Hatena::ブログ(Diary)

himaginaryの日記

2016-12-31

デス・スター破壊の経済学

|

デビッド・ベックワース経由で、昨年末に「It’s a Trap: Emperor Palpatine’s Poison Pill」という論文が出ていたことを知った。著者はセントルイスワシントン大学のZachary Feinstein。以下はその要旨。

In this paper we study the financial repercussions of the destruction of two fully armed and operational moon-sized battle stations (“Death Stars”) in a 4-year period and the dissolution of the galactic government in Star Wars. The emphasis of this work is to calibrate and simulate a model of the banking and financial systems within the galaxy. Along these lines, we measure the level of systemic risk that may have been generated by the death of Emperor Palpatine and the destruction of the second Death Star. We conclude by finding the economic resources the Rebel Alliance would need to have in reserve in order to prevent a financial crisis from gripping the galaxy through an optimally allocated banking bailout.

(拙訳)

本稿では、スターウォーズにおいて、完全武装で運用を開始した月サイズの戦闘基地(「デス・スター」)が4年の間に2つ破壊されたこと、および、銀河系政府が瓦解したことの金融面での影響を研究する。本研究では、銀河系内の銀行・金融システムのモデルをカリブレートしシミュレートすることに力点を置いている。それによって、パルパティーン皇帝の死と第二デス・スターの破壊によってもたらされたであろうシステミック・リスクの水準を測定している。結論部では、最適配分された銀行救済によって銀河系を掌握することを通じて金融危機を防ぐために、反乱同盟軍が予備として保有しておくべき経済資源を示す。


論文ではデス・スター建造費用と銀河系総生産額(Gross Galactic Product=GGP)について以下のような試算を行っている。

  • 第二デス・スターの建造費用=4垓1900京ドル
    • 第二デス・スターの直径は900キロなので、使用される鉄の量だけで2垓2600京ドルとなる*5。それ以外の費用は第一デス・スターと同様と考えられるので、2垓2600京ドル+1垓9300京ドルで4垓1900京ドルとなる。
  • 銀河系の平均成長率を2%と仮定すると*6、4ABY(After the Battle of Yavin)のGGPは60.9垓ドル。従って、残された負債額はGGPのおよそ8%ということになる。

Feinsteinは、この数字を用いて、銀行業界や資産価格に関する幾つかの前提の下に債務危機シミュレーションを行い、反乱同盟軍は銀行救済費用としてGGPの15〜20%を用意しておく必要があったが、とてもそれだけの金額保有していたとは思われないので、パルパティーン死後に銀河系大恐慌に陥っただろう、という結論を出している。

*1cf. ここ

*2:リンク先では1.08 x 1015 tonnes(1080兆トン)となっているが、体積=28,591.2立方メートル、総排水量=22000トンの英海軍イラストリアスcf. イラストリアス (空母・2代) - Wikipedia)をベースに直径=140キロの第一デス・スターのトン数を求めた試算を改めて計算し直してみると、4/3*π*(70*10^3)^3*22000/28591.2=1.10554 x 1015となる。試算結果からすると、Feinsteinもそちらの数字を用いたものと思われる。

*3論文のリンク先はリンク切れだったので、ここではぐぐって見つけた同名の記事の別のリンク先を使用。

*4:リンク先ではlong ton(英トン)で表記されているが、概算ということもあり、Feinsteinはtonne(メートルトン)との差(約1.6%)は無視したものと思われる。

*5:先の試算サイトによると、第一デス・スターの鉄の費用は85京2000兆ドル(Feinsteinはこの試算結果はそのまま用いたと見られる)。

*6:25,000年間技術進歩が無いこと(cf. この記事)、および、反乱軍の存在に見られるような政治的不安定さに鑑みると、これは高い数字、とFeinsteinは評している。

2014-11-10

誰がために壁は倒れた? 資本主義への移行の収支決算・おまけ

|

昨日紹介したブランコ・ミラノヴィッチのエントリに以下のようなコメントを書いた:

良記事です。しかし、ポアンカレ予想を解いたことも偉大な科学的業績の一つとして数えられるのではないかと思います。あと、アレクサンドル・ニコラエヴィチ・ソクーロフとニキータ・ミハルコフは現代の著名な映画人として挙げられるのではないかと思います。それと、ラドスワフ・シコルスキは興味深く重要な政治指導者とおそらく言えるのではないでしょうか?


