死の抱擁:政府債務破綻とバランスシート破綻のループ

というNBER論文をジャン・ティロールらが書いている(原題は「Deadly Embrace: Sovereign and Financial Balance Sheets Doom Loops」;昨年11月5日のECBコンファレンスでのungated版スライド版)。著者はEmmanuel Farhi(ハーバード大)、Jean Tirole(トゥールーズ・スクール・オブ・エコノミクス)。

以下はその要旨。

The recent unravelling of the Eurozone’s financial integration raised concerns about feedback loops between sovereign and banking insolvency, and provided an impetus for the European banking union. This paper provides a “double-decker bailout” theory of the feedback loop that allows for both domestic bailouts of the banking system by the domestic government and sovereign debt forgiveness by international creditors or solidarity by other countries. Our theory has important implications for the re-nationalization of sovereign debt, macroprudential regulation, and the rationale for banking unions.
(拙訳)
ユーロ圏での最近の金融統合の綻びは、国家の債務不履行と銀行の債務不履行の間に生じるフィードバックのループについての懸念を提起し、欧州銀行同盟を推進する契機となった。本稿は、そのフィードバックループの「2階建て救済」理論を提供する。同理論では、当該国の政府による国内銀行システムの救済と、海外の債権者による政府債務の免除ないし他国による援助を取り込むことができる。この理論は、政府債務が国内で保有される傾向への逆戻り、マクロプルーデンシャル規制、および銀行同盟の理論的根拠について重要な含意を持つ。


イントロダクションには以下のような一文がある。

An important feature of the theory is that the fates of sovereigns and their banks are deeply intertwined, and yet consolidating their balance sheet to produce a measure of “country indebtedness” would be seriously misleading.
(拙訳)
理論の重要な特徴は、政府とその国の銀行の運命は深く絡み合っているが、両者のバランスシートを統合して「国の債務」指標を作成するのは大きな間違いである、ということにある。


論文の主要な貢献としては、以下の2点が挙げられている。

  • 外部による銀行監督(例:銀行同盟)についての3つの理論的根拠の提供(この3つはそれぞれ監督の外部化の影響を受ける主体が異なる)
    1. 脆弱な国にとって、銀行監督の手を緩めないためのコミットメントとしての機能
      • その手を緩めると債務の持続可能性が危うくなる。厳格な監督は最終的に借り入れコストを低める。
    2. 緩い銀行監督は、外国銀行のリスクテイクの機会を増やしてしまう
    3. その結果、当該国の状況が悪化した際に他国が救済に駆け付ける必要が生じる可能性が増す
  • 国のポートフォリオ分散についての洞察の提供
    • 銀行は、金融の状況が悪化すると「救済プット」の価値が高まるので、自国政府債務へのエクスポージャーを隠すようになる
    • 政府には、いざという時に他の政府や海外投資家に助けてもらえるという期待から、銀行監督の手を緩める誘因が働く
      • 欧州では、おそらく以上の2つの要因により、2009-2010年頃に資本市場の国際化の傾向が止まり、国内で政府債務を保有する傾向が再び強まった


理論の枠組みとしては、日付0〜2の3つの日付が設定されており、日付0と日付1の設定は以下のようになっている。

  • 日付0
    • 国は、国債を発行する。その国債は(モデルの基本バージョンでは)日付2で満期を迎える。日付2での財政状況についての予想が国債スプレッドを決定する。
    • 銀行は、日付1での活動に備えて、自国の国債と(モデルの基本バージョンでは)海外の国債保有する。海外の国債は安全で自国の国債にはリスクがあるので、標準的な分散の考え方からすると、自国の国債保有割合はゼロとなる。
    • 国には銀行を監督する能力があるが、銀行のエクスポージャーへの監督の手を緩めるという選択肢がある。
  • 日付1
    • 銀行の支払い能力に影響するニュース(金融ショック)、日付2の財政状況に影響するニュース(財政ショック)のいずれか、もしくはその両方が発生する。
      • 銀行が自国の国債保有していると、財政ショックは金融ショックを悪化させる。
    • 政府は当初は銀行より消費者を優先し、銀行部門への資源の移転を嫌がるが、悪化した経済状況についても気に掛けているため、銀行の流動性不足が現実のものとなった暁には銀行救済をしないわけには行かなくなる。