トランプに抗する正しいやり方

2月にトランプとベルルスコーニを比較したジンガレスのNYT論説を紹介したが、トランプが大統領に選出された今、改めてジンガレスが表題のNYT論説を書いている(原題は「The Right Way to Resist Trump」;H/T Economist's View)。

Five years ago, I warned about the risk of a Donald J. Trump presidency. Most people laughed. They thought it inconceivable.
I was not particularly prescient; I come from Italy, and I had already seen this movie, starring Silvio Berlusconi, who led the Italian government as prime minister for a total of nine years between 1994 and 2011. I knew how it could unfold.
Now that Mr. Trump has been elected president, the Berlusconi parallel could offer an important lesson in how to avoid transforming a razor-thin victory into a two-decade affair. If you think presidential term limits and Mr. Trump’s age could save the country from that fate, think again. His tenure could easily turn into a Trump dynasty.
Mr. Berlusconi was able to govern Italy for as long as he did mostly thanks to the incompetence of his opposition. It was so rabidly obsessed with his personality that any substantive political debate disappeared; it focused only on personal attacks, the effect of which was to increase Mr. Berlusconi’s popularity. His secret was an ability to set off a Pavlovian reaction among his leftist opponents, which engendered instantaneous sympathy in most moderate voters. Mr. Trump is no different.
We saw this dynamic during the presidential campaign. Hillary Clinton was so focused on explaining how bad Mr. Trump was that she too often didn’t promote her own ideas, to make the positive case for voting for her. The news media was so intent on ridiculing Mr. Trump’s behavior that it ended up providing him with free advertising.
(拙訳)
5年前、私はドナルド・J・トランプが大統領になるリスクについて警告した。大半の人々は笑った。彼らはそれはあり得ないと思ったのだ。
別に私に先見の明があったわけではない。イタリア出身であることから、この映画を既にシルビオベルルスコーニ主演で見ていたのである。彼は首相として1994年から2011年に間に計9年間イタリア政府を率いた。私にはどのような展開になり得るかが分かっていたのだ。
トランプ氏が大統領に選出された今、ベルルスコーニとの比較は、薄氷の勝利が20年に亘る話になるのを防ぐ方法について重要な教訓を与えてくれるだろう。大統領の任期制限とトランプ氏の年齢が国をそうした運命から救ってくれると思うなら、考え直した方が良い。彼の任期は容易にトランプ王朝に移行できる。
ベルルスコーニ氏がイタリアをあれほど長く統治できたのは、反対派の無能によるところが大きい。反対派は彼の人格問題に熱中するあまり、実のある政治論争が消失してしまった。反対派が個人攻撃にのみ力点を置いた結果、ベルルスコーニ氏の人気は増した。彼の秘訣は、左派の反対派のパブロフ的な反応を誘い出す能力にあったが、それはすぐに大半の穏健な有権者の同情を生み出した。トランプ氏もまったく同様である。
我々はこのパターンを選挙期間中に目にした。ヒラリー・クリントンは、トランプ氏がいかにダメかを説明することに力点を置き過ぎた。そのため、彼女もまた、自分自身の考えを宣伝せず、自分に投票することについての前向きの理由を説明しないことが多かった。マスコミもトランプ氏の行動を嘲笑することに熱心になるあまり、彼に無料広告を与える結果に終わった。

ジンガレスは、選挙後の抗議行動もこのパターンに当てはまっている、と批判する。トランプは正当な当選者であり、それに対する抗議活動は、イランのように正当か否かを少数のエリートが決定する、という感覚を醸成してしまう。また、トランプが何も決定していないうちに批判することは、将来に彼が本当にひどい決定をした時の抗議の正当性を弱めてしまう、とジンガレスは言う。さらにジンガレスは、選挙人にトランプに投票に投票しないように呼び掛ける請願も、トランプの術中に嵌るものだ、と指摘する。そういうことをしてしまうと、トランプが制度を回避して自分の欲しいものを手に入れようとした時に、反対する論拠が無くなってしまうではないか、というわけだ。
その上で、イタリアから以下の教訓を引き出している。

The Italian experience provides a blueprint for how to defeat Mr. Trump. Only two men in Italy have won an electoral competition against Mr. Berlusconi: Romano Prodi and the current prime minister, Matteo Renzi (albeit only in a 2014 European election). Both of them treated Mr. Berlusconi as an ordinary opponent. They focused on the issues, not on his character. In different ways, both of them are seen as outsiders, not as members of what in Italy is defined as the political caste.
(拙訳)
イタリアの経験は、トランプ氏を打ち負かす方法についての青写真を提供する。イタリアでベルルスコーニ氏との選挙戦に勝ったのは2人しかいない。ロマーノ・プローディと、現首相のマッテオ・レンツィ(ただし2014年の欧州議会議員選挙だけであるが)である。両者ともベルルスコーニ氏を通常の対抗馬として扱った。彼らは、ベルルスコーニの人格ではなく、論点に力点を置いた。両者とも、それぞれに違う形ではあったが、アウトサイダーであってイタリアで政治カーストと定義されているものの一員ではない、と見做されていた。

それを踏まえて、ジンガレスは民主党に以下の提言を行っている。

  • 共和党オバマ選出後に採ったような「何でも反対」戦略は、選挙戦術として有効であったとしても、ワシントンにとって有害であり、反エスタブリッシュメント感情を掻き立てる。新インフラ投資のように、トランプの提案にも民主党が賛成できるものもある。詳細については異論はあろうが、反対する点だけでなく同意できる点を見つけようとすることは、民主党の反対への信認を高める。
  • トランプ氏の人格に焦点を当てた反対は、ワシントンのカーストと戦う人々のリーダー、という栄誉をトランプに与えてしまう。また、原理原則に基づく各論への反対の声を弱めてしまう。