、という議論も正当。
      • サマーズ自身は、過去のデフレの対価を考えると、目標を下回る方が上回るより高く付く、と考えている。

  3. FRBは、金利の水準とは別に、金利変化の速度が総需要に影響する、という認識の虜になっているようである
    • その認識は正しいかもしれないが、サマーズの知る限り、それを裏付ける分析は存在しない。
    • 金利を引き上げることによって引き下げの余地が生まれる、とのことだが、それは同義反復的に真実であるにしても、例えば2018年にFRB金利を引き上げて引き下げた場合の方が、ゼロに保った場合よりも需要が強くなる、というモデルはサマーズは知らない。
    • あるいは、例えば金利が2017年末に3%に達するとして、その利上げペースを後になって早める方が不況の可能性が高まる、というモデルも知らない。
    • サマーズに言わせれば、利下げの余地を生むために利上げすべき、という議論は、空腹感を満たす喜びのために今自らを飢えさせるべき、という議論と同類。

  4. FRBは長期停滞を過小評価している
    • 米国以外の世界から長期停滞が伝染するという認識を持っていない。また、中立金利を過大推計しているため、現在ないし将来の金融緩和効果を過大評価している。仮に名目金利が3%でインフレが目標を大きく下回っていたならば、利上げ圧力は最近見られたものよりもずっと弱かっただろう。
    • 利上げ願望は、フィリップ曲線の厳密な分析などではなく、ゼロ金利は病気の兆候であるが、月に20万の職を創出している経済が病気であるはずがない、という感覚に基づいている。厄介なことに、貯蓄投資バランスが根本的に変化しているため、ゼロ金利は思っているほど異常なことではないのかもしれない。