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himaginaryの日記

2016-03-21

デロング=サマーズに消費増税を当てはめたら

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ツイッターなどでの消費税の影響に関する議論を見て、ふと、デロング=サマーズ論文の計算に消費税を当てはめたらどうなるだろうか、ということが気になった。そこで、ここで紹介した一連の関係式を、財政刺激策から消費増税に置き換えたら(即ち、ΔGを-YnΔtに置き換えたら)どうなるかを考えてみた。


乗数効果(ここでYnは現在のGDP、mは乗数、tは税率を指す)
(1) ΔYn = -mYnΔt
乗数効果による税収のキックバックを考慮した債務減少分(ここでDは政府債務を指す)
(2) ΔD = -(1 - mt)YnΔt *1
乗数効果による将来のGDPの押し下げ効果(ここでYfは将来のGDPを指す)
(9) ΔYf = sΔYn

財政政策消費増税に置き換えたので、「債務GDP比率を一定に保つために必要な増税」は行わないことになり、それに関係する式は考慮しなくて良いことになる。ただ、増税によるラッファー効果は引き続き考慮することになる。消費増税の将来のGDPへのマイナス効果を、ラッファーパラメータξを用いて表わすと

 (4) ΔYf = -ξ(r-g)(1 - mt)YnΔt

となる。

この現在価値を(1)式と足し合わせた通時的な価値減少分は

 (5) ΔV = [-m - ξ(1 - mt)]YnΔt

である。

ラッファー効果と履歴効果を組み合わせると、

 (12) ΔV = [-m{1 + s(1 + ξt)/(r-g)}]ΔG

が得られる((1)式 + (9)式の現在価値 + 将来の税収減少tmsのラッファー効果の現在価値)。


ここで問題になるのがsの値である。一時的な財政刺激策ならば、将来に残る残存効果はデロングが置いたような10%や5%、あるいは1%といった小さな割合が妥当だろう。しかし消費増税は一時的ではなく、継続的なものである。もちろん、(例えばここで西山慎一ランカスター大准教授ツイートされているように)消費増税は潜在成長率には影響せず、実際の成長率は速やかに潜在成長率に復する、といった想定の下では、sは極めて小さな値に置くことになる。しかし、経済がそのように自己修正的であるという点については最近大いに疑問視されており(cf. ここここここここ)、安易にそれを仮定することは、近年の経済状況、ならびにそれを受けた近年の研究をあまりにも安直に無視していることになるように思われる。

例えば内閣府経済財政モデル(2010年版)では、2%の消費増税により潜在GDPの下方乖離幅が毎年0.03%ポイント程度拡大し、5年後には-0.14%となっている*2。そこで、ここではs=0.14/2=0.07と置くことにする。


その他の値については、m=0.2*3、t=1/3*4、g=0.4%*5、r=1%*6、ξ=0.25*7仮定した。すると、(12)式のΔVの値は-2.73となる。即ち、GDPに掛かる税率1%*8を引き上げることによる将来に亘るGDP押し下げ効果の現在価値は、GDPの2.73%ということになる。ただ、注意すべきは、上でおいたs=0.07というのはあくまでも内閣府推計の5年目までの累計であり、将来年数の範囲を拡大すればもっと大きくなる可能性がある点である。例えばs=0.2と置くとΔVの値は-7.42となり、s=0.3と置くとΔVの値は-11.03となって10%を超える。


では、消費増税の効果として喧伝される政府債務の削減効果はどうなっているであろうか? (2)式に上記のパラメータ値を代入して計算すると、ΔD=0.933となる。ただ、これはあくまでも単年の値なので、累積の現在価値を求めるために(r-g)で割ると、155.6という値が得られる。これは、1%の増税でも、無限の将来まで累積していけば、現在価値にしてGDPの155%もの債務削減につながることを示している。これは非常に大きな数のように思われる。しかし、それによる利払い節減効果を考えるためにrを掛けてやると、1.55という値になり、上述の-2.73という(sを保守的に見積もった場合の)マイナス効果の半分を上回る程度のプラスにとどまる。

ただし、利払いの節約効果が発揮されるのは、極限における債務の減少値によってではなく、むしろ年々の債務の減少においてである点には注意を要する。即ち、増税をしなかった場合に比べ、1年目にはΔD1(ここで添え字の数字は年数を表すものとする)、2年目にはΔD1+ΔD2、3年目にはΔD1+ΔD2+ΔD3、…のように債務が減っていくため、利払いの減少は毎年のその効果の累積で考える必要がある。実際に計算してみると、s=0.07で計算したマイナス効果の2.73という値は、およそ四半世紀の利払いの節減に相当することが分かる。s=0.2はおよそ44年、s=0.3はおよそ55年である。

ここで今一度良く考えてみる必要があるのは、そのような長期間に亘る利払い節減のために低成長率の履歴効果を甘受せよというのが本当に子孫のためになるのかどうか――ましてや長期停滞が叫ばれ、クルーグマンの言葉を借りれば「市場が事実上政府に借り入れて支出してくれと懇願している」という、通常政府債務について懸念されるクラウディングアウトとはおよそ正反対の事態が生じている時に――という点かと思われる。

*1:tは増税後の値。仮に増税前の値をt'とすると、t=t'+Δtになる。

*2こちらのp.8の(5)。

*3内閣府の経済財政モデル(2010年版)のp.8の(5)、および内閣府の短期日本経済マクロ計量モデル(2015年版)のp.12の2-1-5を参照。

*4郡司大志氏と宮㟢憲治氏の「1980〜2003年の日本の平均限界税率の推定」を参考にしつつ、デロングの値を踏襲。

*5日銀の推計値の過去8年の平均。

*6こちらのエントリで使用した財務省国債金利の過去8年の平均がおよそ0.9%であったことと、同期間(ただし消費増税のあった2014年を除く)のCPI前年比平均がおよそ-0.1%であったことから概算。

*7:デロングが引用した先行研究の結果を踏襲。

*8:デロング=サマーズの計算では税率tは消費ではなくGDPに掛かっているので、Δt=1%に対応する消費税率引き上げ幅は1%より大きくなる。

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