Vermilion::text 515階 窓の無い廊下「last one」

その角を曲がると細く長い廊下に突き当たった。視界に入る1メートルほど先、確認できる限りでは窓が無い。永遠の闇のようなその先に飲まれそうな感覚さえおぼえる。窓が無いはずなのに手に持つランタンの明かりが揺れる。恐怖心と好奇心を両天秤にかける。今なら先に進める。

進めどもただひたすら窓の無い道が続く。明かりは自ら持つランタンのみ。緊張の所為か、兎に角喉が乾いて仕方が無い。一体何所まで、何所へ行くのだろう。

はたと足が止まる。自分の意思では無い。進みたくてもそれ以上足がでないのだ。なにか障害物があって進まないような感じである。足元をランタンで照らすと足元に1本の白い線が引いてある。ランタンで照らしてよく見るとその線は壁を這い天井をつたってまた自分の足元へ戻ってきている。まるでゲートのように引かれている。

「そこは最後の一線だよ」背中の方から声がする。声から察するにまだ幼い子供。振り向くと蝋燭の炎に照らされた少女の顔が有った。「最後の一線だから、そこを越えたら戻って来れないよ」少女はこちらに顔を向けずじっと蝋燭の炎を見つめている。「今までいろんな人がそこを超えたけど、みんな戻ってこない。戻って来れないんだって。」一体何があるんだ、この先には。「楽園があるとも言うし、果て無き苦しみがあるとも言うし、どれが本当か解らないよ。」

何故か先まで好奇心が勝っていた自分の心に暗い影が落ちていく。戻れない、其れに対して恐怖心が膨らんでいく。まだ自分と切り離せないもの。生活、家族、未来。ここで切り離したらだめだと自分の中の何かが引き止めている。気が付くと1歩2歩と後ずさりしている自分がいた。恐い。震える手に握られたランタンの明かりは小刻みに揺れる。戻りたい。「戻りたいと思うなら、まだ帰れる。」少女は自分に対して微笑みかけてきている、様な気がした。でも恐怖心だけが増大していく。後ずさりした足は自然と走り出した。兎に角離れたい。

「戻りたいモノがあるうちは、コワイと思ううちは、まだここに来なくて大丈夫だよ」