すると、以下の応答コメントを貰った:

Agree. Although Mikhalkov was already well-known before the transition, and I am not sure how internationally influential he is. On political leaders, yes, several like Sikorski, Vaclav Klaus and perhaps Maar have become better known.

(拙訳)

同意。ただ、ミハルコフは移行前に既に有名であった。また、彼の国際的影響力がどれほどのものかについては確信が持てない。政治的指導者について言えば、確かに、シコルスキ、ヴァーツラフ・クラウス*1、そしておそらくはMaar*2といった幾人は名前が知られるようになった。

*1cf. Wikipedia

*2:…誰?

2014-05-23

アナと雪の女王とFRBと市場

|

という一見関係無さそうなお題を結び付けたProject Syndicate論説をモハメド・エラリアンが書いている(H/T Mostly Economics)。

以下はその概要(ネタバレあり)。

  • 11歳の娘と「アナと雪の女王」を見に行った際、会ったばかりの人と結婚するべきではない、というメッセージのディズニー映画は異例だ、と娘に指摘された。
  • ディズニー映画を観る際、我々は、王女が魅力的な王子とすぐ恋に落ちて「その後ずっと幸せに暮らしましたとさ」という物語を期待するように条件付けられている。困難や障害があっても、それらはすぐに克服される。
  • 同様に、市場参加者はこれまで長い間、FRBの採用する新政策に直ちにきっぱりと恋に落ちることによって十分な報酬を得てきた。障害があったとしてもすぐに克服されてきた。その結果、両者は幸せに暮らすことができた:FRBは高い雇用水準と安定した物価水準という二つの責務をうまく追求することができるようになったと感じ、投資家は巨額の金銭的報酬を手にする機会を得たと感じた。市場参加者の間では「FRBと争うな」が決まり文句となった。実際、FRBは世界で最も強力な中央銀行である。
  • 近年のFRBの責務には、事実上、金融システムの安定が付け加わった。市場参加者は、FRBが責務を果たしその政策が効果を発揮するためには、自分たちが必要とされていることを知っている。そのためFRBは、議事録の公開を早めたり議長の記者会見を定期的に開くなどして、市場に対する「透明性」をここ数年高めてきた。
  • 2008年の世界金融危機以降、FRBが資本市場を鎮めようとして非伝統的手段に訴えるようになると、両者のロマンスはさらに強固なものとなった。FRBは、市場の機能、資産の評価、資産価格の変動により深く関わるようになった。市場もFRBにもっと依存するようになった。
  • 当初、中央銀行家たちはこのロマンスを育むことに熱心だった。そのことが経済成長、雇用、物価安定、金融システムの安定、といった政策目的に適うと考えたためである。しかし最近では、この共依存関係が過剰なリスクテイクとバブル的な評価を生み出しているのではないか、と懸念する者も現れた。このことによってFRBの政治的独立が損なわれるのではないか、とまで懸念する者もいる。2週間前、離任するジェレミー・スタイン理事は、FRBの市場へのガイダンスが「より定性的に」「より非決定的に」なっており、従ってより不正確になっている、と述べた。
  • 映画のアナと同様、市場が、自分とFRBの関係が変わっている(そして変わるべき)、ということを認識するのには時間が掛かるだろう。その認識のためには、映画と同様、ある種のショックが必要となるかもしれない。ただしFRBはハンスのように市場の占領を目指しているわけではないので、結末は映画ほど劇的にはならないだろうが。
  • ということで、ロマンスは続くだろうが、かつてほど熱く無条件のものとはならないだろう。やがて実体経済が映画でクリストフが演じた役割を果たすと期待したい。ただしその点については残念ながら、その後ずっと幸せに暮らしましたとさ、となるかどうかを予言するのは時期尚早。

2014-01-30

いかにして経済学者が博士の異常な愛情をインスパイアしたか

|

と題したエントリ(原題は「How an Economist Helped Inspire the Movie Dr. Strangelove」)で、マンキューがハーバードケネディスクールのニュースサイトの1/28付け記事に、「それはもちろんトーマス・シェリングだ(Thomas Schelling, of course.)」というコメントを添えてリンクしている

以下は記事からの引用。

After being asked by a magazine editor to survey a series of fictional accounts of nuclear war, Schelling became very interested in the book “Red Alert” by British author Peter George. He recalled the story’s plot as "the first plausible, detailed examination of how a war might actually get started.” His article caught the eye of Stanley Kubrick, who quickly secured the rights to “Red Alert.”

