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himaginaryの日記

2012-04-28

福島第一による原発事故発生確率のベイズ更新

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について世上どのような考察がなされているか知りたいとふと思い、ぐぐってみたところ、このパワーポイントに行き当たった*1。書いたのはFrancois LevequeとLina Escobar。著者のうちLevequeはCERNA(Centre d'Economie Industrielle MINES ParisTech=パリ国立高等鉱業学校産業経済研究所)経済学部教授(HP)で、知財やエネルギー問題が専門で、EU Energy Policy Blogというブログに寄稿しているとの由。


そのパワーポイントの概要は以下の通り。


  • これまでに観測された炉心損傷事故は、14400年・炉数の中で、以下の11件*2
YearLocationUnitReactor type
1959 California, USA Sodium reactor experimentSodium-cooled power reactor
1966 Michigan, USA Enrico Fermi Unit 1 Liquid metal fast breeder reactor
1967 Dumfreshire, Scotland Chapelcross Unit 2 Gas-cooled, graphite moderated
1969 Loir-et-Chaire, France Saint-Laureant A-1 Gas-cooled, graphite moderated
1979 Pennsylvania, USA Three Mile Island Pressurized Water Reactor (PWR)
1980 Loir-et-Chaire, France Saint-Laureant A-1 Gas-cooled, graphite moderated
1986 Pripyat, Ukraine Chernobyl Unit 4 RBKM-1000
1989 Lubmin, Germany Greifswald Unit 5 Pressurized Water Reactor (PWR)
2011 Fukushima, Japan Fukusima Daiichi Unit 1Boiling Water Reactor (BWR)
2011 Fukushima, Japan Fukusima Daiichi Unit 2Boiling Water Reactor (BWR)
2011 Fukushima, Japan Fukusima Daiichi Unit 3Boiling Water Reactor (BWR)
  • 従って観測された事故発生確率は、1炉心・年当たり11/14400=0.00076
  • 世界には433の原子炉があるので、来年事故が起きる確率は、上記の確率と二項分布を前提とすると、1-(1-0.00076)^433=0.28
  • 二項分布にベイズ推定を適用すると、確率はベータ分布に従う(事前分布、事後分布共に)*3
    • 事前分布はπ0(p) = B [st, s(1-t)]として表わされる
      • tは期待確率、sは事前分布の強度を表わすパラメータ
      • この時、事前確率は期待確率に一致する(E[p]=t)
    • 事後分布はπ1(p) = B [α1, β1]として表わされる
      • α1=st+y1、β1=s(1-t)+n-y1(nは試行回数、y1は事故発生回数)。
      • 事後確率E(p|y1) = (y1 + st)/(n + s)
  • 事前分布としてNUREG 1560(1997)*4から求めたt=0.000065、s=24869を適用すると、福島以前の事後確率は0.000256、福島後の事後確率は0.000321となる*5。従って、福島の事故によって事後確率は25%増大したことになる。
  • 福島後の事後確率によって来年世界で事故が起きる確率を計算すると、1-(1-0.000321)^433=0.12となる*6
  • ただしこの計算では、原子炉の質の均一性や量の一定性、および事故発生確率の独立性を仮定しているほか、安全性向上による事故確率の低下を考慮していない。実際には事前確率は低下傾向にある(ソース)。また、原子力業界の経験が指数関数的に積み重なった後に起きた事故は福島のみ。
  • 二項分布の代わりに、生起率を予期せぬ運転停止要因に回帰させたポアソン回帰や、それを最近の事象に重み付けするようにしたポアソン指数加重移動平均(Poisson Exponentially Weighted Moving Average=PEWMA)を用いて計算したところ、以下のようになった(二項分布やベータ分布の結果と併せて表記)。
分布世界で来年事故が発生する確率福島効果
二項分布0.280.37*7
ベータ分布0.120.25
ポアソン回帰0.00030.027
PEWMA0.00202.70
  • 即ち、ポアソン回帰では福島効果は2.7%に留まったが、PEWMAでは2.7倍に達した。また、2011年時点の生起率は、ポアソン回帰が0.00026だったのに対し、PEWMAでは0.00196だった(ポアソン回帰の方が86.4%小さい)。ただし、こうした分析には、データ数が少ないことによる制約が掛かっていることには注意する必要がある。

ちなみにこのサイトによると、日本での稼動実績は2005年時点で1000炉年とのことなので、パワポの事前確率をそのまま適用して上記の二項分布と同様の計算を行うと、福島以前の事後確率は(0.000065*24869+0)/(24869+1000)=0.0000625、福島後の事後確率は(0.000065*24869+3)/(24869+1000)=0.000178となり、福島要因によって3倍近くに跳ね上がったことになる。原子炉を50基として来年事故が起きる確率を計算すると、福島以前は0.00312、福島後は0.00888となり、321年に一回の割合から113年に一回の割合に変化したことが分かる。


また、上記のまとめでは省略したが、パワポではベータ分布の事前確率を求める際に、NUREG 1560のほかNUREG 1150(1990)も参照している*8。NUREG 1150では5つの原子力発電所について炉心損傷事故確率を評価しているが、それを抜粋して集計すると以下のようになる。

発電所Mean95%
Surry0.000040.00013
Peach Bottom0.00000450.000013
Sequoyah0.0000570.00018
Grand Gulf0.0000040.000012
Zion0.000340.00084
平均0.00008910.000235

