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himaginaryの日記

2016-01-19

米国では国民皆保険制度は実現不可能なのか?

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ポール・クルーグマンが、個人的には国民皆保険制度を支持するものの、バーニー・サンダースの提唱する国民皆保険制度は非現実的であり、オバマケアを続けることこそが現実的だ、という論陣を張っている(18日付けブログ記事、およびそこでリンクされたNYT論説19日付けブログ記事)。


それに対しディーン・ベーカーが、クルーグマン批判は概ね正しいとしつつも、2点の異議を唱えている*1(H/T Economist’s View)。


一つは、保険業界や医療業界といった強力なロビー団体に対抗し圧力を掛けるためには、サンダース議員がやっているように、絶えず問題を公的な場の議論として俎上に乗せ続けることが必要であり、かつ効果がある、という異議である。そうした活動が国民皆保険制度の実現に直結することはないにしても、後退ではなく前進する政治的環境を作ることができる、とベーカーは言う。


もう一つは、国民皆保険制度において医療コストを下げるためにはあまりにも高過ぎる薬や治療は対象外とする必要がある、というクルーグマンが提起した論点に対する異議である。これについてベーカーは、以下の点を指摘している。

  • 多くの場合、薬の製造自体は高くない。問題は研究開発に掛かるコストであるが、それは製造時点では既に埋没費用になっている。
  • 製薬業界が特許独占により薬価に上乗せする限界費用との差額は、貿易において政府が課す関税や数量割り当てのようなものである。ただし、関税の場合は10〜20%という水準であるが、薬価においては1000%や10000%という水準に達する。関税と同様、そうした上乗せ差額は市場に歪みをもたらし、しかもその歪みは関税の場合に比べて遥かに大きい。
  • 研究開発費用に対価を払うことは必要だが、現状はあまりにも後進的な仕組みになっている。いわば、家族が取り残されたまま火事で燃えている家に消防士が駆け付けた際に費用を支払う仕組みになっている。その場合にはもちろん進んで多額の費用を払うことになるが、そうした状況をもたらす仕組みは設計が間違っている。
  • 必要なのは、研究開発費を最初に払う仕組み。それを実現するメカニズムは数多あり、ベーカー自身も臨床試験公的費用で賄うプランを提案したことがある。そのような改革は一夜にしてできるものではないが、現在の仕組みは信じられないほど無駄が多く、実際の治療費が極めて安いにも関わらず言い値を呑まざるを得ない状況に人々がいたずらに追い込まれている。すべての人にすべての費用を支払う必要は無い――実際に多額の費用を要する施術は存在するので――が、そうした状況を日常茶飯事のものとするのではなく最小化するような仕組みの設計に努力を払うべき。

*1:ベーカー率いるCEPRのサイトが攻撃を受けているとのことで、そのためにEconospeakに投稿している。

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