Kubrick travelled to Cambridge to meet with Schelling and George. The three spent an afternoon wrestling with a considerable plot hole: when “Red Alert” was written in 1958, inter-continental ballistic missiles were not much of a consideration in a potential U.S.-Soviet showdown. But by 1962, ICBMs had made much of the book’s plot points impossible. The speed at which a missile strike could occur would offer no time for the plot to unfold. "We had a hard time getting a war started,” said Schelling.

Schelling’s involvement with the production ended there.

(拙訳)

雑誌の編集者に、幾つかの小説での核戦争が始まる経緯を調べてもらうように頼まれたシェリングは、英国の作家ピーター・ジョージの小説「赤い警報」に非常に興味を惹かれた。彼は、「戦争が実際に開始されるかもしれない経緯を提示した初めて説得力のある綿密な調査」としてその小説のプロットを記憶している。彼の記事はスタンリー・キューブリックの目に留まり、キューブリックはすぐに「赤い警報」の権利を押さえた。

キューブリックはケンブリッジを訪れ、シェリングとジョージに会った。3人はある日の午後を費やしてプロットの大きな穴に取り組んだ。1958年に「赤い警報」が書かれた時には、大陸間弾道弾は起こり得る米ソ戦争の中で重要な役割を果たすとはあまり考えられていなかった。しかし1962年までにICBMは、小説のプロットの要点の多くを実現不可能なものとしていた。ミサイル攻撃が開始されるまでのスピードは、小説のプロットが展開する時間の猶予を与えないであろう。「我々は戦争を始めさせるのに苦労した」とシェリングは言う。

シェリングの映画製作との関わりはそこまでだった。

ちなみに、記事でリンクしているインタビュー映像の中でシェリングは、「あの映画が製作されるきっかけを作ったことは返す返すも私にとって喜ばしいことだった(I was always happy that I had stimulated that movie.)」と述べている。


なお、ぐぐってみて気が付いたが、このエピソードは8年前に田中秀臣氏がMarginal Revolution経由で紹介している。そのMarginal Revolutionエントリの元ネタ(ボルティモアサン紙記事)からの引用によると、プロットの穴を塞ぐ最終的な解決策は空軍の誰かを発狂させることで、それによりブラックコメディという方向に話が進んだという。シェリング自身は真面目な映画にしてほしかったが、映画の出来栄えには満足したとの由。

2012-02-24

デススターは割安?

|

タイラー・コーエンBrad Plumer(エズラ・クラインのブログ)でもリンクされているが、こちらのWIRED日本語記事で報じられている通り、リーハイ大学の学生たちがデススターの建造費用の試算を行った。その結果、原材料費だけでも世界のGDPの13,000倍になるとの結果が出たという*1


これを受けてケビン・ドラムは、デススターは実は驚くほど割安な兵器システムなのではないか、と述べている。というのは…

  • 全体の建造費は材料費の100倍としよう。すると、世界のGDPの130万倍ということになる。
  • スターウォーズの世界は現在の我々から見て500年ほど未来に相当すると思われる。2%成長を仮定すると、500年後のGDPは今の2万倍になっている。つまり、その時点のGDPの65倍となる。
  • 最初のデススターは、建造に20年掛かった。従って、年間当たりにすればGDPの3倍程度となる。
  • 銀河共和国/帝国が1万の惑星を擁しているとすると*2、全体のGDPの0.03%ということになる。これは現在の米国に換算すれば年間50億ドル程度に過ぎない。

*1:ちなみに以前にも同様の試算が行われたようだが、そちらは原材料費(今回と同じく鉄と仮定)だけでも今回よりも二桁大きな数字となっている。今回の計算では[2016/12/31修正]英空母を参考に体積と重量の関係を求めたのに対し、そちらは単純に稠密であることを前提にしたこと、および、単なる計算間違いがその差につながったものと思われる。

*2:[2/26追記]ドラムはここをソースに175万という説を追記で紹介している。