この平均の平均をtに当てはめ、95%点が一致するようにsを求めた、ということのようである*9


ただ、そこで少し気になったのが、パワポではNUREG 1150で報告されている事故発生確率のうち内部要因しか考慮していないように見える点である。SurryとPeach Bottomについては外部要因に関する確率も掲載されているので、それも併せて詳細を引き写すと以下のようになる。

Surry Peach Bottom
事故原因Mean95%Mean95%
Internal Events(内部事象)0.00004040.00015720.00000450.00001385
 Station Blackout(停電) 0.00000220.000006
  Short Term(短期)0.00000540.000023
  Long Term(長期)0.0000220.000095
 ATWS*100.00000160.00000590.00000190.0000066
 Transients(停電とATWS除く過渡変化)0.0000020.0000060.000000140.00000047
 LOCA*110.0000060.0000160.000000260.00000078
 Interfacing-system LOCA0.00000160.0000053
 SGTR*120.00000180.000006
External Events(外部事象)0.00008350.0003080.000060050.0002055
 Seismic(地震;LLNL*13推計)0.000120.000440.0000770.00027
 Seismic(地震;EPRI*14推計)0.0000250.00010.00000310.000013
 Fire(火災)0.0000110.0000380.000020.000064

ここでInternal Eventsの確率は内訳の単純合計、External Eventsの確率は地震の二つの手法による推計の平均に火災を足し合わせたものを示した。先ほどの5原子炉の集計表において、この2原子炉を外部要因を加えたものに置き換えると、全体の平均は0.0000891から0.00011781に、95%点は0.000235から0.0003377に上昇する。これを基にsを推計すると、9623となる。それから計算される事後確率は、福島以前が0.000409、福島後が0.000505であり、福島要因がおよそ25%という結果はあまり変わらないが、福島後の事後確率を用いた来年世界で事故の起きる確率は、先の0.12から0.196に上昇する。

一方、日本で事故が起きる事後確率は、福島以前の0.000107から福島後の0.000389と3.6倍になり、その変化率は先の推計より大きい。50基を前提とした事故発生確率に引き直すと、188年に一度の確率から52年に一度の確率への変化、ということになる。

*1:日本語では高橋洋一氏の考察を紹介したサイトにも行き当たったが、こちらの確率は仮想例に留まっている。

*2ソース

*3:cf. Wikipedia説明

*4:Vol.1がここ、Vol.2がここ、Vol.3がここからダウンロードできるが、Vol.1とVol.2は非常にファイルサイズが大きい(それぞれ47MBと92MB)ことに注意。

*5:福島後の事後確率は(0.000065*24869+11)/(24869+14400)として求めたものと思われる。しかし福島以前の事後確率は、単純に(0.000065*24869+8)/(24869+14400)として計算すると0.000245となり、パワポの数字とずれる。0.000256という数字に合わせるためには、(0.000065*24869+8)/(24869+14400-1705)のように分母の数字を1705ほど減らす必要がある。

*6:実際には0.129785297373498となるので、小数点以下を切り捨てた模様。

*7:11/8-1として計算した模様。

*8:そちらはここから入手できる。日本語ではこちらのレポートこちらのブログで紹介されている。

*9:ただしパワポではtは0.000089と小生の計算結果と一致しているものの、sは21882となっている。このsと整合的な95%点をExcelのBETADIST関数を用いて探索すると0.000212883となり、上記の0.000235より一割近く小さい。逆に、0.000235を95%点とするsは16221となり、パワポのsの3/4程度となる。また、NUREG 1560についても同様の検算を行おうと考えたが、ざっと見た限り該当データがグラフだけで示されており、数表が見つからなかった。

*10:Anticipated transients without scram。ここの説明によると、「スクラム(BWRでの原子炉緊急停止の呼称。PWRでは原子炉トリップと称する。)失敗事象。原子炉スクラムが要求されたにもかかわらず、原子炉安全保護系(あるいは停止系)の故障などにより原子炉がスクラムしない事象のことをいう。」

*11:Loss-of-coolant accidents=冷却材喪失事故

*12:steam generator tube rupture=蒸気発生器細管破断

*13:Lawrence Livermore National Laboratory

*14:Electric Power Research Institute

ああああああ 2012/04/30 22:47 いっぺんしか起こっていない事故なんだから、確率というのは無意味ですよ。確率というのは何度も起こるような事象についてのみ当てはまる。(大数の法則が成立する例。)

 今回の事例は、確率ではなくて、頻度です。それは保険などの計算には統計的に役立つが、数学的には「事例の数が少なすぎて確率的には意味なし」(誤差が大きすぎる)と結論されます。

 つまり、本項の内容はすべて無意味。それが正しい認識です。

akeonakeon 2012/05/02 09:34 >あああ さん
確率で原発の安全性を主張することが無意味だったということを証明したということに大きな意味があります。
つまり、無意味な理由付けがまかり通っていたということですね。

msms 2012/12/02 23:29 0.000389/年の確立で事故が起きて、復旧にかかるマイナスの費用/耐用年数。
残りの0.999611/年の確立で正常運転できて、社会にもたらすプラスの費用/耐用年数。
結局、このギャンブルは得をするのか?
数十年の運用期間の期待値が知りたいです。

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